02 救援要請
「久しぶりーじゃねえよ! お前状況分かってんのか!?」
こんなにモンスターに囲まれてなんて悠長な。
寝屋という友人に対して語るとしたら……変人の一言で済む。
まず間違いなく頭はいい筈なんだけど、自分の世界を持っているというか。
今がまさにそれ。
「状況? ……なんか囲まれてる!?」
漸く気付いたのか。周囲を見渡して眠たげな眼が見開いた。
「救援、お前が出したんじゃないのか?」
「違うよー。今の今まで囲まれてるのに気づいてなかった!」
それじゃあ、救援を出した探索者はどこに? 蛍火に視線を向けるが小さく首を横に振る。
寝屋以外にはここにいない。そういう意味だった。
「兎に角脱出するぞ。ちゃんとモンスターに指示出してくれ」
「私、あんまり上手くないよ」
ここに来るって事はEランクかそれに近い筈なんだけど?
ただ確かに寝屋がきびきびモンスターに指示だしする姿は……イマイチ普段のナマケモノめいた印象には合致しない。
「だったら俺が纏めて指示するから従ってくれ」
最初に見渡すべきは敵。
この管理ダンジョンもうちの近所に漏れず炎系。
少し離れた俺の元にも熱気が来る程。
これまでの層のモンスター達がいずれも俺より小さい体躯でしかなかったのに対して、今並んでいるのはどれも視線の高さが俺と近い。
炎を鬣の様に纏った馬や蹄から炎を吹き出す牛がいる。
数だけなら二十体くらいで間引き作戦より少ないけど大型が多いので圧力は同等。
敢えて良い所あげるなら、寝屋が部屋の隅まで追いつめられていたので後ろは気にしなくていいという事くらいだ。
「寝屋、亀をもう少し前に出してくれ! ……おい、ちゃんと前見ろ!」
まずは前衛のラインをしっかりと作らないと。
そう思って寝屋に依頼するんだが……こいつ、余所見してやがる。
背伸びして、モンスターの群れの奥を見通そうとしている……が、多分その低身長では見えていない。
「うーん居ない。やっぱり普通」
「調べ物は後にしろ! 蛍火!」
「はい、主様!」
打てば響く蛍火の頼もしさ。
かわいそうな亀は狐娘の蹴りで無理やり前に出させられる。
「たくろーひどい」
「マジで、集中してくれ!」
「……もしかして結構やばい?」
「お前が思ってる十倍くらいは!」
やっと危機感が共有できたようで何よりだよ!
「がーちゃん、水を打ち出せるけど、つかう?」
「滅茶苦茶使う! あの鳥撃ち落としてくれ!」
ファイヤーバード……前が小鳥サイズだったならこいつは大鷲だ。
モンスターの壁の向こうから飛来してくる群れ。
それを亀の高水圧カッターめいた一閃が片っ端から撃ち落とした。
……この亀、強いな。
防御力は今見ている限りでもジャイアントビートル並み。
加えて近寄ってくるモンスターも自らタックルして弾き飛ばしている。
遠距離攻撃が一枚増えたお陰で、上空迎撃していた蛍火の手が空いた。
「あっちのアルマジロは何ができる!?」
「んとねー丸まってボールみたいになって突進ー」
見た目通りか。
「蛍火、指示出してる奴はいないな!」
「はい! こいつら、ただ近くにいる私たちに向かってきているだけです!」
統率個体も無し。
だったら、シンプルな作戦で行こう。
これまでの層の時と比べると間違いなく強い。
だが――対処できない程ではない。
何よりユニークモンスターの圧力に比べたら軽い物。
「寝屋、召喚解除できるように準備しておけ」
「んー? よく分かんないけど分かった」
「合図したら解除してくれよ」
召喚解除にもわずかだが時間がかかる。
瀕死のモンスターを救うために解除したが間に合わなかった、なんて話はしょっちゅう見かける。
俺の作戦が融合を介して蛍火に伝わる。
彼女からは……呆れたような気配。
「主様。それ絶対、私でやらないでくださいね?」
「やらんって」
「なら、良いですけど!」
そう言いながら蛍火が丸まったアルマジロ型を思いっきり蹴飛ばす。
「寝屋、加速!」
「あるくんがんばって!」
気の抜けた応援と共に、巨大な砲丸と化したあるくんがモンスターを引きながら広間を蹂躙する。
