01 銀の弾丸を求めて
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8月31日 夕方 新学期初日
管理ダンジョン 11層
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「主様、今日は何故ここに?」
いつもと違う場所――端的に言えば学校に近い場所の管理ダンジョンだ。
難易度としてはどの管理ダンジョンもさほど変わらないので、わざわざ別の場所に来る理由もない。
本来なら。
「これだ」
そう言って蛍火にスマホの画面を見せる。
「変な組み合わせのモンスターが居た。ここの話ですか? これが何か?」
「思い出さないか」
「思い出すって何を……私たちが最初に攻略したダンジョンですね!」
「そうあそこだ」
急にモンスターの傾向が変わった、ユニークモンスターに襲われたダンジョン。
「ちょっと調べてみたんだけどやっぱりああいうダンジョンって特殊みたいだ。ほら、これ」
リュックから取り出したのは、組合の資料室でコピーしてきた一つのレポート。
「なんですか、これ? 学生ダンジョン研究コンクール?」
「去年の奴みたいだ。そこで佳作取ってた研究。衝突ダンジョン――二つのダンジョンが同じ座標に発生したら起こりうる現象だってさ」
小難しい数値がつらつらと並んでいて、その意味まではさっぱりだ。
結論として言えば。
「俺達が襲われたあそこは衝突ダンジョンだった可能性がある」
「はあ」
イマイチピンと来ていない蛍火に俺は指を立てた。
「俺達がここしばらくダンジョンの最深部に行って無いのは何でだっけ?」
「ユニークモンスターに襲われる可能性があるからです」
そう。
どういう条件で襲ってくるのか分からないが、調べた限り最下層以外での出現報告はない。
契約者を狙っているのだとしたら、みっちゃんと接触できる最深部で襲ってくるというのは自然な話。
だからユニークモンスターを避けるために9層までに留まっていた。
「だけどそれがいつまでも続いたら、俺達はEランクに上がれない」
昇級条件の一つが☆1ダンジョンの複数攻略だからね。
「だから俺はここしばらくユニークモンスターの出現を予測する方法は無いか探してた」
そうして、一つのヒントを見つけた。
「ユニークモンスターの傾向は6大ダンジョンの物と一致している。奴らは、そのダンジョンマスターの可能性ありってな」
6大ダンジョン……各大陸に一個ずつ出現している最上位ランク☆6ダンジョンの総称。
そう、俺は一つ貴重な情報を聞いている。
『現行分体で対処可能な範囲を逸脱』
『全監視ユニット本体へ通達』
そう、あの時のあいつは自分を分体と言い、本体がいると言っていた。
本体が、もしも☆6ダンジョンのダンジョンマスターだとしたら。
そして、その分体というのが、ダンジョンも含めた構成だとしたら?
ダンジョンごと、来たのだとしたらそれはここに書かれていた衝突ダンジョンという事にならないか?
推論に推論を重ねた、今のままでは単なる妄言だ。
だけど、もしもそれが証明出来たら。
ユニークモンスター出現の前兆を察知できるかもしれない。
「凄いです主様!」
「もっと褒めろと言いたいところなんだけどな。俺じゃそこまでだ。具体的に、何がどうなったらこれは衝突ダンジョンって言えるのか分からん」
だからここに来た。
衝突ダンジョンを研究している人と接触……出来るかもしれない場所に。
「でも主様。そのレポート書いた人が誰だかわかるんですか?」
「いや、さっぱり」
一応組合でも聞いてみたけど、個人情報ですのでと断られた。そりゃそうだ。
「ヒントと言えばこれだけ」
そう言ってレポートに張られた一枚の写真。その隅を指さす。
それを見た蛍火が気付く。
「緋鞠様と同じ服です!」
「そ。うちの学校の制服なんだよこれ」
自撮りみたいにして撮ったのか。見慣れた制服の一部が映り込んでいた。
「こいつと接触できるか。それが今日の目的だな。後は☆2ダンジョンの階層で俺達が戦えるかの確認だ」
「なるほど。上とは雰囲気が随分と違いますね」
周囲を見渡して、蛍火が低く呟く。
「……気を付けろよ。殆ど解除されているらしいけど11層から下にはトラップがあるらしいから」
まあ解除技能は俺にも蛍火にもないからジャイアントビートルの漢解除で進むしかないんだけど。
その手の技能持ちモンスターか道具が必要かもな。
