5-2 ショータ
太陽がぎらぎらと照りつけている。車のエアコンを全開にしたところで暑いことには変わりない。
「もし、うまくダイヤをものに出来たら、待ち合わせ場所に直行するからな。ダイヤ渡す前に捕まったらシャレになんねーし」
暑さを紛らわせようとショータはナオに話しかける。
「そうだね」
ナオは短く答え、ふと思い出したように続ける。
「あっ、でも、カエデが一緒に逃げようって言ってた」
「あー、なんかそんな気はしてたんだよな」
「そうなの?」
ナオが目を丸くする。
「ああ。でも、あいつらは、俺たちとは違うからな。なんか一本信念持ってる気がするし、渡すもん渡したらさっさと別れよう。その方が互いの為だ」
「うん。そうだね。私たちと一緒じゃ、逃げれるものも逃げられなくなるよね」
「そういうこった」
ショータは、笑いながら頷く。
そのあとも、家に侵入するときの方法やその次にすべきことなど、いろいろな作戦を二人で話し合ったが、満足のいく答えが見つからないのでやめにした。
途中で、ナオが言ったのだ。
「計画なんて私たちらしくないよ」と。
その一言で、作戦会議は終了。
とりあえず決まったことは、自分たちがアンケートの調査員だってことだけ。そのあとは、きっとどうにかなる。
行き当たりばったり――それが一番、俺たちらしいやり方だから。
※
手入れの行き届いた広い庭。その奥に、窓がいっぱいついた大富豪の家は建っていた。
灰色の石段。溢れんばかりの花。絵に描いたような庭、絵に描いたような大邸宅。
ショータが想像していたのは、もっといかにもという感じの悪趣味な豪邸だったが、それとはぜんぜん違って、逆に好感の持てる造りになっている。
ショータは、呼び鈴を鳴らした。
ナオと相談した結果、ショータが喋ることになっている。ナオ曰く、そのほうがいいと思う、らしい。
もし、家に上がるのを断られたら、ナオがすかさず銃を出してムリヤリ中に入る。
ゲームの最終目的は、ダイヤの入った金庫。その間の過程はポイントにはならない。
――ドアが開く。出てきた男は、中肉中背、まぁ普通のおっさんだ。
ショータは、予定通りに話を進める。男は特に疑う様子もなく2人を家へと招き入れた。
ヒカリたちの情報通り、男はこんな大邸宅に一人暮らしをしているようだった。中は誰もいない。
2人にソファを勧めると男はコーヒーを入れにキッチンへと足を運ぶ。
ソファはふかふかで部屋は明るい。
「すっごい家だね」
ナオがボソッと言った。
確かに、こんな家はショータもはじめてだった。
ようやく男がコーヒーを持って、ソファに腰を落ち着ける。その瞬間、ショータは銃を男に突きつけた。
どんな作戦でいくかは相変わらず思いつかない。とりあえず、銃を前にした男の表情をよく見ようと少し近づいた。
男は、訝しげに銃を見ている。恐れやパニックとはまったく無縁なのだろうか、顔色一つ変わらない。
「……俺たちのこと知ってるか?」
ショータは、男に聞いてみる。
「知ってると思うよ」
「そうか。なら話は早い。隣の部屋の奥にダイヤの入った金庫があるよな? それを開けろ」
男が無抵抗のしるしに両手を宙に上げる。
やけにあっさりいきすぎる――でも、案外そんなものかもしれない。