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最終日

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最終日 5月8日


 和田公園。入口も石の階段もアスレチックも何も変わらない。でも、あの頃よりすべてのものが小さく見える。  

 アスレチックの揺れる吊り橋ではしゃいで跳びはねながら、

「全然変わらんなー。」

と僕は言った。

「ほんまに!」

と優希は笑いながらうなづいた。

さっきからの雨はかなり強くなってきた。「雨強いから、この下いこ。」

優希は言って橋から飛び降りた。小学校の時、飛び降りられるかどうかみんなで根性試しをしたところだ。今なら難なく降りられる。

隙間が空いてしのぎ切れないアスレチックの下で雨宿りをしながら、優希は中学校二年生の時に家出をした時のことを話した。

家を飛び出した優希は僕たちが今いるのと同じところに隠れていた。小学校の時はよく遊んだ場所だけれど中学校になってから来たのは初めてだった。

「何故かね、家を飛び出してまっすぐここに走ってきた。」

そして、泣きながら何時間もここにいた。いつしか涙は枯れて雨が降ってきた。本当は帰りたいのに帰れない。でも、母にぶつけた気持ちに負い目も感じない。ただ、気持ちを爆発させた後は、何故か人恋しくなったと優希は言った。

言葉には表せないたくさんのものがない交ぜにになった、心の中の複雑な糸くず。それが一気にほどけた時、ほどけたというよりは怒りや哀しみを何らかの行動で表現し尽くしたことで分解された時、そこに残るのは人とまた関わりたいという恋しさだった。

何時間もたった後、公園の近くから自分を呼ぶ声が聞こえた。その声は遠くからだったが、二人の声だった。優希の父と母は五歳の頃に離婚していた。だけれど、その時公園の外ではもう何年も会っていない父の声が母の声と一緒に聞こえた。雨が降りしきる中、優希はアスレチックの下から飛び出した。

三人とも雨でびしょびしょだった。

優希のお父さんは

「お帰り」

と言った。

優希も泣きじゃくりながら

「お帰り」

と言った。


「お父さんって今どうしてんの?」

と僕は聞いた。


「私が中学校三年生の時に、再婚してもう子供も二人もおるわ。でも、いまだにお父さんとは仲ええねん。毎月一回くらいは、弟と飲みに行ったりする。お父さんはほんま好きやねん。優希は優希らしくっていっつも言ってくれる。性格もお父さんとほんま似てるって思うしな。」

 「ふーん。優希に似ている男性・・・か。」

「なんやねんそれ!張り手するよ。」

「やめやめ。あーそうか喧嘩っ早くて激しいってことね。」

「うるさいわ。」


別れたお父さんや弟、仲がいいということはとても幸せなことだなと思う。お母さんはずっと優希や弟と一緒にいたけれど仲良くはない。夕飯も作らず、いつもパチンコ屋にいた。小学校の時も母親の付き合いで有名になって、優希には直接聞いたことはなかったけれど、遊んでいてもいつも五時くらいには家で家族の夕飯の用意をするために帰っていたことは知っていた。僕のおかんもスーパーでよく会って、あの子は偉いなとよく言っていた。心の寂しさを非生産的なもので埋めようとし始めると、必ず悪循環になる。その果てに不幸が訪れたとしても、誰も助けることはできない。大人の人生は、世話になったか、足を引っ張られたか、そんな数少ない二者択一で決定付けられることがほとんどだ。年がいけば行くほどに。


「あっあの吊り輪よくやってた。小学校の時は二回くらいしか上れなかったけど。今やったら何回もいけそうやなー。あんま力は無いお方やけど中学校で十回くらいは上った。」

とさっきまでの話を終わらせるように言った。。

 「じゃー五回以上上れなかったら、次のお酒はおごりな。」

と優希が言った。

 「上れなかったら、大輔のおごり。」

 「ええで!」

と僕は昔の勢いそのままに吊り輪に手をかけた。


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