1,過去の思い出
今回は、まだ本編に入ってなく、そのうえ、かなり短いので、気長に見てください。
これは昔の思いでー
年に何度か親戚の大人たちが集まって宴会をするときに、銀一とミュリはいつも二人で遊んでいた。
正義感があり勇気がありいつも危険な所に行き怪我の絶えなかった銀一とは違い、歌族の本家の一人娘ミュリは、どちらかというと控えめで大人しかった。人と言葉で接するのが苦手で、いつも一人で歌を歌い、友達らしい友達はあまりいなかった。だから、銀一がやって来るときはいつも笑顔で楽しい顔をしていた。銀一のいうことならなんでも聞いて、銀一の後ろにどこまでも付いて行った。
二人の遊び場は、家の近くの神社。
その神社は大きく中には、木々が生い茂り、池もあった。昆虫や魚や社があり、驚きと冒険に充ちていた。
ただ、二人きりで遊んでいると、ミュリは急に何かに恐がり始めて銀一の背に隠れることがあった。虫取りをしているときや隠れん防で隠れている最中でも、泣きそうな顔で飛んできて銀一にしがみつく。そして社に指を指して言う。
何かいる。
銀一の眼には、ただ社が立っているだけで何も見えてないのに。
初めのころは、ミュリが極端な恐がりなのだと思っていた。たしかに、この神社は木々が生い茂って昼間なのに少しうす暗く恐いとは思う。だから、ミュリの極度の臆病を指摘して、宥めて、最後は優しく語りかける。
大丈夫。ぼくがいるから恐がることはないよ、と。
銀一に優しく語りかけられるとミュリは涙目になっていた目を服の袖で拭き、そして、尋ねた。
わたしのことを護ってくれる?
うん、護るよ。
本当に?
うん、本当に。
そのあと、満足した顔で銀一と一緒に遊び続けた。
銀一がミュリの見る何かを知ったのは、両親にミュリが毎回社を指して恐がる、と言ったら両親は少し驚いた顔をしたが、すぐに冷静で真剣な目で銀一を見て話した。
あの子は、カゲを見ているの。
カゲって、ぼくの後ろにあるやつ?
銀一は自分の影を指差した。しかし、両親は首を横に振った。
違うよ。カゲは、恐いお化けかな。
こわいおばけ?
そう、人の弱い心に入って悪さをするの。
銀一はミュリが恐がりだと思っていた。
だけどそれは違った。ミュリは恐がりではなくて、銀一と見る世界が違うだけなのだ。
ごめん。
そう言って銀一が頭を下げたとき、ミュリは目を丸にした。銀一はとにかく必死に、謝った。理由も解らずに護るといったことをとにかく謝った。そして、お詫びにこんなことなことも言った。
俺はミュリと違って恐いものは見えない。だけど、ミュリが恐いときには、俺がミュリを護ってあげる、と。
すると、ミュリは急にもじもじとうつむき、それから何かを期待する眼差しで銀一を見た。
あの、その・・・ぎんいち君は、わたしのカゴになってくれるの?
そのとき、銀一は、自分は入れ物になるの、と勘違いをしていた。カゴって入れ物の?銀一の一つの問いにミュリは首を振る。わたしもよくしらない。でも、わたしの歌を護ってくれるだって。おかあさんが言っていた。ぎんいち君は、ずっと一緒にいて、護ってくれる?
まだ、ぼくは・・・わからない。
でも、護ってあげるっていった。
ミュリは、いつになく強い口振りで言う。銀一は困ってしまう。銀一が困っていると、ミュリは不安そうな表情を見せる。
それともやっぱり・・・護ってくれないの?
声が震えていた。また泣かれる、と銀一は身構えた。
しかし、ミュリは泣かなかった。不安で恐くて、泣きそうなのに、銀一を見る瞳は、少しも揺れていなかった。その瞳は、力強く、決して逃げようともせず銀一を見ていた。銀一はその強さに弱かった。
そして、銀一は、いいよ、と答えた。
いいよ。ぼくは、ミュリのカゴになる。それで護る、ミュリを護ってあげる。
銀一は笑う。ミュリも、その笑みにつられて笑顔になる。
それから二人は神社で、いつものように遊び始めた。ミュリが恐がる素振りを見せる度に、銀一は社に向かって、勇ましく声を放った。ミュリにしか見えない何かを、全力で追い払い続けた。
それが何であったとしても、決して彼女を傷つけないように。
もう、昔の思い出。
まだ、子供の時の約束。
まだ銀一が「将来」「未来」のことをなにも考えていなかった頃の話。