表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライク・ア・ローリング・ドッグ  作者: 来城
木曜日
6/22

3-1 ショータ

――――――


赤信号も

制限速度もなにもない


ぶっ飛ばせ


――――――

 真っ白な霧に囲まれた空間。そんな異様なところにショータは1人で立っていた。

 隣にいたはずのナオの姿は見えない。しかし、不思議と不安はなかった。


「……ったく、アイツ、勝手にどこ行ったんだよ」


 そう1人ごちる。


「……ータ」


 背後で誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。ショータは、その声にビクッと体を強ばらせる。

 その声をショータは知っている。いや、忘れるはずがない。もう二度と聞くはずのない声。

 ショータは全身に汗が噴き出してくるのを感じる。


 ――殺したはずだ。


 どうしても、後ろを振り向く気にはなれない。ショータはギュッと目をつむる。


「……ショータ」


 吐息さえ感じられるほど近くで声がした。目を開ければ、きっとそこに彼女はいるだろう。

 殺したはずなのに。確実に殺したはずなのに。まとわりついてくるリアルな視線。


「どうして殺したの?」


 問いかけられて、ショータは目を瞑ったまま考える。

 どうして殺したのか? ――愛していたのに、愛されていたのに。


「……ショータ」

「理由なんてない。なんとなく、だ」


 ショータは答える。

 理由のないことは世の中どこにでも転がっている。銃を手に入れたショータが、愛しい人を殺してしまったっておかしくはない――

 沈黙が訪れる。けれど、まだ彼女の気配をすぐ傍に感じる。きっとショータが目を開けない限り、彼女は消えてくれないのだろう。

 ショータは意を決してゆっくりと瞳を開けた。





「ハッ!!!」


 ショータは、がばっと飛び起きる。


「……夢、か」


 自分に言い聞かせるように呟く。全身にぐっしょりと汗をかいていた。


「なんで今さら出て来るんだよ」


 ショータは額の汗を拭いながら、彼女の顔を思い出そうとする。しかし、それはうまくいかない。

 全ての血が流れ出て、冷たくなって、彼女が天使のような笑顔をつくれなくなるまで、その一部始終をショータはずっと見ていたというのに。思い出せるのは、赤く染まった部屋だけだった。

 今さら思い出してなんになるというのか。どうやら妙な夢を見たせいで感傷的になっているようだ。ショータは自嘲的な笑みを浮かべ、視線を下げる。


「――っ!」


 そこではじめてショータは隣にナオが寝ていることを思い出した。


「いたのか……」


 奇妙な安堵。

 ショータは健やかな寝顔を浮かべるナオの頭をそっと撫でる。

 理由はない。なんとなくとった行動だった。

 それから、ショータはぐっすりと寝入っているナオをホテルに置いて、コンビニに向かった。


 店内には眠たそうな顔をした若い店員が一人。おそらく大学生ぐらいだろう。

 ショータが適当な飲食物と地図を手に取りレジに持っていくと、店員は欠伸をしながら応対をした。


「そんなに眠いなら一生寝てろ」


 ショータは躊躇いもみせずに店員を撃った。

 撃った後に、監視カメラがあることを思い出したが、「まぁ、いっか」と呟くと、レジの上にある商品を袋に詰めてホテルに戻った。


 ショータが部屋に戻ると、ナオはまだ眠っていた。もう少し寝かせてやりたい気もするが、つい人を殺してしまったため、なるべく早くこの場を離れる必要がある。


「起きろっ!!」


 ショータはナオを揺さぶる。


「……んー、おはよぅ……おやすみ」

 

 起きたかと思うと、またすぐに眠りの世界へと入っていくナオ。


「おい、起きろって!」

「……」


 返事はない。


「……置いてくぞっ」


 ショータはナオの耳元でぼそっと呟く。


「ダメッ!」


 置いていくと言った途端にナオは飛び起きた。現金なものだ。ショータは呆れつつ「もう出発するぞ」とナオを促す。


「えー、まだ早くない?」


 ナオは目をこすりながら文句を口にした。


「早いほうがいいんだよ。飯は車の中でとる」


 ショータは先ほどコンビニから奪ってきたものをナオに手渡す。


「……これ、どうしたの?」

「ああ、さっきそこのコンビニで……」


 そこまで言って、ショータはしまったと思った。


「ふーん、ショータ、1人で行ったんだ……」


 その声には、かなりの棘がふくまれている。


「いや、お前が起きないから――」


 ショータは、慌てて言い訳を考える。


「次、私が撃つって言ったのに」


 ナオは恨めしそうなじと目でショータを見つめてくる。。


「……こ、今度でいいだろ」

「今度っていつ?」

「……今日中だよ、今日中」


 ショータの中では、もう次に行くところは決まっていた。


「ホントっ!?」


 ナオが嬉しそうな顔になる。


「おう。だから、さっさと着替えて準備しろ」


 ショータは、そんなナオを置いて先に部屋を出た。

 女の支度は時間がかかるというもので、ナオがショータの待つ車に姿を現したのは、それからおよそ1時間もしてからのことだった。

 その時には、ショータの苛々はピークに達しており、超スピードで準備をしたのだと威張るナオを撃ち殺そうかと思ったが、それはやめておいた。

 やっぱり理由はない。なんとなくの判断だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