巻の六十二 狐駆け落ち(前)
巻の六十二 狐駆け落ち(前)
仙台を発った直也と弥生は北への旅を続けている。
今年の梅雨は雨が少ないので旅もはかどり、一関、平泉と辿った二人は、中尊寺金色堂にやって来た。
ここは俳聖松尾芭蕉が、「五月雨の 降残してや 光堂」と詠んだ場所であるが、まだこの時芭蕉は訪れてはいない。金色堂も荒れ果てており、栄枯盛衰の人の世を感じさせる佇まいであった。
「かつて藤原氏が栄華を誇ったというけれどこの有様はひどいものだな」
直也が正直な感想を口にすると、
「そうじゃな、儂はちょうどその頃は殺生石に囚われておったさなかじゃが噂は耳にした」
弥生は鎌倉と奥州との確執、そして秀衡の死後、頼朝は奥州を攻め滅ぼした事を歩きながら語った。
そして二人は水沢へと向かう。
「ここはその昔、日高見国と言うてな、アテルイという男が治めておったのじゃが、時の朝廷はこの地方も支配しようと、
坂上田村麻呂という将軍を送って平定させたのじゃ」
「ああ、知ってるよ、清水寺の元を建てた人だな」
「そうじゃ、立派な男じゃったな。...アテルイもひとかどの人物じゃったが惜しいことをした」
そんな話をしている二人の前に、やはり男と女の二人連れが歩いているのが目に入った。
直也と弥生の歩く速度は速い。健脚な旅人よりも速いであろう。しかし二人連れを目にすると弥生は速度を緩めた。
「弥生?どうしたんだ?」
弥生が何かを警戒していることを感じた直也は小声で尋ねる。
「…お主でも気がつかんか。無理もない。巧みに化けているからのう」
「だから何が?」
弥生はそっと前を行く二人連れを指差して、
「女の方は…狐じゃ」
「えっ?」
今の直也は妖怪変化も見分ける事が出来るのだが、その直也にも分からないほど巧みに化けているらしい。
遠くから、しかも後ろ姿ではよく分からないが、二人とも直也と同じくらいか、すこし上、来ているものも悪くない。まあ狐の方は術でどうにでもなるのだが。
「男の方は…女が狐だって知っているのかな?」
「どうじゃろう。…たぶらかされているのなら…何とかしてやりたいのう」
弥生としても、同族である狐の評判を落とすような真似は黙認出来ないのである。
その二人連れはちょうどその先にあった茶店で休憩するようだ。直也と弥生も急ぎその茶店へ行き、隣に腰を掛けた。
お茶とわらび餅を注文し、食べながらちらちらと二人を観察する。男の方はどこかの若旦那といった感じの優男。女は美人と言うよりも可愛いと表現した方がいい、小柄で細身の娘である。仲は良いようで、にこやかにお茶をすすり、わらび餅をつまんでいた。
さて、どう話しかけたものかと直也が思案していた時。
「お武家様、どちらへ行かれるのですか?」
思わぬ事に、男の方から直也に声を掛けてきたのだった。
武家姿にして日の浅い直也は一瞬誰に声を掛けたのかとまどったが、自分に向けた問いだと悟り、
「特に決めてはいない。北を目指しているだけさ」
そう答えると、
「もしよろしければ、花巻まで道連れになって頂けないでしょうか?」
そう言ってきたのだった。
「それは構わないけど…何故?」
男は、
「この先、最近物騒だとか聞いたので…いえ、守って頂こうとかいうんじゃなくて、お武家様が一緒なら追い剥ぎの類も出ないだろうと思いまして」
「守らなくてもいいったって出たらそうも言ってられないだろう」
「あ、そ、そうですね…」
直也は笑って、
「いいよ、一緒に行こう。…俺は上田直也、こっちは弥生」
「…申し遅れました、私は達吉、これは女房でおるいと申します」
「るいと申します、よろしくお願いいたします」
狐の化けた女が頭を下げた。
