6-3 ナオ
日が昇ると、途端に暑くなってきた。
夜通し歩き続けて、いい加減、足が棒のようだ。
けれど、もうすぐ街に着く。その思いだけでナオは足を動かしていた。
視線を上げて照りつける日差しを睨みつける。不意に色んな場面や会話が頭に浮かんできた。
大きなこともちっぽけなことも、最近のことも昔のことも、なんの法則もなくはっきりとした記憶として蘇ってくる。でも、一番多かったのはショータのことだった。
たった6日しか一緒にいられなかったのに、今まで生きてきた中で最も幸せを感じた時間。
思い出そうとした時には思い出せなかったのに、記憶っておかしいなと、ナオは苦笑した。
――自分の同類と出会うこと。
親友探しのハウツーなんていうくだらない話は聞いたことがあるが、そんなのは怪しいものだ。ナオは思う。
「……私たちは、別にお互いを見つけようとして出会ったワケじゃないもんね」
そう、ショウタと出会ったのは、ほんの一握りの偶然。それでも、二人は出会い、笑いあった。
ナオは銃をシッカリと握りしめる。まるでショータと手をつないでいるかのような気分だった。
『樫井奈緒!!』
拡声器のようなもので、突然、名前が呼ばれる。
折角いい気分だったのに、無粋なことをする奴もいたものだ。ナオはゆっくりと顔を上げる。
そこには、銃を構えた警官がナオを待ちかまえるようにして立っていた。
『速やかに銃を捨てて投降せよっ!!』
貧弱そうな男が叫んでいる。
威圧感を出そうと頑張っているようだが、少しも怖くない。逆に笑みさえ漏れる。隣には厳しい顔の男。
『もう、逃げられないぞっ!!』
「……っさいなぁ」
ナオは小さく吐き捨てると、貧弱そうな男に銃を向けた。刹那――
銃声。
「……れ?」
ナオの視界が揺れる。
気がつけば、目前に地面が迫っていた。
ナオは咄嗟に目を瞑る。
衝撃はあまり感じなかった。足音が近づいてくる。
ナオはうっすらと目を開けた。
厳しい顔の男が走ってくるのがコマ送りのように視界に映った。貧弱そうな男は、最初に居た場所で身を縮こませている。
ショータの銃は遠くに転がっていた。
「……ショー、タ」
ナオは銃に手を伸ばそうとして、自分の体が思うように動かないことに気づく。
「あれ?」
口の中に鉄さびのような味が広がる。
「そっか……私」
――撃たれたんだ。
ナオはようやく理解する。
近づいてくる警官たちの足音が不思議に遠く聞こえる。それすらももうすぐ聞こえなくなるのだろう。ナオはぼんやりと地面を見つめながら思う。
ショータがいなくなって、自身ももうすぐいなくなる。あっさりしたものだ。
でも、死ぬ時なんてきっとそんなものなのかもしれない。ショータが奪った命も、ナオが奪った命も等しくそうであった。
あっさりとなんてことなく終わる。そう悪くない。
「ねぇ、ショータ……」
ナオはうっすらと口元に笑みを浮かべ、静かに目を閉じた。