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ライク・ア・ローリング・ドッグ  作者: 来城
日曜日
21/22

6-3 ナオ

 日が昇ると、途端に暑くなってきた。

 夜通し歩き続けて、いい加減、足が棒のようだ。

 けれど、もうすぐ街に着く。その思いだけでナオは足を動かしていた。


 視線を上げて照りつける日差しを睨みつける。不意に色んな場面や会話が頭に浮かんできた。

 大きなこともちっぽけなことも、最近のことも昔のことも、なんの法則もなくはっきりとした記憶として蘇ってくる。でも、一番多かったのはショータのことだった。

 たった6日しか一緒にいられなかったのに、今まで生きてきた中で最も幸せを感じた時間。

 思い出そうとした時には思い出せなかったのに、記憶っておかしいなと、ナオは苦笑した。


 ――自分の同類と出会うこと。


 親友探しのハウツーなんていうくだらない話は聞いたことがあるが、そんなのは怪しいものだ。ナオは思う。


「……私たちは、別にお互いを見つけようとして出会ったワケじゃないもんね」


 そう、ショウタと出会ったのは、ほんの一握りの偶然。それでも、二人は出会い、笑いあった。

 ナオは銃をシッカリと握りしめる。まるでショータと手をつないでいるかのような気分だった。


『樫井奈緒!!』


 拡声器のようなもので、突然、名前が呼ばれる。

 折角いい気分だったのに、無粋なことをする奴もいたものだ。ナオはゆっくりと顔を上げる。

 そこには、銃を構えた警官がナオを待ちかまえるようにして立っていた。


『速やかに銃を捨てて投降せよっ!!』


 貧弱そうな男が叫んでいる。

 威圧感を出そうと頑張っているようだが、少しも怖くない。逆に笑みさえ漏れる。隣には厳しい顔の男。


『もう、逃げられないぞっ!!』

「……っさいなぁ」


 ナオは小さく吐き捨てると、貧弱そうな男に銃を向けた。刹那――


 銃声。


「……れ?」


 ナオの視界が揺れる。

 気がつけば、目前に地面が迫っていた。

 ナオは咄嗟に目を瞑る。

 衝撃はあまり感じなかった。足音が近づいてくる。

 ナオはうっすらと目を開けた。

 厳しい顔の男が走ってくるのがコマ送りのように視界に映った。貧弱そうな男は、最初に居た場所で身を縮こませている。

 ショータの銃は遠くに転がっていた。


「……ショー、タ」


 ナオは銃に手を伸ばそうとして、自分の体が思うように動かないことに気づく。


「あれ?」


 口の中に鉄さびのような味が広がる。


「そっか……私」


 ――撃たれたんだ。

 

 ナオはようやく理解する。

 近づいてくる警官たちの足音が不思議に遠く聞こえる。それすらももうすぐ聞こえなくなるのだろう。ナオはぼんやりと地面を見つめながら思う。

 ショータがいなくなって、自身ももうすぐいなくなる。あっさりしたものだ。

 でも、死ぬ時なんてきっとそんなものなのかもしれない。ショータが奪った命も、ナオが奪った命も等しくそうであった。

 あっさりとなんてことなく終わる。そう悪くない。


「ねぇ、ショータ……」


 ナオはうっすらと口元に笑みを浮かべ、静かに目を閉じた。

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