「ふうん、生まれは会津か、それにしては訛りがないな」
「ええ、江戸の伯父の店で修業してましたから」
「修業?」
「あ、商いの修業です。小間物屋なんですよ」
そう言って達吉は背中の行李を振って見せた。
一行は今、話をしながら街道を北上中。道は河原沿いとなり、両側は松並木である。
達吉は直也と並んで歩きながら良く喋った。一方おるいは弥生と並んで歩いているのだが、寡黙でほとんど喋らない。
弥生を警戒しているのかも知れない。
「おるいさんとはどこで?」
「ええ、おるいとは王子の方へ小間物の商いをしに行った時に知り合いました」
そこから延々と惚気話が始まったので直也は苦笑を禁じ得なかった。
弥生はと言えばおるいを観察することに余念がない。だが弥生がどう見てもおるいには邪念が感じられなかった。
(もしかしたら、本当に好いておるのやも知れぬ)
そう思わざるを得ない。
不意に日が翳った、と思ったら薄暗くなってくる。まだ日の落ちる時刻には早すぎると思う間もなく、あたりは真っ暗になってしまった。
「おやあ、おかしいですね、まだ日が暮れるはずはないんですが…」
達吉が呟く。
直也はちらと弥生の方を見た。弥生は目で頷く。直也は確信した。これは妖の仕業だ。
足を止める。おるいはと見ると真っ青になり、ぶるぶる震えて達吉にしがみついていた。
「おるい、大丈夫だ、わたしが付いてる」
そう言っておるいの肩を優しく抱く達吉。直也は弥生のそばへ行く。弥生は小声で、
「直也、お主にも今は夜に見えているのか?」
と尋ねた。直也が頷くと、弥生は人差し指を自身の唾で湿らせ、直也の眉をなぞってやる。すると直也の視界ははっきりとし、あたりは元のような昼間に戻った。
「これは…」
「多分狐の術じゃな。…しかも強力じゃ。見ておれ、次の仕掛けが始まるからの」
その言葉通り、行く手に灯りが一つ灯った。それは次第に近付いてくる。
見れば提灯を提げ、幡をかかげた葬送の行列である。早桶を担ぎ、ゆっくりと近付いてくる。
それを見た達吉は、
「な、なんでこんなところで…」
と呟きながら、震えるおるいを抱きしめている。
直也がちょっと目を凝らすと、その行列は無く、ただ狐が二匹、口にすすきの穂をくわえて歩いてくるだけであった。
「下にー、下に」
その声に振り返ると、いつの間にやってきたのか、大名行列がやって来る。前からは葬列、後ろからは大名行列。
直也は苦笑いをした。その大名行列も目を凝らすとやっぱり狐だったから。
しかしそれと見破れない達吉とおるいは途方に暮れている。二人とも演技とは思えない。特におるいの恐がりようは尋常ではなかった。
両方の行列が間近にやって来た時、弥生が直也に耳打ちする。
「…翠龍を抜いて一振り薙ぎ払え。マーラを切り裂くつもりで、気合いを込めてな」
その指示に従い直也は翠龍を抜き放ち、
「でやっ!」
一閃。
途端にあたりは明るくなり、お天道様はまだまだ中天にあって、葬送行列も大名行列もきれいさっぱりと消え失せていた。
「…いったい今のは何だったんでしょう?」
達吉が尋ねると、それには弥生が答える。
「狐か狸か、そういったあやかしじゃな。あやうく化かされるところじゃったが、直也のおかげで追い払うことが出来た」
「上田様!…ありがとうございました!」
手を付かんばかりにお辞儀を繰り返す達吉に、
「いや、大したことじゃない」
と照れる直也。そんな直也に達吉は、
「おかげさまで助かりました。…次の宿場、水沢で宿を取りましょう。もちろん宿代はこちらで全部持ちますから」
そう言ってまた頭を下げる。おるいはそんな直也をこわごわ見つめていた。
