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ライク・ア・ローリング・ドッグ  作者: 来城
金曜日
11/22

4-2 ショータ

 かなり長いこと車を走らせた。しかし、まだ昼をまわったばかりだ。太陽も相変わらず、ぎらぎらと路面を照りつけている。


「アレ?」


 さっき起きたばかりのナオがなにかに気づく。


「ね、あれってサツじゃない? ヤバイよ」


 ヤバイと言っているわりには、さして動揺してはいないようだ。

 ショータもそんなには驚かない。ただ高揚のために心臓が早鐘を打ちはじめる。

 人を殺そうとするその瞬間の病みつきになるあの感覚。


「向こうが妙な動きしたら、スピードあげるから、お前はとりあえず片っ端から撃て」

「オッケー」


 ナオが笑顔で銃を手に取る。

 ショータは少しずつスピードをあげ、パトカーに近づいていく。

 ナオがギアに置いていたショータの手を不意に取った。

 ぎゅっと握られて、なんだか気恥ずかしく感じたが、ショータはナオに応えるようにその手を握り返す。シッカリと繋いだ手に力を込めた。


 ――もしも、運が尽きたんだとしても、二人なら切り抜けられる。


 パトカーの横を通過する。車内に人影はない。誰も乗っていないみたいだ。

 ショータは、少し拍子抜けした。ナオも同じ気分だろう。二人で顔を見合わせ苦笑する。

 さらに進むと、2人の警官が1人の女を追いかけていた。おそらく、さきほどのパトカーの乗員だろう。

 女はちょうどショータたちの車の方へと逃げてくる。


「車、止めてっ!」


 ナオが叫んだ。ショータは、異論を唱えず車を止める。

 ナオは片手に銃を持ち、準備体操とでもいうように、首をゆっくりと回しながら、車のドアを開けて飛び出した。

 そして、2人の警官がドサッという音をたてて倒れるまで、有無を言わさずに銃をぶっぱなす。

 ショータは、運転席からその光景を映画のワンシーンを見るように眺めていた。

 走っていた女は、警官が動かなくなったのを確認すると、ようやくその足を止める。

 それから、ナオをじっと見つめ、一瞬、思案顔を浮かべ、安全だと判断したのか、おずおずとナオに近づく。

 ショータも車から降り、いざという時のために後ろ手に銃を持つ。

 女が敵ではないとは限らない。ナオと言葉を交わす女をじっと観察する。

 足下は、スニーカー。黒のジャケットの上になびくロングヘアーは、つやつやと輝きを放っている。ナオよりも頭一つ高い。

 もしかしたら、自分よりも大きいかもしれない。ショータはチッと舌打ちをする。その音が聞こえたかのようなタイミングでナオがショータを振り返った。そして、長身の女を促して、こちらへやってくる。

 ナオと連れ立って歩いてくる女は、歩き方一つとっても妙な威圧感があった。


「ショータ、この人が行くとこないなら、うちへどうぞって言ってんだけど」

「あ?」


 ナオの言葉にショータは女をじろりと見やる。

 女は動揺することもなく、落ち着き払った態度でショータの視線を受け止める。


「あなたたち、今朝の朝刊に載ってたでしょ。逃亡生活は休める時に休んでおいた方がいいと思うけれど」


 なにを考えているのかよく分からない調子で女が言う。まるで、思考と表情との間に境界線が引かれているようだ。

 信用して大丈夫だろうか。ショータは逡巡する。

 しかし、返答を待つナオの表情を見て、ショータは女の誘いに乗ることを決めた。

 口にこそ出さないが、ナオは少し疲れた顔をしていた。このまま車で寝泊まりを続けるよりは、この女の家で、しっかり休息をとった方が2人にとっていいかもしれない。ショータは、そう判断したのだ。


「分かった。二人とも車に乗れ」


 ショータはそれだけ言うと、さっさと車に乗り込む。ナオと女があとに続いた。

 二人が乗り込んだのを確認すると、ショータはすぐさま車を発進させる。さっきの銃声に気づいた人間がいないとも限らない。早いとこ、この場所を立ち去りたかった。


「名前なんていうの?」

「ヒカリ」

「ふーん」


 後部座席で、ナオとヒカリと名乗る女が話しだす。

 助手席ではなく、ヒカリと並んで後ろに座ったということは、ナオもなにが起きても対処できるようにと、一応の警戒はしているらしい。だが、随分と和やかな空気を背後で感じる。

 ショータは溜息をつき「おい、案内忘れるなよ」と釘を刺した。


「大丈夫よ。この道を真っ直ぐ行けばいいだけだから」


 ヒカリはルームミラー越しにショータを見つめ微笑んだ。

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