第三話 懐かれた俺
あれから一ヶ月ほど経った。
この世界はパパパーテ、神の掌という意味らしい。
パパパーテが神の掌。パパが神でパーテが掌か?またはその反対か?
どんな言語にしろパパパ-テなんて二つとある名じゃないな。
そんな世界で気づけば俺のパティに対する親密度は40になっていた。
俺は目が腐ってきたのかもしれない。
日が経つにつれパティが可愛く見えるときがたまにあって焦る。
今思い返せば最低一日一回は親密度が1は上がっていた気がする。
おかげでパティも変に懐いていて今さらよそよそしくするのも気が引ける。
そういえばこの城でパティ以外のヤツに会った覚えはない。
ああ、だからパティは誰かを召喚しようとしたのか。
こんなところに一人ぼっちじゃ寂しいもんな。
それで話し相手とか友達とか喚ぼうとしたのかもしれない。
勝手に女と決めつけて悪かったな。
「なぁ。この世界の衣装の流行なんて俺は全く知らないわけだが、パティにはそういう色よりもっと明るい色の方が似合うと思うぞ。」
パティの焦げ茶一色のずるずるローブを見ながら、ふとそんなことを口にした。
前々から思っていたのだがパティはどうしてこんな地味で暗い色ばかり着ているのだろう。
例えこれが流行の最先端だとしても俺は認めん。絶対認めん。
「そうだ、パティに合うサイズでいらない服とかないか?」
そう言った俺が連れて行かれたのはパティの衣装部屋だった。
部屋は小ぢんまりしていて、そこにあったずるずるローブは思っていたより少なかった。
その中からパティが持ってきたのはクリーム色のずるずるローブとサーモンピンクのずるずるローブだった。
「この2着ともいらないの?」
こくりと頷くパティ。
「なんで?」
純粋な疑問だった。たしかにクリーム色とサーモンピンクなんて魔王が着る色じゃなさそうだが、持ってるってことは前は着てたんじゃないか?
「・・・色が、子供っぽいから・・・」
少し恥ずかしそうに言ったパティが可愛く見えた俺はやはり目が腐っているな。
それにしても着る予定のなくなった服をまだ持ってるってことはパティはものを大事にするヤツみたいだ。もしくは他の何かにリサイクルするつもりだったのかもしれん。やっぱ良いヤツだ。
パティに対する親密度が1上昇する。
ま、これは仕方ないか。勿体無い精神は日本人の心に響くものがあるからな。
「この2着、俺が好きにしてもいいか?」
クリーム色のずるずるローブとサーモンピンクのずるずるローブのハンガーを片手ずつに持ち、やや持ち上げてみる。
どちらも今パティが着ているずるずるローブとほとんど変わらない。
2着を順に見てから俺をじっと見つめてパティは小さく頷いた。
これなら多少手を加えるだけで少しはマシなものができるかもしれない。
自分の部屋に持ち帰るとベッドの上にずるずるローブを広げ、裁縫セットをパティに借りて作業に入る。
あ、と思って立ったままのパティを見上げた。
「ちょっと時間がかかるから、お前は好きなことしてていいぞ。」
しばらくは単調な作業が続くはずだ。こんな作業見ててもつまらないだろうと思ったが、俺の手元を見ていたパティが一つ頷くとポスンと右隣に座る。
「邪魔じゃないなら見てる。」
ハサミを持つ手を見つめるパティを横目で見てから俺は作業に入った。
まずはクリーム色のずるずるローブの首周りをカーブを描くように大きく切り取り首のラインと鎖骨あたりが出るようにする。次に腰のあたりでバッサリと裁ち、下のずるずる部分と分ける。
袖にとりかかろうとして、パティの肘の位置を確かめようと隣を振り返った。
「パティの肘ってどのへん?ちょっと袖捲くってみ?」
少し首を傾げたパティが左の袖を捲くる。
なんつーか白くて華奢な腕だな。まあパティなら筋肉ムキムキで大剣振り回してるよりは魔法を使う方が似合ってるかと納得する。
ハサミを置くとパティの左腕を持ち上げて肘の位置を確認する。
肩からこのくらい、と目星をつけてクリーム色の袖にハサミをいれる。
もう一着のサーモンピンクのずるずるローブも同じように切っていく。
こうして出来上がったのは各々2色のパーツ、肘までの袖がついた胴部分と腰から下のずるずる部分、肘から先の袖部分が2枚と首周り部分だった。
今回、首周り部分は使わないからこっちへ置いとく。
あとは端の始末をしてから色違いに繋げて・・・・・っと。
あ、いいこと思いついた。
裾で広がっていたずるずる部分の前側、左足の前あたりを縦に細長い三角形に切り取るともう一方のずるずる部分からも同じように切り取り、交換して少し内側で縫いとめる。
こうすれば足が動く度に違う色がちらっと見えてオシャレだろ。
袖も先が広がったタイプだったので肘から先の部分にも応用する。
元よりは裾の広がりが抑えられた形に仕上がった一着目のずるずるローブ改をざっと確かめてから隣のパティに手渡す。
「これ着てみ。」
受け取ったパティが少し戸惑ったようにローブと俺の顔を交互に見てくる。
思ったより少し派手になったが、まあ子供服をリメイクしたくらいのもんだしな。やっぱ恥ずかしいか?でも一回着てみろともう一度促すと、渋々パティがベッドから降りて鏡のほうへ行く。
野郎の着替えなんざ見たくもないので、二着目の仕上げにとりかかった。
俯いた視界にそっと入ったサーモンピンクに視線を上げる。
俺はついに目が腐りきったことを自覚した。
そこにいたのはパティはパティだが、女版パティだった。
どう?って感じでちょっと裾を広げてみせるパティにお前はどこの国の姫かと問いたい。
これは男これは男これは男これは男これは男これは男これは男これは男これは男これは男これは男!
こめかみに手をあて必死に呪文を唱える。
パティは男、よし。
「いいんじゃないか?さっきのよりは良いと思うぞ。」
俺の指先マジックで華麗な変身を遂げたパティに笑顔を向けた。