第一話 召喚された俺
俺は泣いた。
力の限り泣いた。
それはもう濁流が渦を巻くかのごとく。
目の前には男がいる。
それはもうお前存在してていいのか?というくらいのイケメンが。
足元では素敵な魔法陣が「ごめんよ」と詫びているようだった。
俺は泣いた。
普通ここで登場するのは少女、もしくはお姉さん(こうなったらギリギリ熟女でもオッケイだ!)しかないだろう。
俺は泣いた。
だが俺の表情筋が動いた様子は皆無だったようだ。
無論涙も流れていない。この16年俺の表情筋は常に省エネモードだ。
ゆっくりと神々しいイケメンが俺に近づく。
だがちょっと待ってくれ。セオリー通りなら初めて出会ったひと(当然女性に限る!限らせてくれ!!特に巫女とか王女!)が恋人になったりするのだ。何が悲しくてイケメンと出会わにゃならんのだ!
魔法陣の外側に立ったイケメンが口を開く。
ああ、聞きたくない。お前の頼みなぞこれっぽっちも聞きたくない。絶対ろくでもないものに決まってるからだ。
しかしここで俺は閃いた。それはとても素晴らしい閃きだった。
そう!このイケメンに妹か姉がいる可能性だ!!未亡人ママンがいてもそれは除外だ!当然だろ?このイケメンにパパなんぞ呼ばれたくはないからだ!!
その可能性に気づいたとき、俺は自分からイケメンに近寄った。一歩分だけ。
イケメンは言った。
「すまん、間違えた。」
――と。
俺は泣いた。
柔らかな風吹く草原の、見渡す限り草原のど真ん中にある屋根しかない小さな神殿で。
イケメンが一体なにをしようとしたのかはわからなかったが、俺は間違えて召喚されたらしい。
残りヒットポイントが1までダメージをくらっていた俺だったが、なんとかいつも通りの感情のあまりこもっていない声をだした。
「・・・で、本当はなにを召喚しようとしたんだ?」
「いや、ちょっと、その・・・」
わずかに視線をそらせるイケメンに俺はピンときた。
―――こりゃ、女をよぼうとしたな。
こんなイケメンでも他から女を召喚しなけりゃキツイ世界なんて。
俺はイケメンに激しく同情していた。
思いっきり哀れみをこめてイケメンの肩をぽんとたたく。
「まあ、誰にだって失敗はあるさ・・・」
俺の憐憫と同情と哀惜の混じった視線を受けてイケメンは傷ついたように弱々しく笑う。
きっと本当に傷ついているんだろう。
こいつはイケメンで性格も良さそうだ。なのにモテない世界なんて俺がいても仕方ないだろう?
俺を表す言葉は平凡マスター、または旅立ちの村に住む村人Uだ。村人Uなんて一回話しかけるかどうかの存在だ。家の引き出しにある薬草を勇者にパクられてハイサヨナラな存在。
やはりこんな俺ではこの世界では分が悪い。いや、悪いどころじゃない。最低ラインだ。
魔法があっても恋ができないんじゃこちとらお呼びじゃないってんだ。もちろんイケメンは対象外だ。言うまでもないことだがな!
「じゃあ、そろそろ俺を元の世界へ帰してくれないか?」
この世界に見切りをつけて俺は帰る。
元の世界へと。
「・・・悪い、な。今は君を帰す方法がない・・・」
「・・・・・・・・・な、な、な・・・ななっ・・・!
なんだとうわあああああああああああっっっ!!!???
そっ、そうだ!もいっかいやれ!!さっきの召喚もっかいやりやがれ!!このイケメンが!!!」
「イケメ?・・・あ、いや、次の機会は半年後になる。それと、君を帰せるのも半年後だ。」
ふっ。半年後だろうが一年後だろうが帰れるという事実に俺はなんとか落ち着いた。
この半年をのりきれば俺は帰れる。こいつと疎遠になるのは得策じゃないと判断して、俺はイケメンに告げた。
「これから半年、お前に女心について教えていくつもりだ!お前ほどのイケメンなら女は即落ちる!だが安心してはいけない!釣った魚にもたまには餌をやれ!」
こうして俺のフレンドリストにイケメンが追加される。
そしてイケメンは言った。
「よくわからないが・・・どうやら君はいいやつだな。これから半年、我が魔王城で暮らすといい。できるだけのもてなしはさせてもらう。」
――と。
俺は旅立ちの村に住む村人Uだ。LVなんて1かそれ未満に決まってる。勇者のLV1とはわけが違う!溝は深いのだ!!なのになぜ魔王と住まねばならんのだ!?相手はラスボスではないか!!?
俺のなけなしのヒットポイントが簡単に抉られる。1しかなかったそれは当然オーバーキルされて・・・
俺は倒れた。
倒れた瞬間、俺を受け止めたなにかは柔らかかった気がした―――