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凶猛令嬢の嗜み ~妹に婚約者を略奪されましたので、私はもう用済みのはずでしょう?~  作者: ありしあ
その1.解放

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1/1

プロローグ

新作です



 妹のアニスは昔から、私のものなら何でも欲しがる性格だった。

 だから私の婚約者である第三王子のリカルドとの仲を聞いた時に、これといって驚きはなかったのが正直な感想。むしろ、ようやく手を出してくれた、というのが本音だったかもしれない。


「エリザベートお姉さま、ごめんなさい。わたくし、リカルド様と結婚します」

「そういうわけだから、キミとは婚約破棄とさせてもらうよ?」

「……そうですか」


 城に呼び出され、リカルドの私室で二人が揃っているのを見た瞬間。

 私はアニスからとくに悪びれた様子もなく、そのように言われた。アニスは形式上の謝罪を口にしていたが、この子が欠片ほどもそう思っていないのは、この二十年でよく知っている。

 そして、リカルドのことも心から愛しているわけではない、ということも。


「元々、キミのことは気に食わなかったんだ。何を話していても、本音なんてひとつも語りはしなかっただろう? その点、妹君は笑顔に満ちていた」


 そんなことも知らず、リカルドは軽薄な笑みを浮かべていた。

 恋は盲目とも言うけれど、彼の場合は常に盲目なのだろう。私はそんな優男を見つめながら、思わずため息をつきそうになったのを必死に堪えた。

 あえて無表情に努めていると、不思議そうに首を傾げたのはアニスの方。


「お姉さま……? 悔しくは、ありませんの?」

「悔しい、ですか?」


 それは、どこか怯えたような目にも見えた。

 この時の私が本当はどんな表情をしていたのか、それを知るのはアニスだけ。しかし私はそんなことも気にもせずに、淡々とこう語った。


「私たち、ライツフェン伯爵家としては問題ないでしょう? 姉が嫁ごうが、妹が嫁ごうが、王家との繋がりができることは大変喜ばしいことですから」

「それは、そうなのですけれど……」


 その事実を並べても、アニスは納得していない様子。

 いったい、何が言いたいのだろうか。そう考えていると、リカルドが空気を読まずにこう宣言した。


「さて、そろそろ出て行ってもらおうか! エリザベート!!」


 手で追い払うようにしながら。

 彼は私に何の未練もないことが分かるように、そう口にしたのだ。だから、



「それでは、私はもう――」



 私は静かにこう確認した。

 ここで初めて、自分でも頬が緩むのを理解する。



「用済みということでよろしいでしょうか?」





 数日後、王都の外れにある森の中。

 私は伯爵家の私兵を引き連れて、問題となっている『あるもの』を探していた。それは昨今、領地内に巣食って繁殖を続けているらしい。

 私兵たちは同行することに難色を示したが、そこは無理矢理に押し通した。

 嫁ぎ先を失った娘が何をしようと、両親も口を挟もうとしない。


「お嬢さま、お気を付けください。……そろそろ、奴らの領域です」

「そうですか。いよいよ、ですね……?」

「いよいよ……?」


 私兵長は首を傾げていたが、気にしたことではなかった。

 こちらが護身用の短剣を抜き放つのを見ると、視線を前に戻して自身の剣を構える。すると、森の薄闇の中で何かが光った。


「お嬢さま、来ます!」


 私兵団の誰かが言うや否や、そのうちの一人の首が飛んだ。

 血飛沫が舞い、数名の兵から怯えたような声が上がる。


「退くな! 何がなんでも押さえ込め!」

「駄目です!? 魔猪、構わず突進してきます!!」


 私兵長が必死に声を荒らげるが、目の前の巨大な猪を前に兵たちは腰が引けてしまっていた。私はその様子を見ながら一歩、前に出る。

 そして短剣を構えて、自然と口角を歪ませていた。

 そう。もう、我慢しなくて良いのだから。


「お嬢さま!? 危ないです、お下がりください!!」


 私が前に出るのを見て、兵の一人が慌てて叫んだ。

 だけど、もうすべて関係ない。


「ずっと我慢していたんです」


 魔猪を前に、立ちながら。


「伯爵家の令嬢として相応しく、大人しくなんて……もうたくさん」


 私は、猛進してくる猪に向かって短剣を振り上げて。

 その鼻っ面に突き立てながら、こう叫ぶのだった。


「私はもう、これからは自由に生きます!」



 剣が肉に食い込む生々しい感触。

 血が溢れ出し、魔猪が痛みにもがき苦しむ。

 それによって暴走しかけるが、私はすぐに短剣を引き抜いて今度は目を抉った。



「これでもう、自由……!」



 全身に血を被る。

 でも、それがむしろ快感に違いなかった。

 魔猪が倒れるのを確認すると、森の奥により小柄な猪を数体見つける。おそらくは、いまの魔獣の子供か何かだろう。


「すべて、狩ります……!」


 だったら、追う以外に選択肢はなかった。


「お、お嬢様! お待ちください!!」



 私兵長の慌てた声を背中に受けながら。


 


今日は頑張れたらもう一話。



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