第四話 再び召喚された俺
どこか嬉しそうにしていたパティの表情が変わる。
はっとしたように床を見つめ、そして俺を見た。
「ユウ!」
焦ったように俺を呼ぶと自分のしていた首飾りを引きちぎり俺の手に押し込む。
なんだ?いつものパティらしくないぞ。
首飾りを返そうとした次の瞬間、俺の全身が光に包まれ半透明になっていく。
イヤな予感がする。慌てて立ち上がり足元を見れば変な模様の魔法陣が回転していた。
これはアレだ。元の世界に帰れるか別のヤツに召喚されるか。
「ユウー!」
かすれゆく視界でパティの悲痛な叫び声だけが鮮明だった。
俺は泣いた。
戻ってきた視界に俺は帰れたわけじゃないことを知ったからだ。
白い柱の数々と白い壁、床も天井も白い。なんか神殿の一室っぽい。
手の中の首飾りを涙目で確認する。紫の石のついたシンプルな銀色のチェーン。
パティの瞳と同じ色のそれをズボンのポケットにしまって、まわりの人物を見回した。
金髪の男が二人、金髪の女が二人、こげ茶のしょぼしょぼの髪のおっさんが一人、赤い髪の女が一人。それぞれ豪華な服装だった。金ぴか軽装鎧に引きずった分厚いマントとか派手派手ドレスとか。大きな石のついた指輪とか首飾りとかじゃらじゃらつけて、それでいて衣装との統一性がない。全てが自己を激しく主張している。はっきり言って趣味が悪い。
俺は泣いた。
パティに慣れたせいかもしれないが恋ができそうなのが一人もいないことに。
どうしてお前らはそんなに老けているんだ。
そのうえお姫様っぽいのなんて二人とも化粧がけばすぎる。若作りを多大に失敗した感じだ。
王子っぽいのはどっちも下半身白タイツにショートブーツのみだ。なんでだよ!いやだ!こんな国で俺は恋なんてできそうにない!恋をがんばりたくもない!
俺は流れてもいない涙を拭った。
おっさんが一人だけ王冠みたいなのかぶってるからこの人は王様か?
金髪の四人は顔立ちからして兄妹だろう。じゃあ赤い髪の女はお妃さまか?
だとしたらこの兄妹、両親のどっちにも似てないぞ。
つーかお妃さま、こんなでかい子供が四人もいるようには見えない。
ん?なら金髪の兄妹は誰から生まれたんだ?もしやお妃さまは後妻か?
まぁ、見ず知らずの他人の家庭事情なんてどうでもいいか。
それより早く帰してくれ。元の世界かパティんとこに。
だいたいさっきから金髪男二人の俺を見る目が気持ち悪い。
上から下まで舐め回してるような視線に辟易する。
何の目的で喚んだのかは知らんが友達が欲しくて召喚したパティのほうがマシだ。
あいつはそんな目で俺を見なかったからな。態度も紳士で控えめ。やっぱパティしかマシだ。
こんなところでパティへの親密度が1上昇する。まぁこれも仕方ないか。
おっさんが一歩前へ出た。
「わたくしめはこの国の王を務めております。異世界より遠路はるばるようこそおいでくださいました、勇者様。」
揉み手というものを俺は生まれて初めて見た。マジで揉むんだな。へえ。
「ああ、突然のことに驚かれたのですね。ですがあなた様は間違いなく勇者様ですぞ。こうしてここにいることが何よりの証拠。」
ほっほっほ!と何がおかしいのかおっさんが一人笑っている。
何だか悪徳商人に引っ掛かった気分だ。これは逃げるに限るな。
だがここがどこかくらいは把握しておくべきか。
せめてパパパーテであってくれ。
「・・・異世界と仰いましたけどここは何という世界でしょうか?」
できるだけ下手に出ておく。
薄い頭髪、でっぷり出た腹、イヤな笑い方。
見た目からして上からものを言ってはいけないタイプだろう。
こういう王様はキーキー騒いですぐに投獄とかしそうだ。
「この世界はパパパーテ。古の言葉で神の掌という意味です。」
おっさんとは違う声に振り向く。
そこには金髪の男が二人、にこやかに立っていた。いや、にやにやか。
どっちが喋ったのか知らんがパパパーテなら問題ないだろう。
そんな名前二つとないだろうし。たぶんパティのいる世界だ。
「あなたには遥か東に存在する魔王を倒してもらいたい。もちろんお礼はさせてもらう。どうかな?」
背が高いほうのくるくるした金髪が言う。
「そうそう、魔王を倒してくれさえすれば君のことはオレ達が可愛がってあげるよ。優しく、ね?」
続けて低いほうのバカが言った。
こいつらマジか、気色わりぃなとドン引いたところで金髪女二人がくすくす笑いあう。
「お兄様たちったら。彼女はまだここへ来たばかりですのよ?焦っては逃げられてしまいましてよ、おほほほほ・・・」
「うふふ、本当にお可愛らしい方でお兄様たちのお気持ちもわかりますわ。ねえ、お姉様?」
「ええ、そうね。おほほほほ・・・」
「うふふふふ・・・」
そうか、お前らにはこの俺が女に見えるわけか。
子供の頃だけかと思っていたんだが・・・なのにお前らは今の俺でもそう見えると。へえぇ。
誤解を解くべきか解かざるべきか。
もちろん解かずにさっさとおさらばだ!
万が一あっちの姉妹に迫られたら俺の大切な何かが失われる気がする。
こっちの兄弟も同様だが女と思ってるうちは多少は油断してるはずだ。
それにしても魔王を倒すために勇者なるものを召喚するようなヤツらだ。
どっかに伝説の武器とか防具とかもあるんじゃないか?
そんなものを持った勇者があいつに喧嘩を売るのは困る。
パティは性格は良いが友達もいなかったようなヤツだぞ。しかも独身で一人暮らしだ。
いきなりの来客が勇者で敵対者なんて、そんなの寂しすぎるだろ。
ここはもうちょっと穏便にいこうぜ。
「あの、こちらに魔王に対抗できるような勇者の装備や伝説の装備などございませんでしょうか?私の世界では勇者はそのようなものを装備して旅立つと聞いておりますので。」
本やゲームの中の話だけどな。
パティの友人第一号としてはそんなものがあればそれらをなるべく頂戴して去るのみだ。
相手の言葉を待っていると、ちょっと存在感が薄そうな赤い髪の女がおっさんの袖を引く。
「あなた、あれのことではございませんの?」
どんぴしゃ。
赤い髪の女がお妃さまだったことと、そういう装備があるらしいことを知った。