第二話 目覚めた俺
目覚めると俺はベッドの上だった。
ぼんやり見回し、どこの豪邸かと考えたところで思い出す。
そうだ、俺はイケメンに拉致されたのだ、と。
もう一度部屋を見回す。部屋は広く、大きな窓から光が差し込み妖精さんでも訪ねてきそうだ。白い縁取りの窓の両脇には白いレースのカーテン。家具はアンティーク調でベッドも天蓋つきな上どでかい。布団もふりふりな飾りがついている。どこだここ。あ、魔王城か。魔王城?
魔王城ってもっと基本黒か紫でツンツントゲトゲしてて飾りは骸骨やら蝙蝠の翼とかでどこからともなく変なものが溢れ出ているようなもんじゃなかったのかよ!?
ああぁ、魔王城のイメージが覆される。
かすかにダルい体でベッドからおりると、手近な椅子にこげ茶色のローブがかけられているのに気がついた。たぶんこれを着ろってことなんだろうが・・・少し体にあてて、やめにした。
これは躓く長さだ。俺には無理だ。
ローブを椅子に戻し、これからどうしようと迷っていると扉を小さくノックする音がする。扉を見ればわずかに開いて中の様子を見ようとしているようだ。どうやら無理に起こす気はなかったのだろう。寝てるならまた後にするとか。
ほんとに性格が良いイケメンだな。魔王だけど。
「起きてるよ。」
一声かけるとイケメンがゆっくり扉をあけて入ってくる。こうして同じ高さに立ってわかったのは、このイケメンと平均より若干・・・若!干!だが低い俺との身長がほぼ同じということだった。むしろ俺しか僅かだが高い。よし。
イケメンはずるずるした長さのローブを着ている。色は灰色で袖も長い。指先がちょっと出ているだけだ。もっと派手なものを着てもお前なら似合うだろうに。
輝く金髪と煌く紫水晶の瞳に少し毒気を抜かれたような気がする。部屋が部屋だけにイケメンのせいだけとも言い切れないが。
「ここまで魔王、さまが・・・」
なんと呼んでいいのか迷い、一応間違いではないだろう呼び方をした。その瞬間、ちょっと顔を曇らせたイケメンにピンとくる。
「あーっと、俺の名前は有沢悠也。たぶんあってると思うが、ここ風にいえばユウヤ=アリサワだな。で、魔王さまの名前は?」
「えっ、あ・・・私はパトリシア=ファンテミュー。その、よろしくな。」
わずかにほほえんだイケメンが少し可愛く見えたのは錯覚だ。俺は起きたてだからな。
でもパトリシアって女の名前じゃなかったか?・・・そうか、この顔なんだ。女だと勘違いしてつけられたのかもな。こいつくらいのイケメンなら子供のころはよく女に間違われたことだろう。
悲しいことにその経験は俺にもある。お前の気持ちは痛いほどわかるぞ。
「こっちこそよろしくな。俺のことはユウヤでもユウでもどっちでもいい。お前のことはなんて呼べばいい?」
「わ、私のことはパティと呼んでくれ。」
そりゃそうだよな。人前でパトリシアなんて呼ばれたくはないもんな。絶対からかわれる。
俺の中でパティに対する親密度が1上昇する。1だ。1だけだ!