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ライク・ア・ローリング・ドッグ  作者: 来城
土曜日
18/22

5-4 ナオ

 まずゆっくりと駐車場を一回りした。

 もう涙は枯れている。

 駐車場にいる大勢の人たちを見回す。なかなか人の顔を見ることに集中できない。

 この中からヒカリたちを探していることさえ忘れてしまいそうだ。


 ナオはかなりの時間、駐車場を探し回り、比較的、人気のないところでやっと2人の姿を見つけた。

 ナオに気づいた二人が近づいてくる。二人とも少し強ばった顔をしていた。その表情を見て、ナオは自分は尋常ではない顔をしているのだろうなと思った。


 車から機械的に降りると、突っ立ったまま2人がそばに来るのを待つ。その時、カエデと目があった。カエデは、今朝見せてくれた笑顔をつくってくれる。


「……一瞬、誰だか分かんなかった」


 そう言って、カエデは少し困ったような顔になる。

 なにを話したらいいのかよく分からないようだ。こっちの顔をしげしげと見つめてくる。

 ナオは、カエデの声を聞いて少しホッとしたが、何も言葉が出てこなかった。

 次に、ヒカリがじっとこちらを凝視してくる。こんなに暗い瞳をしたヒカリを見たのははじめてだった。

 ヒカリは、おもむろにナオを抱き締め、その腕に力を込める。慰めようとしてくれているのが分かり、ナオは再び泣き出してしまった。

 ヒカリもカエデもなにも言わずにナオが泣きやむのを待ってくれた。


 しばらく泣いた後、ナオは声を出した。


「ショータが撃ち殺された……さっき」


 出てきた言葉はくぐもっていた。自分の言い方が妙に場違いなものに聞こえる。

 2人が息を呑むのが分かったが、それ以上、もうなにも話したくなかった。ショータのことは二人には、関係のないことだから……


「……とりあえず、移動しましょう」


 ややあって、ヒカリがそう言葉を発した。その言葉にナオは運転席に乗り込もうとしたが「あんたは後ろで休んでろ」と、カエデに止められてしまった。

 もう泣きやんではいたが、疲れて頭がボーっとしていたので、ナオは二人にすすめられるがまま、さっきまでショータの死体のあった後部座席に乗り込むと体を横にした。


 車がゆっくりと走り始める。ナオは体を横にしたまま、窓の外を見上げた。

 車窓には灰色のビル。荒れ果てた学校。レストラン。流れていく雲。落ちていく太陽。

 ナオは目を閉じる。なんだか自分だけが、この世界から遠いところにいるような気がする。自分の知っている言葉で、ここにいる人たちに通じることなど、もう何一つ残っていないのかもしれなかった。


 再び目を開けた時、辺りは薄暗くなっていた。

 ナオはほんの少しだけ、全て夢でこれから今日一日がはじまればいいのにと思ったが、そんなことが起こるわけがないと重たい体を起こした。ヒカリとルームミラー越しに目が合う。


「起きた?」

「……うん」

「もうすぐホテルだから」

「……うん」


 ホテルに着いたら、二人ともお別れだ。ナオはぼんやりとしたまま頷く。

 助手席にいるカエデがチラリとナオを見て、小さく嘆息した。


 やがて、車がホテルの駐車場に停められる。

 車から降りるなりナオは「じゃぁ、私はここで……」と、二人に別れを告げようとした。


「どこ行く気?」


 今まで黙っていたカエデがグイッとナオの腕をつかんだ。


「あんた、今まともじゃないよ。少し眠って落ち着けって」


 口調は乱暴だが、ナオのことを心から思ってくれているのが分かる。

 ナオは、しかたなく2人と一緒にホテルへ入った。

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