水沢は伊達家の分家である。直也達が訪れた時から更に数年後の元禄八年、幕府から三万石の分知が認められることになる。
北上川によって出来た比較的肥沃な土地があったため、当時は盛んに新田開発が進められていた。
その水沢の宿に落ち着いた一行。意外と達吉は金持ちのようで、目抜き通りの旅籠に泊まり、一番良い部屋を取った。
食事も二の膳付きの豪勢なもの。すっかり満腹した直也に、達吉が声を掛けてきた。
「上田様、夕涼みに行きませんか?」
宿から少し行けば北上川、夕涼みにはもってこいである。
直也は翠龍だけを懐に、達吉と一緒に宿を離れた。
北上川を眺める堤の上に腰を下ろす。川風が心地よい。
「…上田様、」
それまで黙っていた達吉が口を開いた。
「先程は…ありがとうございました。…あの…それで…」
言い淀む達吉に直也は、
「何か聞きたいことでもあるのかい? 答えられる事なら何でも答えるぜ」
そう言ってやる。それでも達吉は言いづらそうにしていたが、やがて意を決したように、
「上田様は…旅の途上で…その…狐を…退治したことはありますか?」
思わぬ問いであったが、
「いや、ないな」
正直に答えてやる。狐とは何度か関わりを持ったが、退治したことはない、それは本当だ。
「そう、ですか…」
半ばほっとしたように、半ばがっかりしたように呟く達吉。そんな達吉に直也は、
「だがいろいろな化け物には出会った。そのうちの何体かは退治してきたさ」
そう言い添える。すると達吉は顔を上げると、
「上田様に聞いて頂きたいことがあります」
そう言って立ち上がり、直也の正面に回り込む。そして、
「じつは…おるいは…狐なのです」
* * *
一方、宿に残った弥生とおるい。弥生はおるいを誘って湯に入りに行った。ちょうど湯殿は誰もおらず、二人でゆっくりと湯に浸かれる。
着物を脱いだおるいの肌はすべすべとして、尻尾もなく、完全に人間に化けている。
未熟な狐の場合、尻に尻尾の痕跡があったりするのだが、おるいには何も見あたらなかった。
弥生は他の入浴客に邪魔されないようにと小さな結界を入口に施しておいて、おるいに話しかける。
「おるい、そなた…狐じゃな?」
いきなり核心に触れる。おるいは湯舟から飛び出さんばかりに驚く。驚いた拍子に耳がぴんと立ってしまった。
「ふふ、手練れと思いきや、まだまだ未熟じゃのう」
「あ、あなたはいったい…」
そう脅えるおるいに弥生は、
「そなたが達吉というあの人間に害をなす者かどうか知りたくてのう」
「わ、わたしは達吉さんが…好きです…」
おるいはそう言って俯いた。
* * *
「えっ!?」
驚く直也に、
「驚かれるのも無理はありません。…おるいは狐が化けています、それは本当です」
直也が驚いたのは狐であることその事ではなく、それを達吉が知っていたことになのだが、達吉はそうとは知らず、
「狐ですが…おるいは人間より優しく、気立てが良く、働き者で…可愛いんです」
直也は無言で頷く。
「おるいに出会ったのは…王子稲荷の門前でした。祭礼の夕方、鼻緒を切らして困っていた彼女に鼻緒をすげてやったのがきっかけです…」
それは人間を騙す際の狐の常套手段なのだが、直也も達吉もそうとは知らない。
「その後、王子のお得意様に行った帰りにまた彼女と会いました。その時に名前を聞き、それから時々会うようになったのです」
* * *
俯いたままおるいは話し始める。
「…あの人は憶えてないでしょうけれど、子供の時に王子へ遊びに来て、その時怪我をしていたわたしにおにぎりをくれたんです」
狐の姿でうずくまっていたおるいに、まだ子供だった達吉は握り飯をくれた。そのおかげで空腹も満たされて、いつかその恩を返そうと思っていたのだという。
