03 秘密基地
女子の部屋に入るってもっとドキドキする物だと思ってたんだけどな……。
緋鞠の部屋は除いた話だけど。
どちらかっていうとこれは、秘密基地だ。
薄暗い部屋に棚一杯に詰め込まれた色々なガジェット。何やら波形を表示しているモニター。唸る低い機械音。
わくわくしてきた。
初めての部屋に落ち着かないのか。
犬状態の蛍火はチラチラと入り口の方を見ていた。
「その辺適当に座ってー」
「その辺って……」
空きスペースが無いんだが。
床には何やらメモ書きが散らばっているし、それがないスペースには布の塊が置いてある。
部屋着脱いだまま置いていらっしゃる?
とりあえずメモをどけて床に胡坐をかく。
「ふっふふー私の城へようこそー歓迎しようー」
「無理に雰囲気作らなくていいから」
主に魔王城的な。
座ってるのがバランスボールじゃ台無しだよ。
「えー? じゃあ早速話をしようかー。実は私もたくろーに頼みたいことがあるんだー」
「俺に?」
「そうそうー」
まさかこいつに限って緋鞠みたいに宿題写させてくれっていうのは無いだろうから何だ?
「そっちの話先に聞こうか?」
「んー大丈夫ーそれよりたくろーのはなしー。ずっと気になってたんだけど、その子なんなのー?」
と指さされたのは犬状態の蛍火。
ダンジョンから出て来てからずっと連れていればそれは気になるよな。
「蛍火」
軽く声をかければ意を酌んでくれたのか。蛍火が人型に戻る。
……寝屋がバランス崩してひっくり返った。
「びっくりしたー」
「だ、大丈夫ですか!?」
自分のせいで転ばせてしまったと蛍火が寝屋を助け起こす。
「ありがとー。心臓止まるかと思ったー」
顔と声はそう言ってないけどな。
あと蛍火が冗談本気にしておろおろしてるからからかうな。
「どういうことー?」
「まあ説明すると長くなるんだが」
この二週間……探索者になってからユニークモンスターとの遭遇までを掻い摘んで説明する。
高校入学以来の友人だが、信用出来る。その辺でぺらぺらと俺の秘密を喋ったりしないだろう。
聞き終わると、寝屋はしみじみ。
「よく死ななかったねー」
「それは割と本気でそう思う」
普通に二回くらい死ぬと思うんだよな……。
「とりあえずー私、Eランクだけど契約者、とかそういう話は聞いたことないー」
「いや、それだ。寝屋は何で探索者に?」
「だって探索者にならないとダンジョンは入れないんだもんー」
至極、当たり前の理由だった。
「つまり、ダンジョンの研究したくて現地に入りたいから探索者になった……?」
「そういうことー」
……金とかどうやって工面したかは聞かないでおこう。世の不平等さを嘆くだけになりそうだし。
「それで本題だ。俺はユニークモンスターが出現した時は衝突ダンジョンになってるんじゃないかって考えてる」
「んー。んー」
寝屋にそう告げると、彼女は唸り始めた。
「衝突ダンジョンはーまだ仮説段階ー。可能性としてはあり得るとしか言えないー」
「そもそも、衝突ダンジョンってどうやって検知するんだ?」
「それはねー」
何となく聞いたことを後悔した。
蛍火も苦痛そうに色んな数字と式の混じった話を聞いている。
「これはねー私がこの夏に作ったんだけどー」
俺には用途も分からないガジェット片手に実に楽しそうに説明してくれるのはありがたいんだが……。
専門的過ぎて全く分からん。
辛うじて理解できたのは。
「つまりその掃除機みたいなので図ると、ダンジョンの属性値的な物が分かると」
「サルでもわかるように言うとそういうことー」
誰がサルだ。
「それが複数あれば衝突ダンジョンだと?」
「理論上だと、こーんな風に数値がきっぱり分かれるはずー」
なるほど……。
「でも、全然衝突ダンジョンの実物が見れないからいつまでたっても理論どまりー。今日はもしかしたら実物見れるかもーって思っていったのにー」
「これか」
SNSの書き込みを見せると寝屋は頷いた。
「適当過ぎー」
「まあな」
十分に調査できたとは言い難いが、それなりに調べて反応が無かった挙句にモンスターの群れを押し付けられたのだからたまったもんじゃないだろう。
モンスターの群れも系統揃ってたしな……ああ、だからふつうーだったのか。
「みんな気にしないですぐにダンジョン攻略しちゃうから全然調べられないー」
それで自分で探索者になったのか……。
行動力、凄い。
「それで、一つ提案何だが……寝屋、しばらく一緒にダンジョンに潜らないか?」
「おー?」
「俺はユニークモンスターに狙われている雰囲気がある。もしも衝突ダンジョンがユニークモンスターの前兆だとしたら」
寝屋の唇がわずかに吊り上がった。
「たくろーにくっ付いてれば衝突ダンジョンに遭遇できるかも?」
ふっふふとひとしきり笑って寝屋は。
「でもたくろーの予測が正しければ、別にそんなに細かく分かる必要はないんじゃないー?」
見れば大体わかるよー? というが、そうではない。
「今回はフロアマスターから何まで変化してたけどさっきの寝屋の話だとそうならない可能性もあるんだろ?」
「そうだねー見た目は変化していない衝突ダンジョンってのもあると思う―。例えば、元々の系統が同じだとかー」
サルより賢いねーと言われたが、それは全く褒めてないぞ寝屋。
「確実に分かるのが欲しいんだ。いつもいつも後の事を考えてリソース温存しながら戦うのは厳しい」
勿論安全第一だが……緋鞠の魔石の事を考えるとあまり安全マージンを取るわけにも行かない。
そうなると、吐き出せるだけのリソースを吐き出せるようにはしておきたい。
実際にやるかは別としてやれるという選択肢を増やしたいんだ。
「だから寝屋の研究を手伝って、衝突ダンジョンか分かるようになればユニークモンスターを避けられるかもしれないし」
逆に準備万端で迎え撃てるかもしれない。
多分、いつまでも逃げ回ってはいられないだろうから。
主導権をこちらが握る。戦う戦わないの選択肢を相手に渡さない。
今回俺が達成したいのはそういう事だ。
「なるほどー。うんいいよー」
「あっさり」
「正直、やみくもに探すのもつかれたー。今年の夏ずっとこんなことしてたんだよー」
海もいけなかったーと恨み節。緋鞠みたいなこと言ってやがる。
「クラゲ出てるから諦めろ」
「むー」
「俺の話はこれで終わり。それで寝屋の頼みたいことって?」
「わすれてた」
忘れんな。それともそれほど大したことじゃないのだろうか。
「実はねー」
と言いかけて寝屋は口を閉ざす。
「なんかー気のせいな気がしてきたー」
「いや、お前ね……」
ここまで来てそれは無いだろう。
「とりあえず話してみろって。役に立てるか分からないけど」
「じつはー最近つけられてる……っぽい」
つけられてる?
どの漢字だ? と考え込んだところで寝屋から答えは明かされた。
「一言で言うとストーカー、かも」
眉根を寄せて、珍しく困っている表情で寝屋はそう言った。




