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ライク・ア・ローリング・ドッグ  作者: 来城
金曜日
13/22

4-4 ヒカリ

 ヒカリが買い出しを終えて家へ戻ると、2人の客人は、客間のベッドで仲良く眠っていた。

 なんだかんだいっても逃亡は疲れるものね、と思いながらヒカリはリビングへ向かう。


「……おかえり」


 カエデがリビングからヒカリのいる廊下に顔を出した。ヒカリは大きな眼を細めてそれに応える。

 リビングへ入ると、ヒカリは体をカエデに密着させるようにソファに座る。さっきはナオがいたからそうしなかったが、それがいつもの二人の体勢だった。


「お客さんとは仲良く出来た?」

「まあね」

「カエデの『まあね』は当てにならないけど」


 ヒカリは端的なカエデの言葉に苦笑を浮かべる。

 しかし、隠し事なしにベラベラとよく喋るナオが相手だから、きっと大丈夫だったろうとは思う。これがショータ相手だったらどうなっていたことか。

 ショータは口数こそ少ないが、人からなにか不快な気分にさせられたりしたら、すぐにキレてしまいそうなアンバランスさを持っているような気がする。そして、カエデもどちらかというとそういうタイプなのだ。ショータとカエデが二人きりだったらと考えただけでも恐ろしい。


「あの2人って恋人同士なのかな?」


 カエデが2人のいる客間の方を見ながら言う。


「……んー、どうかなぁ」


 ヒカリは曖昧に答える。

 ヒカリも、あの2人がどういう関係なのか気にはなっていたが、あえて聞かなかった。

 ただ、あまり他人に興味のないカエデが言うぐらいだから、誰の目から見ても、2人は恋人同士のように見えるのだろう。

 あの2人は、お互いの体に触れることこそ、ほとんどないものの、いつも相手のことを見ているし、相手の動きを目で追っている。言葉などなくても暗黙の了解というやつがしっかりと形になっている。

 車の中でナオはショータと知り合って5日と言っていたが、とてもそんな短期間に結べるような絆とは思えなかった。2人を切り離して考えることはおろか、どちらかが1人でいる姿なんて想像もできない。


「……ねぇ、考え事してるところ悪いんだけどさ」


 いつのまにかカエデが笑いながら、顔の前で手を上下に動かしていた。ヒカリは我に返る。


「な、なに?」

「もうそこまで警察きてるってことは、ここもそろそろヤバイよね」


 その声は、なにかしらの考えが含まれていた。

 ヒカリは、それがなんなのか分かってはいたが、なにも言わずにカエデを見つめる。


「……この間も話したけど、あのダイヤ、やっぱり盗みに行くよ」


 カエデはヒカリの視線を受け止めつつ、きっぱりと言った。

 ダイヤとは、この家の近くにある大富豪の家の金庫にあるものだ。それを盗んで逃亡資金にしようと言う計画を、カエデは前から練っていた。


「でも……」

「大丈夫。失敗なんてしないよ」


 カエデは笑う。

 ヒカリは、それでもカエデに行ってほしくなかった。少しでも危険があると分かっている場所に行かせたくなかった。ここまできて、彼女を失ってしまったら生きていけない。

 ヒカリは縋るような目でカエデを見つめる。

 だが、カエデの意志は固いようだった。揺るぎのない視線が返ってくるだけで、ヒカリの欲しい言葉を口にしてはくれない。ヒカリが落胆の吐息を落としたその時、


「……そのヤマ、俺たちがやろうか?」


 リビングのドアからショータが姿を現した。後ろにはナオの姿も見える。いつのまにか眠っていた二人が起きていたらしい。

 ショータは、髪を整えながら明らかにナオの言葉を待つ様子を見せたが、まだ寝惚け眼のナオがなにも言う気配がないので自ら次の言葉を紡ぐ。


「楽しそうだからな。もちろんダイヤはあんたたちにやるよ。こっちにはさしせまった予定はないし、暇つぶしの慈善事業って奴だ。な?」


 ショータの促しに、眠っているのか起きているのか、いまいち分からないナオがとりあえずと言った風に頷いている。


「……あんたたちにそんなことしてもらう理由はない」

 

 カエデがつっけんどんに言う。


「まぁな。でも、そっちの女が俺たちをこの家に泊めてくれる理由だってなかったはずだろ。なにかするのに立派な理由なんかいらねーよ」


 ショータの言葉に、ヒカリとカエデは顔を見合わせた。

 ヒカリは考える。

 ショータの申し出を了解する必要はない。だが、もし、断ればカエデがダイヤの強奪に行くことになるだろう。

 それは嫌だ……

 かといって、ショータたちに危険な真似をさせるのも嫌だった。

 カエデは、眉間にしわを寄せたままなにも言わない。

 ショータはボケーッとしているナオのほっぺを触ったりとちょっかいをだしている。

 その光景を見たヒカリは、どのみちショータたちの気持ちが変わらないだろうということに気づいた。

 もし、行くなと言ったところで2人は勝手に行ってしまうだろう。そして、そうなれば二度と自分たちの前に姿を見せてはくれないだろう。たとえ、その先になにが待っていたとしても2人は行ってしまう。なぜなら、ヒカリからなにを言われようと、2人は『そうする』と、もう決めてしまっているから――

 ヒカリはダイヤ強奪をショータたちに頼むことにした。そうしなければ、数時間後には、2人と永遠の別れをすることになってしまう。

 しかし、2人がダイヤを取って自分たちの元へ戻ってきてくれれば、少なくとももう一度会うことは出来るはずだ。そうしたら、一緒に逃げようと誘えばいい。


「じゃぁ、お願いするわ」

「ああ」


 ショータが、ナオの手をムリヤリ取ってプラプラと宙にあげた。


「ヒカリ……」


 カエデは文句か言いかけたようだが、じゃれ合う2人の姿を見てかぶりをふる。

 そして「……こいつら、恋人同士じゃないね。そういうのより血のつながった兄妹みたいって言った方が喜びそうだ」小さな声でそう呟くと部屋から出ていった。

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