分かっていたけどこいつも防御力高いな。
敵の壁に強引に隙間が作られた。後ろも無茶苦茶にされて埋まる気配はない。
「サンドストーム!」
仕上げだ。自分たちの立ち位置すらわからなくさせて、一気に駆け抜ける。
使った俺は兎も角、寝屋は視界を奪われているだろうから手を引きながら。
「寝屋、召喚解除!」
「わかった」
動きの鈍い亀型と、敵陣ど真ん中で孤立しそうになったアルマジロ型の姿が消える。
それに合わせて蛍火が寝屋を抱え、俺はジャイアントビートルに跨る。
「通路まで退くぞ!」
幸い、向こうも組織だった行動を取っていた訳じゃない。
一度ガタガタにしてしまえば即座に囲み直すなんてことは出来なかった。
生まれた隙間を強引に押し通り通路まで退却。
「走れ走れ!」
狭い通路を埋め尽くすような勢いで、モンスター達が追いかけてきた。
「金剛身!」
先頭のモンスターの動きを止めたことで一気に玉突き事故の様になった。
後ろで団子になっているモンスターを尻目に、俺たちはその後も逃げ続けて。
漸く振り切ったと判断したころに足を止めた。
「たくろーありがとうねー」
「……どーいたしまして」
ジャイアントビートルの上で揺られに揺られ、息も絶え絶えになりながら俺はどうにかそれだけを言う。
「そう言えばこの子、モンスター? 人型何てレアだねー」
「あ、初めまして蛍火と申します」
「これはご丁寧に―寝屋さつきですー」
ぺこぺことダンジョン内で頭を下げ合う二人。
……教室で見ているクラスメイトと、ダンジョン内でしか見ないモンスター娘が並んでるのは違和感が凄いな。
雑な合成写真を見ている気分。
そんな現実逃避めいた思考を切り上げて、俺は寝屋に声をかける。
「寝屋。いつから探索者に?」
「んー半年前位? 拓郎はー?」
半年であの戦いっぷり……?
「半月ちょっと」
「おー、一文字違い。惜しいねー」
何が惜しいのか……。
「主様主様……この方、ちょっと変な人では」
蛍火にとっては四人目に出会った人間がこんなんで済まないと何故か謝りたくなった。
「つか、普通に今の危なかったぞ。あの状況は逃げ一択だろ」
「ごめんねー。あんまり戦ったことないからよく分かんなくてー」
流石に当人も結構やばかった自覚があるのか、口調が弱弱しい……いや何時もこんなもんか?
「戦ったことないって……半年も探索者してて?」
「そうそう。だって私、戦うためになった訳じゃないし。いっつもがーちゃんとあるくん任せー」
道理で、最初碌な指示してないのに一応戦ってると思った……。
「じゃあ何のために探索者に?」
「ダンジョンに入るためー。私、一応研究者ー」
さっきも調べものしてるって言ってたものな……。
ちょっと頭痛くなってきた。
半ば確信しながら俺は最後の問いを発する。
「去年の学生ダンジョン研究コンクールで佳作取った衝突ダンジョンについてのレポート書いたのってお前?」
「おー読んだんだー。そうそう、わたしー」
「マジか」
「マジマジ」
頭いいとは思ってたけど。確かにうちの学校で一人、模試で全国何位って成績だったけど。
あんな意味不明な数値が並ぶレポートをこいつが……?
……普段から意味不明なこと言ってるしある意味納得できてしまうな。
「まあいいや。ある意味好都合だし」
これは珍しく大歓迎したい偶然だ。
元々友人でぺらぺらその辺で喋るような奴じゃないという信頼もある。
「ちょっと寝屋に聞きたいことがあるんだけど」
「んー? なあに?」
「いや、そうだな……話すと長くなる。出来ればダンジョンの中じゃなくてどこか落ち着ける場所が良いんだけど」
ファミレス……いや誰が聞いてるか分からないしな。
あと犬(狐)モードの蛍火を連れて行ける場所じゃないとダメだし……。
「んーそれなら私の部屋くるー? 二人きりで話せるし―」
普通異性の部屋に招かれるってドキドキするんだろうけど、こいつの部屋って聞くと何が飛び出してくるか分からなくてドキドキすんな……。