「最初は、商売のお手伝いをするつもりだけでした」
狐には、特に稲荷社由来の狐達には、商売に関する勘のようなものがある。
それは商人が稲荷を祀る理由の一つなのだが、それを達吉のために役立てようと思ったのだという。
流行りそうな意匠の櫛、簪、笄、紙入れ、筥迫等々。それは功を奏し、達吉の商う物は皆、行く先々で飛ぶように売れた。
それで達吉は一人前と見なされ、伯父の店で番頭を任されるまでになったという。
「その頃には、達吉さんはわたしのことを好いていると言って下さって…わたしも達吉さんが好きになっていました」
それで毎週のように達吉と逢瀬を重ねていたという。だが、思いもかけない事が起こった。
「…達吉さんに縁談が持ち上がったんです」
* * *
「…伯父の娘、つまり私の従妹との縁談なんです。従妹は、そりゃあ可愛い娘です。商売のことも良く知っていて、気立ても良い。
…だけど…妹みたいに思ってきた子を嫁になんて出来るもんじゃありません。私は伯父にそう言いました。
その件については伯父は渋々納得してくれたんですが、おるいを嫁にしたいという段になると、真っ向から反対されたんです」
達吉の父から預かったからには、そんな素性の知れない女と一緒にさせるわけにはいかない、というのだ。
何度話しても無駄で、おるいを引き合わせても駄目。
そのうちに別の縁談を持ってきたりするものだから、とうとう駆け落ち同然に伯父の店を飛び出してきたという。
元手はあったので、道中売っては買い売っては買いしてきたので、今では小さな店を持てるくらいの資金は貯まったという。
「それもこれもおるいのおかげですけどね」
そう言って微笑む達吉。そんな達吉に直也は、
「俺は、達吉さんが好きなら、一緒になればいいと思う。過去、狐と人が一緒になった話が無い訳じゃないし」
「そう、そうですよね!」
勢い込んで達吉が言う。直也が味方をしてくれると分かって元気が出たようだ。
「添い遂げて見せますよ。…私はおるいが好きなんだ。それは生涯変わらない。天地に、神仏に誓ってもいい」
そんな達吉を見た直也は、
「おるいさんと幸せになりなよ」
そう言って微笑んだのであった。
(俺も、いつかは弥生と…)
そんな思いを胸に秘めて。
* * *
「達吉さんは…縁談を断ってまでわたしを選んでくれました」
そう言って頬を染めるおるい。
「わたしも…達吉さんの思いに応えたいんです」
そう言って弥生の方を向く。
「従姉妹達に昔言われたことがありました。…人間になって長く人界にいると、同族の狐より人間が好きになるって」
そう言ってまた視線を落とす。
「…本当でした。…達吉さんの商いのお手伝いをしているうちに…わたし…」
それまでじっと聞いていた弥生だったが、
「そなたの気持ちは分かった。…じゃが、所詮人と狐、異類同士なのじゃぞ?」
そう言った時、弥生の胸の中で何かが音を立てた。
「…異類、そう、昔から狐と人が結ばれた話は数多ある。…じゃが、添い遂げた話はほとんど無い」
そう言い聞かせながら、弥生は胸中に寂しさが広がってくるのを感じた。
「この先達吉が人間の女を好きにならないという保証はない」
「はい、そうなったら潔く身を引きます。そして陰ながら達吉さんを見守っていきます」
おるいはけなげにもそう答えた。
「おそらく達吉はそなたより先に死ぬ。そなたは一人残されることになる」
「覚悟の上です。それでも思い出は残ります。わたしは達吉さんの思い出を胸に生きていきます」
きっぱりと答えたおるいに、弥生はほんの少しだけ、嫉妬にも似た思いを感じた。
相思相愛の二人。狐と人と、人と狐と。
何が本当の幸せなのだろう?
