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15 統率個体

 銀色の髪が炎のように煌めいた。

 足刀一閃。

 

 巨大ヒルを一瞬で仕留めて叫ぶ。

 

「主様! 囲まれてますよ!?」

「だから呼んだんだ!」


 一気に雪崩れ込まれて、状況を説明する暇もない。

 それでも即座に敵に対処してくれる蛍火の頼もしさ。


「てめえ。人型とはとんだ隠し玉を――お前ら目を閉じろ!」


 妙な指示にまさかと思い、咄嗟にスペルリングを切る。

 

「サンドストーム!」


 砂嵐が俺たちの周りに壁を作り出す。

 敵の勢いも落ちた。

 

 そして何より――一番欲しかった考える時間。

 それが得られた。

 

 考える暇が無いならまず最初に考える時間を捻じ込む。

 事前に用意しておいた計画の一つが上手くハマった。

 

「良いぞクソガキ!」

「いたのか?」

「居た。バシリスクだ」


 石化の魔眼を持つ蛇の王。

 

「お前ら砂嵐が消えても視線を上げるな!」


 敵に囲まれた状況でそれは命取りになるような指示。


「極力自分の足元を見るようにしろ。直接視線を合わせなければ即座に石化はされねえ。おい、視界塞げるスペル他には?」

「これだけだ!」


 沼トカゲの襲撃をジャイアントビートルを盾にするようにして避ける。

 過去の経験から言って後3秒!


「もうすぐ効果が切れる!」

「チッ! お前ら逸れんなよ!」


 十分な作戦タイムもなく、再びモンスター達が雪崩れ込んでくる。


「ジャイアントビートル! ここで攻撃! 蛍火も近づいてきた奴を片っ端から叩け!」

「刹那ネズミ! レイジングキャット!」


 まずはこの階層でも左程強くない奴らが先鋒を任されたらしい。

 互いに背中合わせになって、沼トカゲ、そして巨大ヒルたちを撃退していく。

 忌々しい事に連携めいた物さえ取ってきている。その秘密は――。


「しゅーしゅーって向こうで鳴いてます!」


 足元を見ているだけではその姿は見えない。蛍火はその聴覚で存在を捉えたらしい。

 盛んに鳴く理由。それは――。


「指示を出してんのか!」

「群れを率いているのもバシリスクか! マジで最悪だな」


 普段は連携しないモンスターが連携してくるだけでこんなにも厄介!

 今は何とか持ちこたえられているが、まだ後に控えている大型モンスターを投入されたら支えきれない!


「おっさん、なんか隠し玉ないのかよ!」

「ある!」


 先鋒の波を凌いだ直後、巨大な沼ワニが二体並んで突撃してくる。

 息を付く間もなく、次の波が襲ってきた。

 

「頼む!」


 その言葉で彼女には通じた。

 一体の背中の上を蛍火が足場とする。

 

 拳が分厚い皮を通り抜ける打撃を、炎弾が伺うモンスターへの牽制を。

 ――既に彼女は長期戦に備えている。最小の消費で大きなダメージを与えられるように。

 

 もう一体に俺はフロストで一時的に凍らせる。範囲を絞って、味方を巻き込まないように。

 同じ轍は踏まない。


「枠が足りねえ! こいつらを引っ込める余裕もねえ!」


 刹那ネズミが膨れ上がるように増殖して、モンスターの群れを押しとどめる壁となる。

 また彼ら自身がバシリスクに対する防壁なのだろう。

 石像となって壁が欠けていく。

 

 直視はしていない。

 それでも小さなモンスターでは数秒間見つめられただけで石となった。

 

 ジャイアントビートルを壁にして、どうにか視線を遮っているけど……こいつだってどこまで持つか。

 

 喧しく鳴いていたネズミが物言わぬ石となる姿に――俺は自分の姿を重ねてしまった。

 壁越しの視線が、急に冷気を伴ったよう。背筋が凍る。


 その方向に雷蔵が親指を向けた。

 

「仮にできても、あいつに動きを止められる! 俺の隠し玉は瀕死だ! 止められたら終わる!」


 雷蔵の声にも焦りがある。

 

 霧の向こうから。

 まるで品定めをするような視線。

 

 それが俺達から冷静さをも奪っていく。

 

 状況を打開するためには一か八か賭けに出るしかないのか……?

