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27 ユニークモンスター:上

 いつの間に現れたのか。

 蝶の群れの向こう側に人型がある。

 

 それはまるで、蝶を人の形に整えたらこうなるという。

 旨い具合に調和が取れていた蛍火に慣れているからこそ、受け入れがたい奇怪な姿。

 

 蝶のパーツを無理やり張り付けたかのような不格好さ。

 

 だというのに、口元から流暢な言葉だけが流れている。


「対象脅威度判定――Fマイナス。排除に支障なし」


 その内容は。

 死刑宣告。


「これより回帰を開始する」

「主様!」


 最初に正気に戻ったのは蛍火。

 俺を抱きかかえて、周囲を取り囲む蝶の中から離脱しようとする。

 

 だが。

 

「広間中にっ!」

「俺がやる!」


 完全に、終わりだと思っていたダンジョンマスター戦の直後。リソースが厳しい。

 それにあのみっちゃんとの会話時に同調も切れてしまった。

 

 残るスペルリングは使いそびれた二つと新たに手にした二つ。

 

「サンドストーム!」

 

 生じた砂嵐。

 これでこの薄紙の様な儚い蝶を吹き飛ばされば。

 

 そうでなくとも時間稼ぎ位は行えるはずだった。

 

「今のうちにポーションを呑んで回復を、蛍火?」


 最後の一本を手渡して、神威限定解放の消耗を少しでも回復させようとしたところで。

 蛍火の視線があらぬ方向を向いていたことに気付いた。


「主様、砂、嵐が」


 俺の視線もそちらに向く。

 先ほどまでは盛んに吹き荒れ、視界を遮っていた筈の砂嵐。

 

 それが、今では。

 

「消えた……?」


 そよ風の様に俺の前髪を僅かに揺らしたのが最後。

 経験上、まだ効果時間は残っているハズなのに何故。

 

 それに俺の眼には蝶の数は減っていないように見える。

 

 あの見た目で防御力が高いのかそれとも……。

 

「魔法が無力化された?」


 そうとしか見えない光景だった。

 

 相手の能力の分析は後回しだ。

 ドロップ品は全て拾った。

 もうこの場には用事がない。

 

 というか、このダンジョン自体に用がない。

 今は――逃げの一手だ。

 

「逃げ――」


 ユニークモンスターだろうが何だろうが、ダンジョンの外に出られないのは一緒だ。

 さっさと起動した転移門から外へ逃げて。

 

「いや、違う」

 

 そこで気付いた。

 そんな簡単な方法で逃げられるのなら、何故これまで契約者の情報が出てこなかった?

 

 全て情報封鎖されているのならば、過去の契約者はユニークモンスターの襲撃に例外なく逃げられなかったという事では?

 

 ならば、ここの転移門は……機能を失っているのでは?

 

 判断を一瞬迷った。

 

 その一瞬で蝶が輝きを増して――爆発。

 蛍火の神威限定解放並みの炎の華が俺の目の前で咲く。

 

「ジャイアントビートル!」


 咄嗟に自陣の盾を呼び寄せる。

 間一髪で割り込みの間に合ったジャイアントビートルに感謝しながら距離を取る。

 立て続けの爆炎に、本体らしき人型から離れざるを得ない。

 

「主様どうしますか!」


 蛍火の問いに腹を括った。

 

「続行だ! ここでこいつを仕留める!」


 二時間かけて、転移門へ移動しもしも機能停止していたら。

 その時はまた二時間かけてここに戻らないといけない。

 

 いや、二時間で済むかも分からない。

 この本体らしき蝶人がどこかに移動したら、今の俺達に見つけ出す手段はない。

 

 今この場で倒せなければ、リソースの枯渇で立ち行かなくなるのはこっちの方!

 

 ジャイアントビートルの背に乗って炎を避ける。

 幸いというべきか蝶の移動速度はそこまでじゃない。

 

 回り込むように炎を打たれたら危険だった。

 

「長期戦はこっちが持たない。速攻だ」


 問題は、敵の能力が全く不明という事。

 今のところ見せているのはあの爆発……蛍火の最大火力並みの攻撃を炎弾以上の気軽さで出してくるのは勘弁してほしい。

 

 あれだけの威力にも関わらず、予備動作が殆どと言っていいほどない。


 周囲に蝶を展開したまま、微動だにしない。

 その複眼も何を捉えているのか。

 

 蝶たちだけがあわただしく動いて、俺達を囲もうとしている。

 こっちの移動速度についてこれていないので、動き回っていればこうして作戦を立てられる。

 

 無意味な追いかけっこを続ける相手の意図は不明。

 

 だがこれはチャンスだ。

 

「本体が動かないうちに、一気に距離を詰める……やれるか蛍火?」

「はい。お任せを」


 ちらりと指に嵌めたスペルリングを見る。

 クイーンアントに使った奴は兎も角、ここに来るまでに使ったリングは回復したらしい。

 

 フロストとスパイダーウェブが使えるのは大きい。


 そしてクイーンアントのドロップと……あの契約で手にした赤いリング。

 

「ストーンピラーと、バックドラフト」


 ストーンピラーは恐らく名前の通り石柱を出すのだろう。

 バックドラフトが分からない。名前と、入手経緯の類似性から炎系のスペルか……?