自分の幸せは…いや、自分は幸せになる資格など無い、そう自分に言い聞かせる弥生であった。
「一つだけ、気がかりなことがあるんです」
おるいがぽつりと弥生に向かって言う。
「仲間が…わたしを追って来ているんです。…さっきの行列…あれがそうです」
そう言って手を胸の前で組むおるい。
「人間と狐が上手くいく筈はないから帰って来いって…」
「それだけじゃあるまい?」
「……」
しばらく黙っていたおるいだったが、弥生の静かな目に見つめられ、ついに重い口を開いた。
「実はわたし…飛鳥山一帯を治める長の娘なんです」
「なるほどのう」
「あまり驚かないんですね」
弥生は苦笑して、
「狐は普通群れぬ。家族単位で暮らすのが狐じゃからな。じゃがそれを束ねる長となればかなりの実力の持ち主じゃろうな」
「お詳しいのですね、それだけ狐のことをご存じと言うことはただの人ではありませんね?」
「まあな」
そううっそりと笑った弥生は、自分も耳と尻尾を一瞬出して見せ、すぐに引っ込めた。
* * *
「私が一緒になろう、と言ったその日、おるいは自分の素性を明かしてくれました」
「それでも嫌だとは思わなかったんだな?」
直也と達吉は川縁を歩いて宿に向かっている。
「はい、むしろ私の商売が上手く行くのも当然だ、と妙に納得しました」
「ちょっと待ってくれ、一緒になろうというのは商売が上手く行くからって理由からじゃないだろうな?」
「もちろんです!…ただ一緒に暮らして行くにはお金が不可欠だと言うのも事実。…その点では正直助かっています」
商人らしい物言いだが、嘘偽りは無さそうである。
「それでも、乞食をしてでもおるいと一緒にいたい、と思う気持ちに嘘はありません」
「わかった。…俺も出来るだけのことはしてやるよ」
そろそろ宿であった。周りに人も歩いている、きわどい話はここまでであった。
* * *
「あなたも…狐」
おるいは驚いたようであった。
「わたしは長の娘とは言え、大した術も使えませんが、それでもわたしに分からなかったなんて…あなたはいったい?」
「儂は儂じゃ。少しばかり長く生きてるだけの狐じゃ」
「…弥生様、でしたね。それではわたしたちのことをお認め下さるのですか?」
おずおずとおるいが尋ねた。
「そなたの想いを無にするようなことはさせぬ、安心するがよい」
「ありがとうございます!」
おるいは風呂場の中で土下座する。それを押しとどめ、
「手を上げよ。…そろそろ直也達も帰ってくる頃合じゃ、服を着て部屋へ戻るとしよう」
そう言って湯殿を出て行く弥生。その背中に向かって、
「…弥生様、…ご一緒の直也様とは…?」
その問いに弥生は答えなかった。
部屋に戻ってすぐ、直也達が帰ってくる。
おるいと達吉、直也と弥生はそれぞれの部屋へと引き上げた。
「直也はどう思っているのじゃ?」
直也と弥生は自分が聞いたことを話し、これからどうするべきか考えているところだ。
「うん、…二人の思いが本物なら、添い遂げさせてあげたいなあ、と…」
「そうか、儂もじゃ。じゃが、移ろい易きは人の心、おるいが泣くようなことにならねばよいが」
やはり弥生は狐の味方である。
「その点は大丈夫だと思うけどなあ。…俺なら、絶対に裏切ったりしない」
弥生は苦笑して、
「それはお主の話じゃろう、お主がそういう男じゃということは儂が一番良く知っておる」
そう言って弥生ははっと口に手を当てる。うっかり拙いことを口走ったと後悔しているのだ。
「そうだよな、弥生は俺が生まれた時から見ていてくれたんだもんな」
しみじみと直也が呟く。弥生は慌てて、
「い、今はあの二人の話じゃ。…明日には花巻に着く。そこで彼らと別れるという約束じゃが…気になるのじゃ」
「そうだよな…少なくとも追っ手が掛からない事を確認してからにしたいよな」
弥生は頷き、
「うむ。…先の追っ手はお主の剣気と翠龍の神気に驚いて退散した。じゃが、次か…遅くともその次には長が出てくるじゃろう」
「そうか…そうしたら穏便には済ませられなくなるのか?」
「いや、儂がまずは話をしてみる。それで駄目なら実力行使も止むをえんじゃろう…」
そんな話をする二人。夜は次第に更けていった。