 

「主様!」


 一瞬、蛍火と目が合った。

 バシリスクの魔眼を避けるために視線を上げるなと言われていたにもかかわらず。

 俺と目を合わせる。その為に禁を破った。

 

 交わしたのは一瞬。

 それでも伝わった。

 

「ああ。分かってる」


 まだ、賭けに出るのは早い。

 俺はまだ何も考えていない。


 全てはバシリスクが軸だ。

 敵の統制も。

 こちらの視界の制限も。

 雷蔵の隠し玉を抑え込むのも。

 

 だったら――。

 

「バシリスクを倒す。他に方法はない」

「理由は!?」

「この群れを統率しているのも、オッサンの切り札封じているのもあいつだ!」


 ジャイアントビートルの角が叫ぶ俺の目の前でモンスターを叩き落す。

 かなり、踏み込まれている。


「倒せれば……いや、一瞬でも意識を目の前に集中させれば隙が出来る」


 自分自身の拳で沼トカゲをぶっ飛ばしながら、雷蔵が豪快に笑う。

 

「おもしれえ! 乗ったぞクソガキ!」

「自分で言っておいてなんだけどそんなあっさりいいのか?」

「どうせ俺がやったところで玉砕万歳の特攻だけだ!」


 雷の猫が、網膜に残像を残しながら雷蔵の隙を突こうとするモンスターを牽制。

 増え続ける刹那ネズミがこちらの波となって敵の波を打ち消そうと流れていく。


「てめえがこの状況を打開できるっていうならやってみろ!」


 蛍火は何も言わない。

 先ほどの視線で、全て伝えきったと言わんばかりだ。

 その信頼に、今度こそ応えないと。

 

 上層に出現したバシリスク――危険度は高いがこの階層にいるならば本体としての能力は低ランク。

 魔眼さえどうにかできれば正面戦闘なら対処は出来る。

 

 だから問題は、魔眼対策と如何にこのモンスターの群れを突破して奴に近づくか。

 

「主様!」

「っ!」


 考えに没頭していたら目の前の敵の動きを見落とした!

 巨大なカエルの舌に身体を絡めとられる。

 

 そのまま絞殺されるか、飲み込まれるかというところで蛍火が舌を切り裂いて俺を助け出す。

 

「助かった!」

「主様はそのまま! 考える時間は私が作ります!」


 そう言いながら、蛍火は次のモンスターへと取り掛かる。

 ――相手の連携も徐々に巧みになってきている。

 止めを刺されないように互いに庇いあう動き。

 思ったよりも残り時間が短い。

 

 まずは群れの突破だ。

 一対一ならまだしも、この一対多の環境では蛍火の神威限定解放も効果的とは言えない。

 

 正攻法でこの群れを突破できるならそもそも苦労していない。

 

 だから逆転の発想が必要だ。

 角を振り回すジャイアントビートルの姿が視界に入った。

 沼トカゲが吹き飛ばされて弧を描いている。

 

 ……これだ。

 

「おっさん!」

「何だ!」

「刹那ネズミはどれくらい早く増える!」

「一瞬だ! 雌雄揃ってればな!」


 ああ、だから二十日ネズミじゃなくて刹那ネズミ。

 その名の通りならば、俺がやろうとしている事にも使える。

 

 そして手元のスペルリング。

 この状況で一番役立ちそうなサンドストームは初手で切ってしまったのが痛い。

 残りを、どう使うか――それはもう決めていた。

 

「二人とも!」


 蛍火と雷蔵に作戦を手短に説明する。

 

「蛍火を、バジリスクの足元に送り込む」

「このモンスターを突破してか! それはただの玉砕だ!」

「いいや、こいつらは突破しない。――飛び越えていく」


 ジャイアントビートルがモンスターを吹き飛ばす姿。

 そして蛍火の脳裏には、あのフロアマスター戦での岩を振り回す姿も浮かんでいるはずだ。

 

「こいつのパワーで、蛍火を打ち出す」

 

 綱渡りめいた作戦。

 

「おもしれえ」


 なのに、なぜか二人とも笑顔だった。


「この状況でそんなぶっとんだ事考えられるのは最早才能だな」

「主様は凄いんです! だからもっと敬いなさいそこの山男」


 返り血を浴びながら凄む蛍火の気迫は十分。

 バシリスクに挑むのは彼女だ。

 

 最も危険な役目を託すことになる。

 

「大丈夫です。任せてください」


 その言葉に、俺も頷いた。

 

「ああ、任せる」


 彼女は俺の作戦を信じてくれた。

 だったら俺も彼女を信じる。

 

「排除出来たら直ぐに隠し玉を頼む」

「分かってる。ここまでしてくれた奴を見殺しにはしねえよ。しくじるんじゃねえぞ」


 言いながら、雷蔵は刹那ネズミの雌雄一組を俺の胸元に押し付けてくる。

 これで準備は整った。

 

 何とか崖っぷちから対岸へ綱は架けれた。


 後は――崖に向かって一歩踏み出すだけだ。

 

『行こう拓郎!』


 緋鞠の声が聞こえた気がした。

 いや、違う。


 そう言って手を引いてくれていた人はここにいない。

 だから俺は自分の意思で進むんだ。

 

 ――そうではなかった。

 

「また間違えて蛍火に怒られるな」


 俺達は、だ。

 今度は俺が蛍火を導く。彼女を勝たせてみせる。

 

「行くぞ、蛍火!」


 自分の意思で一歩踏み出す。その背に蛍火の声が続く。


「はい! 主様!」

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