2-1 ショータ
――
気違いじみた夜の中
激情のままに突き進め
――
ナオと連れ立ってから3日目。
昨日は都心の安いラブホに泊まった。
その間、ショータは彼女と色々な話をしていた。
意外なことにナオは17歳のショータよりも二つ年上の19歳だった。とてもそうは見えない。容姿というか、雰囲気が幼く感じられるのだ。ショータがそう言うと、ナオは微妙な表情で「中二病のせいかな」と言った。
そんな和やかな夜があけると、待っていたのは不愉快な一日のはじまりだった。
ホテルを出て車に乗り込むと、エンジンがかからなくなっていた。何度キーを回してもプスンプスンと機嫌の悪い音を立てるだけで、一向にエンジンがかかる様子はない。
ショータに車を修理する技術はなく、また盗難車であるが故、修理に出すわけにはいかない。
仕方なく、車はそのままにして、二人は雑踏を歩き始めたのだ。
あのおんぼろ車め、見た目だけキレイで役に立たない。
ショータは苛々と歩を進める。
別に変装はしていない。これまでもそうだったし、これからもそうするつもりだ。今まで問題がなかったのだから、人は歩いている時に他人の顔などさして見ていないのだろう。
「ねぇ、ショータ」
後ろからナオがのん気な声をかけてくる
「なんだ?」
ショータはイライラを隠さずに振り返る。
ナオはそんなショータに呆れたような笑みを浮かべて「私、新しい足が必要だと思うんだけど」と言った。
「は?」
「だから、私たち逃亡中の身じゃん。お金だってあんまりないし、こんな風に歩いていたら、いずれ捕まっちゃうんじゃないかな?」
真っ当な意見だ。ショータは頷く。
「……しゃーねーな。またやるか」
「うんっ」
ショータの言葉の意味を知っているであろうナオは楽しそうに頷いた。
――ホントにこいつ、俺と会うまで普通に生活してたのか?
呑気に鼻歌なんかを歌っているナオを見ながらショータは思う。そう思われても仕方のないほどの落ち着きっぷりだった。
※ ※ ※
大通りから少し外れると違法駐車をしている車がたくさんあった。
「どれがいい?」
とりあえずショータはナオに聞いてみる。
ショータの中ではいいと思う車はあったが、一応、ナオの意見も聞いておきかった。
「んー」
ナオはてろてろと車を見てまわり、ある一つの車の前で泊まる。
「コレ、かっこいー」
そう言って、ナオが晴れ渡った空のように真っ青なスポーツカーを指差す。それはショータが目を付けていたものと同じで、偶然の一致に、自然と顔がほころんだ。
「あっ、でも、キーないよ」
今ごろ、気づいたかのようにナオが言う。
「……持ち主、待つか」
ショータは答えた。
知識があれば、キーなしでも動かせると聞いたことがあったが、あいにくそんな特殊技能のようなものはない。それならば、奪うまでだ――ショータは腰に挟んでいた銃に触れる。
ナオはそんなショータをワクワクしたような目で見ていた。