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23 最深部へ

 7層を開放してすぐ、俺は一度ダンジョンの外に出る。

 

 6層攻略に計4時間半。

 ダンジョン外ではまだ30分程度しか経過していない。


 一旦家に帰って四時間ほど仮眠。

 店が開く頃になって起きだして、この後の攻略に必要な装備を揃えていく。

 

 こういう時組合併設のショップに行くと必要な物が粗方揃っていて助かる。

 

「テントに寝袋、それから簡単な調理器具もあると良い、か」


 間引き任務で入ったお金は約10万。

 半分は蛍火の偽装代金の予定だったが……今は緊急事態だ。

 緋鞠には来月返す。絶対に返す。

 

 この後は攻略まで基本ダンジョンで過ごすつもり。

 フロアマスターの広間は一度倒してしまえばモンスターの沸かない安全地帯。

 間引き作戦を真似して、そこにベースキャンプを作る。

 

「蛍火も寝袋あった方が良いかな」


 もう一つ寝袋を購入。

 後は雷蔵がくれたようなダンジョン産の栄養ドリンク――もといポーション。

 

「高っ!」


 一本一万もするものコーヒー感覚で渡してくるんじゃねえ。

 

 だが傷を癒せるのは欲しい。

 断腸の思いで二本買う。

 

 そして食糧だが――ここは先輩方が作り上げた裏技に頼るとしよう。

 

――――――――――――――――――

 8月16日 昼前 探索者8日目

  ☆1ダンジョン、第7層

――――――――――――――――――


「これで七層もクリア」

「順調ですね」


 この層は凡そ五時間での踏破となった。

 相変わらず途中でモンスターの傾向が変わるのも一緒。

 

 フロアマスターは巨大カマキリ。

 過去最大の攻撃力を持つ敵だった。

 

 それは滑らかな断面を見せている岩と、刻み込まれた床の切れ目が物語っている。

 

「っ……」


 二の腕から滲む血。

 持ち込んでいた救急キットから消毒液を取り出して絆創膏を張る。

 

「申し訳ございません主様。私の不手際で」

「いや、まさか斬撃飛ばしてくるなんて俺も想像してなかった。モンスター、だものな」


 厄介だったのが、鎌を振るった際に斬撃を飛ばして中距離攻撃を仕掛けてきたことだった。

 初見ではそれを見抜けずに蛍火が腕に傷を負った。

 

 幸い、ポーションを一口飲んだだけで蛍火は回復できた。

 

「主様もこちらを」

「いや、この位だったら良い。蛍火の回復が優先だ」


 ここで勝利の鍵となったのもジャイアントビートルだった。

 果敢に盾として前に出て、その斬撃を身体で受け切った。

 

 二度のフロアマスター戦を経て、今のレベルは6。

 戦闘によるレベルアップだけで蛍火を追い抜いたのだから、蛍火のレベルが如何に上がりにくいのか分かる。

 

「魔石、やはり小さめですね」


 そして問題のドロップ。

 

「10グラムに、スペルリングは無しか」


 フロアマスターのドロップ品は適正内なら良い物が出やすい筈。

 にも拘らずのこの惨状はやはり適正から外れている証だろう。

 

「大丈夫だ。計算の内だよ」


 不安そうな顔をしている蛍火を俺は励ます。

 

 とはいえこのダンジョンで魔石が集められなかった場合も厳しい事になる。

 次のダンジョンをスムーズに予約できるとも限らないし、そもそも今のダンジョンの期間が終わるまでは次のダンジョンの予約が出来ない。

 

 鍵はダンジョンマスターがどれだけの量を落とすか、だ。

 

「よし、一度休憩にしよう」


 気を取り直してそう音頭を取る。

 

 ここについては考えてもどうしようもない。

 

 5層のフロアマスターの広間に戻り、時計を見る。

 

「多分届いてるから一回外出てくる」

「何がですか?」

「配達」


 ダンジョンの外――ダンジョンの入り口である黒い靄の前にぽつーんと袋だけが置いてあった。

 

「ダンジョン入り口前にほんとに置き配してくれるんだな」


 ダンジョン探索中にちゃんとした食事を取りたい時の裏技らしい。

 ダンジョンを探索していても、外では時間がほとんど進まない。

 だから外に置いておいた方が食べ物は長持ちする。

 

「なんだかいっぱいありますよ主様!」

「過去一反応が強い」


 そんな大きな声聞いたことないよ。

 近所のファミレスから配達してもらった普通の定食なんだけどな。

 

 そういえば蛍火って食事、ドッグフードとかカップ麺だけか。


「そういえばモンスターって食事いるのか?」

「いえ、いらないですね。基本的には。嗜好品です」

「それは良かった……」


 必需品だったら今後、ダンジョン探索時の食費にも頭を悩ませるところだった。

 