 

 ぶっつけ本番で使ってみるしかない。

 

 蛍火との再同調も出来た。

 

「まずは蝶を蛍火の攻撃が通るか試してみよう」


 スペルリングによる魔法は無力化された。

 だけど蛍火の炎はどうだ? 同じ魔法と言っても威力も大分違う。

 

 無効化に限界があればもしかしたら。


「遠距離から爆破できればそれが――」


 その瞬間。

 突然進行方向に蝶が現れた。

 

 飛んできたわけじゃない。

 本当に最初からそこにいたように。

 

 輝き始める。

 それが爆発の予兆だと一度見て知っている。

 

 だけどこの位置。俺が乗っているジャイアントビートルを盾にするのは間に合わない。

 繋がった意識の中で蛍火の焦りが伝わってくる。彼女も間に合わない。

 

 咄嗟に身体を倒した。

 バランスを崩して、ジャイアントビートルから落下する。

 

 原付並みの速度からの落下だ。

 地面を転がる痛みに耐える。

 ――不思議と、それほど大きなダメージは無かった。

 最悪骨が折れてもおかしくなかったのに、どうして?

 

 次の瞬間爆発。直撃したジャイアントビートルが煤けながら炎の中から飛び出してくる。

 あのまま乗っていたら、あの爆発の中心にいたのは俺だ。

 

「主様! 捕まって!」


 叫びながら蛍火が俺を抱える。

 ……少し、いつもよりも腕の力が弱い。

 見れば蛍火の表情はどこか歪んでいる。ダメージを負った? いつ?

 その最中にも蝶が次々と先回りするかのように出て来て、爆発。

 

 疑問は一旦棚上げする。

 細い首に腕を回しながら、爆風に負けないように声を張り上げる。

 

「何で急に!」

「分かりません! こいつら、急に速く!」

 

 不味い。攻略の糸口がつかめない。

 こいつ、一体どういう能力なんだ?

 

 無効化。爆発。高速移動。

 関連性が見つからない。

 

 それにどうして最初からこの高速移動を使わなかった?

 

「主様、策は!」

「考えてる!」

 

 こいつの能力。

 それが分からないと、このまま摺りつぶされる!

 

 焦りが頭の中に満ちていく。

 思考が空白になりかけた瞬間。

 

『その時もてめえは人に答えを聞くのか?』


 その時、雷蔵の言葉が脳裏に蘇る。

 

『誰も知らねえ初見の答えを』


 ――違う。

 頭がパニックになりかけていた。

 答えを知る必要はない。

 

 ただ、そうなることを前提に作戦を立てればいいだけ。

 

 回り込まれる? だったらそれを踏まえて対処すればいい。

 

 思い出せ。

 瞬間移動めいた回り込み。そこから爆発までのタイムラグ。

 そう、俺が見て行動を起こせるだけの猶予はあった。

 

 ならば蛍火にとっては容易い。

 

 例え回り込まれても、彼女ならば振り切れる。

 

 俺を抱えたまま蛍火が頷く。

 骨子は変わらない。

 

 蛍火がメイン。

 俺とジャイアントビートルが攪乱だ。

 

 タイムラグから考えると、恐らくだが複数の能力を同時には使えない。

 

 能力使用直後の継ぎ目。

 俺はその隙を狙う。

 

「行け!」


 背後から飛翔したジャイアントビートルへ俺を乗せ、蛍火が敵の本体を狙う。

 

 案の定回り込んできた蝶を――蛍火の炎が貫いた。

 

「よしっ!」


 やはり移動直後は無効化できていない。

 あの小さな蝶なら蛍火の炎弾一発で燃やし尽くせる。

 

 だが敵も無策ではなかった。

 正面だけでなく上下左右後ろ。あちらこちらに移動して蛍火を取り囲もうとする。

 

 蛍火では対応しきれない。

 同調越しで一つ、指示を飛ばす。

 

「フロスト!」


 範囲を絞らない広域のフロストで蝶を一気に凍り付かせる。

 蛍火はそのタイミングに合わせて自身に炎を纏って相殺した。

 

 本体を目前にして、ぽっかりと空白地帯が生まれた。

 

 そこへ蛍火が一気に駆け込む。

 足裏で炎を弾けさせて加速。

 

 掌打に炎を重ねた一撃は――確かに人型を貫き大きなダメージを与えた。

 

 行ける。

 防御力は高くない。

 

 どう見てもダンジョンマスターどころかフロアマスターよりも柔らかい。

 

 これならば勝機はある。

 

 そう思った瞬間に。

 

「そんな……」


 蛍火の愕然とした声。

 

 共有された彼女の視界の中で――今与えたばかりのダメージが、時間を戻したかのように回復していた。

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