しかしそれはそうと。
「全然いませんね主様」
「いないな。タイミング悪かったか……?」
しばらく探索するがモンスターの姿が無い。
丁度俺達が来る前に倒されたのか或いは。
「どこかに固まってるかだな」
「それは、いつぞやの様な?」
統率個体。後で調べたところによるとまだあれ以降の出現は確認されていない様子。
「それもあるけど、誰かがモンスターから逃げているうちに大量に引き連れちゃってそのままってパターンがあるんだよ」
他の人がいる管理ダンジョン特有の問題だ。
もう少し奥に行くかと、悩んでいると俺のスマホが通知音を鳴らす。
「ダンジョンの中なのに?」
転移門の近くは電波が届くけど、そもそも中の時間が早いので通信環境は劣悪。
普通碌な通信が出来ていない筈なんだけど……。
そういえば管理ダンジョンは中継器設置しているって言ってたな。
「救援要請?」
同じ階層内にいる探索者が危機的状況になって救助を求めている。
これがあるから管理ダンジョンはリスクが低いとも言えるのだが……問題は。
「主様?」
「……正直に言えば助けに行くか迷ってる」
俺みたいに様子見で来たのでなければ、今救助を求めているのはEランクの筈。
自分よりも上のランクの人間の窮地に、果たして役立てるのかという疑問もある。
いや、役立たずで済むならいい。問題は、この階層の人気のなさだ。
俺以外に救援がいなかったら……。
「最悪共倒れになるかもしれない」
緋鞠を残すわけにはいかない。
ここで俺がしくじったら彼女の未来が閉ざされる。
漸く開きかけたのに。
一つだけ絶対の事実がある。
ここでこの誰かを見捨てて、その人が死ぬようなことがあったら俺は一生後悔する。
懊悩の果てに俺は声を絞り出した。
「……様子を見に行こう」
状況を確認してからでも遅くはない。
そう、自分に対処可能な様子であれば助ける。
難しそうであったら追加の救援と同時に突入する。
そんなどっちつかずな判断。ただの先送りを自覚しつつ、俺たちは先に進む。
それなりに進んだところで、蛍火が脚を止めた。
ジャイアントビートルもそれを見て止まる……いつの間にそんな連携取れるようになってたんだ?
組合から提供のマップによればこの先は広間――モンスターが溜まるには丁度いい場所だ。
「主様、戦闘の気配です……数が多いですよ」
退きますか? 視線でそう問いかけている。
俺の判断に従うという意思表示。
「探索者の気配は?」
「この先の広間に恐らくは一人ですね。他の気配は感じられません」
つまり俺が一番乗り。
そして追加は当面無さそう。
想定していた最悪のケースだ。
歯を食い縛る。
見捨てたくはない。だけど。
「もー、しつこい……」
ふと、広間の戦闘の隙間。
ほんの一瞬音が途絶えたタイミングで少女の声が届いた。
そう、それは聞き覚えのある声。
何故こんなところにいるのかという疑問。
そして同級生で、ダンジョンにいる――あのレポートとの関係性。
天秤が即座に傾いた。
「ジャイアントビートルを先頭に突入する」
「良いんですね、主様!?」
「ああ、行く!」
「承知しました! 腕が鳴りますね!」
同時に蛍火と自身を融合。
俺自身の耐久力を上げつつ、彼女へ俺の魔力を供給する。
「敵を分断する!」
ストーンピラー。
そしてスパイダーウェブ。
敵集団の中に立った複数の石柱。そこへ糸を張り巡らせることで即席のフェンスを形成。
敵の流れを一瞬押し止めた。
「ストレングス!」
そこへ身体強化したジャイアントビートルを投入。一気に空間を押し広げて、壁の向こうの探索者と合流する。
今まで見かけた探索者の中でも一際小柄。色素の薄い金髪を二つに纏めた姿。
学校で見かける姿とは違い、全身をすっぽりと覆うようなポンチョを被っている。
どこかたどたどしい動きで自分のモンスター……亀型とアルマジロ型に指示を出しているが、とにかく遅い。
視線があちらこちらに向いていて、なんだか戦闘に意識が向いていなさそう。
初日の俺でももう少しマシだった気がする。
「うーん、ふつうー。やっぱり違ったのかなあ」
興味津々でダンジョンの壁を眺めているけど……こいつ、状況理解できてんのか?
「こんなところで何やってんだ、寝屋!」
「おーたくろーだ。一か月ぶり」
どこか眠たげな眼をこちらに向けながら、そんな気の抜けた挨拶をしてきたのは――始業式からサボりをかました同級生、寝屋さつきだった。




