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ライク・ア・ローリング・ドッグ  作者: 来城
月曜日
1/22

1-1 ナオ


――


つまらない

毎日がつまらない


そんな毎日なら

いっそ壊してしまえばいい


――

『悪ぃ、急にバイト入って行けなくなった』

「――そう。分かった。うん、大丈夫。怒ってないよ。また今度ね。バイバイ」


 待ち合わせから、およそ30分後にかかってきたドタキャンの電話。

 なんとなく予想はしていたから、特に不満をぶちまけるでもなく、ナオはあっさりと通話を終えた。

 待ち合わせがなくなった以上、ここにいることもない。ナオは、ため息ともとれるような吐息を漏らすと、今までいた場所から歩き出す。


 適当にウィンドウショッピングをしながら歩いていると、ふと電気屋のウィンドウ越しにニュース番組を流すTVが見えた。

 なんとはなしに立ち止まって、今日一日の事件や事故を眺める。

 画面が切り替わり、先週から殺人容疑で指名手配されている少年のモンタージュ写真を映し出す。

 繊細そうな、およそ、人を殺すとは思えない優しい顔立ちをしている。

 けれど、この少年は判明しているだけですでに5人もの人間を殺傷しているのだ。見つかれば射殺される可能性が高いだろう。


 著しい治安の悪化により、銃がはびこるようになってからというもの、未成年だからといって、警察が手加減するようなことはなくなった。逮捕して裁判なんてもう古い。人権弁護士とやらの馬鹿馬鹿しい論理を長々と聞くよりも、凶悪犯はその場で射殺してしまった方が効率がよいのである。


 ナオは再び溜息のような息を吐くとTVから目を離した。歩き出す。考えるのは、先の少年のこと。

 彼は欲望のままに行動している。

 銃を持ち、気に入らない奴を殺す。その行為が酷く甘美なことのように思える。


 もしも、銃を持っていたら、つまらない毎日が楽しくなるだろうか?


 ナオは銃を持ったことがない。

 はびこっているとはいえ、平凡な生活を送るナオとは、やはり接点の少ない世界の話だ。ツテを辿れば行き着くかもしれないが、そこまでする情熱はない。

 結局、ナオに出来るのは、自分を取り巻く世界が一変するようなことが起きないかと願

うだけ。そんなこと起きやしないだろうけど――ナオは自嘲気味に笑うと路地を曲がった。

 その瞬間、パンッ、という乾いた音がどこからか聞こえた。

 そんなに大きな音ではないが、どこか破壊を連想させる音。

 ナオは、キョロキョロと辺りを見回す。路地には自分以外、誰の姿もない。従って、音に気づいたのもナオだけのようだった。

 普段ならば無視をするところだが、少しの間を置いてパンパンと続けられた音につられるようにしてナオは駆け足になった。


 音を頼りに進んでいると、ガラガラの駐車場にポツリと佇む人影が見えた。

 ナオは音をたてないように気をつけながら、少しずつそちらへ近づく。

 男だ。まだ若い。ナオとそう年は変わらないかもしれない。

 サバンナの夕日を受けたライオンのタテガミを思わせる明るい髪色。そして、その手には銃が握られていた。


 さっきの音って銃声だったんだ。意外と素っ気無い音。ナオは、のんびりとそんなことを思う。

 その時、気配を察したのか男がゆっくりとナオの方を振り返った。

 ナオはその顔を見て、驚きに目を見開いた。

 見覚えのある顔。ついさっき見たばかりだ。間違うわけがない。指名手配中のあの少年だ。


 これは神がくれたチャンスなのだろうか?


 自分を取り巻く世界が変わっていくのをナオは肌で感じていた。

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