「今日みたいに短期で一気に攻略したい時だけだからね。こういう食事。はい、デザート」


 おまけとばかりにスイートポテトを付けてあげたら蛍火のテンションは鰻登りだった。

 その姿を見ていると、少しだけ疲れが抜けていく気がする。

 

 外で仮眠を挟んだとはいえ、2つの層の攻略で9時間近く歩き尽くめだ。

 一度テントを使った本格的な休息。


 続く8層は休憩時間を含めて約7時間での踏破。

 フロアマスター戦は巨大トンボ。スパイダーウェブとサンドストーム、ウィンドブラストを駆使して飛行を妨害。

 そこへ蛍火の炎が翅を焼き尽くしたのが決定打。大きなダメージも無く撃破。

 ドロップは相変わらず魔石のみ。

 

「……ダメだ蛍火。今日はここまでにしよう」


 ダメージは無かった。

 だけど疲労感が凄まじい。服が鉛になったように感じる。

 

「同調のせいでしょうか?」

「かもな」


 ただ雷蔵の忠告には疲労感については無かったのが気になる。

 慣れれば気にならない様な物って事なのか……?

 

 更にダンジョン内で一夜明けて9層。

 一日でフロアマスターの広間に辿り着けず。


「時間がかかるな」

 

 来た道を戻り、二日に分けての攻略となってしまった。

 思いがけないタイムロスに焦る。

 フロアマスターはジャイアントビートルの近縁種であろうクワガタ型モンスター。

 

 しかし既に本家が5層、そして鋏という所も7層でのカマキリ戦の経験が生きた。

 初見だったら大苦戦だっただろうが、難なく撃破。

 

「約45グラム。想定通りだ」


 想定通りなのだが、やはり焦る。

 本音を言えば下層に行くにつれて増えて欲しかった。そうすれば、もう少し余裕が生まれたのに。


「10層……ダンジョンマスターですね」

「ああ。だけどその前に一個試したい」

「試す、ですか?」


 蛍火の問いに頷いて天井を指さす。

 

「飛ばしてきた1~4層のフロアマスターを倒せるかどうか」


 結論から言えば、1~4層も攻略可能だった。

 ダンジョン内の1日で2層ずつ。

 

 だがそこで予想外の苦戦を強いられる。

 

「炎系だな」

「炎系ですね」


 ここまで、虫系に対して蛍火の炎が有効に働いていた。

 しかし、ここで敵が炎系に変わったことで相性が逆転した。

 

 ジャイアントビートルはその甲殻で耐えてはいたが、物理偏重だった下層よりもダメージを負わされ。

 蛍火の炎も流石にフロアマスターの炎相手では一方的に飲み込むこともできず。

 結果として殆ど蛍火の格闘戦で決着をつけることになった。

 

 魔石は期待通りドロップしたが、大分少ない。4つの層を合わせてトータル30グラム。

 ここまでで75グラム。

 

 ダンジョンマスターが25グラム以上落とすかどうか。

 

 今から緊張していては身が持たない。

 だが意識するなというのが無理だ。

 あの緋鞠の表情を、疲れたような笑顔を思い出してしまう。

 

 今は、今だけは緋鞠の事を頭から追い出してダンジョンに集中しないと。

 

 だから俺はこれまでの層での気になったことをあえて口に出して考えを纏めていく。

 

「1~4層は完全に炎系だけ。5層以下は途中から虫系になっていく……」


 やっぱり奇妙だ。

 何より、5層からというのが妙な一致を示している。

 俺が落下し、蛍火と出会った層。そこを境にダンジョンが変化した。

 

 それは蛍火が原因なのか?

 

 ちらりと、スイートポテトに目を輝かせて尻尾を振っている獣耳の少女を見る。

 

 いや、その場合でもおかしい。

 蛍火の属性はどう見ても火だ。

 彼女が原因なのだとしたら虫系が混ざるという事は無いだろう。

 

 外に出た時に調べてもやはりそんな事例はなかった。

 危険かもしれない。

 だけどまだ、その危険が顕在化していない以上、ここで退く選択肢はない。

 

「蛍火。ここで最後の休憩を取る。一眠りしたら……最深部に行くぞ」

「はい」


 ダンジョンマスターとの戦い。

 フロアマスターよりも更に強化されたモンスターが出てくるという話だ。

 

 だがそれ以上に俺たちにとっては。

 

「魔石、集まると良いですね」

「お母さんの手がかり。見つかると良いな」


 俺たちの目標にとっての通過点でしかない。

 

――――――――――――――――――

 8月16日 夕方 探索者8日目

  ☆1ダンジョン、第10層

   内部時間、100時間経過

――――――――――――――――――


 ――ダンジョンマスター戦開始。

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