魔王が駆け落ちをしたので後始末を押し付けられた妹殿下の話 その後3
勇者が儀式諸々全部無視して全速力で魔王城に向かっている。
その絶望的な報告に元々色々追い詰められ限界までストレスを溜め込んでいた妹君は、切れた。
「ゆ、勇者なら様式美ぐらい理解して従いなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ばりばりばり~~~~~~~~~~~~!!!!!!
それはそうですがそれを叫ぶのはどうなのか?とその場にいた部下は全員思った。
魂の叫びと共に盛大に青白い稲妻が発生。ちゅど~~~~ん!と爆音を立てながら石で出来た床にどんどん穴が開いていく。
「アホ~~~~~~~!!兄貴のアホ!勇者のアホ!!アホアホアホ~~~~~~~~~~~!!!」
妹君が「アホ」と言う度に戦闘だったら必殺の部類に入るであろう稲妻が容赦なく生産されていく。
落とされる稲妻が強すぎて城が揺れている。日常的に雷が落ちるのでそれ用に強化してあるのにも関わらず、だ。
妹君の憤りと怒りの深さが窺える。
まさに荒ぶる神。手が着けられない。
「シリル様!!落ち着いてくださ………ひょえ~~~!!」
うっかり合羽から出てしまった部下が雷に打たれ、コンガリ焦げた。
ぴくぴくと動いている所を見るとまだ生きているようだ。伊達に上層部に名を連ねてはいない。他の同僚が慌てて懐から取り出した別の合羽を投げてどうにかその姿を隠す。
「っう!駄目だ!合羽から出たら焦げる!」
「完全に切れてますねぇ~~~まぁ、仕方がないというかよく、今まで理性が持っていたかと褒めるべきか………」
「おいたわしや………魔王様の妹君に生まれたばかりに………」
本当に妹君の不幸はあの魔王の妹に生まれてしまったことだ。
それさえなければ優秀だし外見はやや幼いが可愛いし、性格もいいしで幸せな人生を送っていたことは間違いない。
部下達は揃って上司である妹君の不憫さに目頭をぬらした。
「はぁはぁ……………なんでっ!私ばかりこんな目に!!」
癇癪を起こした子供のように泣き叫びながらもやっぱり真面目な性分なせいか問題を丸投げできない妹君はイヤイヤながらも目の前の問題に取り掛かるのだった。
理性が強いってきっと損をする。
「勇者が来る。それを止められないなら迎え撃つしかないわ」
妹君の言葉に合羽から這い出した部下達がぎょっと目を見開く。
そんな!いくらなんでもそこまでの後始末はさせられない!
「シリル様!!お仕置きされるんですよ!歴代魔王が涙するようなお仕置きですよ!」
「そんなお仕置きを貴女が受けられるぐらいなら俺たちが代わりになります!!」
「誰が私が迎え撃つと言った!!あの馬鹿兄貴が受けるべき罰をなんで私らが受けなきゃならないのよ!!兄貴の姿をかたどった幻影を作るわ。私だって兄貴に及ばないながらも実力はある。勇者ぐらい騙せる幻影、作って見せようじゃない!」
ブンブンと腕を回しながら妹君は言い切る。実力があるどころか彼女は魔王に次ぐ実力者。他の魔人よりも圧倒的に強い。
「あ、でも………魔王様がお仕置きされたら侵略革命が………」
「そこは今は考えない。起きた時の対策はする。だけどあれこれ欲張ったら多分全部駄目になる。今は勇者をどうにかすることに全力を尽くす。………他国への監視は続行。非戦闘員の退去、急いで!侵略が起きた場合の対策も続けて!」
時間がない。問題やすべきことは山積み。
だが、しかし………。
「絶体絶命、追い詰められ状態なんて兄貴で慣れっこよ…………!!」
腰に手をやり胸を張ってやけっぱちのように嗤う妹君の痛々しい姿に部下達はそっと目を逸らした。