2-2 ナオ
車の持ち主を待ち始めてから、かれこれ1時間が過ぎた。
ショータは待つのが嫌いなのかイライラとした様子で、車の傍を行ったり来たり繰り返している。そんなショータは少し子供っぽい。
「少しは落ち着こうよー」
ナオはケラケラ笑う。その声にショータが立ち止まり、呆れたようにナオを見やる。
「お前って、気ぃなげーのな」
「あー、よく言われる」
ナオはまた笑う。ナオが上機嫌でいるのにはワケがある。
車の持ち主が戻ってくると同時にはじまるショータイム。
きっとショータは、長時間待たせた分の怒りも込めて、車の持ち主を殺すだろう。血しぶきドバーッて感じで。
きっとすごいショーになるはずだ。楽しみでならない。ナオはニコニコとその時を待つ。
「……お前、なにがそんなに楽しいんだ?」
「なにって――あっ!」
言葉の途中でナオは声を上げた。
「なんだよ?」
ショータが眉を寄せる。その目がナオの視線を辿るように動く。そして、悟ったようだ。
視線の先には、二人が狙っている青いスポーツカーにキーを差し込む男。
「やっと来たか」
ショータが音も立てずに動き始める。銃を出し、男に忍び寄って行く。
そして――静かな路地に猛々しい銃声が二度響いた。
ショータが、一発撃つたびに肘は滑らかに折られ、前腕は優雅に頭の方へ持ち上がる。
「かっこいー」
ナオは、素直にそう思った。
「おい!」
ボンヤリ見ていたナオをショータが呼ぶ。ナオは子犬のようにショータの元へ駆け寄った。
「コレやるよ」
ショータが黒光りする物を差し出してくる。受け取ってみると、それはずっしりと重い――拳銃だった。どうやら、マヌケな格好で倒れている男の持ち物らしい。
「お前も欲しかったんだろ」
ショータはそう言って笑った。
2日前、ショータと出会わなければ、こんな感情知らなかっただろう。――今、ナオの世界は世界は、とても充実していた。
※
ナオはショータから貰った銃をバッグから出し入れする。嬉しくてならない。
その隣でショータは、片手ハンドルで運転しながら大きく伸びをしていた。
この車を奪ってから3時間ずっと運転しっぱなしだ。そろそろ疲れもたまってくる頃なのだろう。
「なんか喋ってくんね?」
不意にショータが言う。
「なにを?」
「なんでもいい。喋ってないと寝そうだ」
ショータは、本当に眠たそうに言う。
それはヤバイと、ナオはなにか楽しい話を考えようとするがいまいち思いつかない。もともとあまり喋るのは得意ではない方だ。
「えーと……」
そこからがなにも続いてこない。
「じゃぁさ、これからなにしたいこととかあるか?」
ショータが見かねたように質問する。
――したいこと?
「……もっと刺激たっぷりな生活っ!!」
ナオは少し考えてそう答えた。
「刺激たっぷりか」
ショータの口元に笑みが浮かぶ。
「そ、だから今度は私が撃ってもいいでしょ?」
ナオの言葉に、ショータは笑みを深める。
「そりゃ、いいな。お前も誰か殺さないと楽しくなんねーよな」
「そうそう。2人で決めポーズとかしちゃったしてさー」
「それはいらん」
「えー、いいじゃん」
「よくねーよ」
ショータが笑う。ナオもつられて笑う。
2人は、まだ出会って2日とは思えないほど仲良く笑った。