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14 俺達のスタイル

 自室に戻ってから。

 最初にするべきことは決まっていた。

 

「……蛍火」


 小さく名前を呼ぶと、銀色の髪の少女が目の前に現れた。

 どこか気まずそうに視線を逸らしている。

 

 初めて会った時よりも距離を感じる姿。

 そうさせたのは俺だ。

 

 深々と頭を下げる。

 

「ごめん」


 何を言うべきか一瞬迷った。

 でも他に言うべき言葉が思い浮かばなかった。

 

「酷い事を言った。蛍火の意見を完全に蔑ろにしていた。許して欲しい」

「ち、違います。悪いのは私です!」

「そんな事は無い。あの時蛍火に悪い所なんて一つもなかった」

「違うんです!」


 妙に強弁する蛍火の顔を見た。

 ――どこか泣き出しそうな。或いは罪悪感めいた表情。

 

「私はあの時……緋鞠様をダシにすれば主様の意見を変えられるって、そう考えていたんです」


 緋鞠だってそんなことは望んでいない。

 その言葉は俺にとっても図星だった。

 

 緋鞠の性格上、誰かに負担を押し付けて自分だけが幸せになるなんて絶対に認めないって分かっていた。

 俺に対して無茶ぶりをしてくることはあった。

 

 それこそ遊園地にいきなり引っ張り出されたり。数えだせばキリがない。

 でもいつだって、彼女は共に何かをすることを望んでいた。

 

「ハイ拓郎。あげる」


 夏の暑い日。

 二人で分けたアイスの記憶。

 

 遊園地の帰りの電車の中。混雑している中空いていた席に座らせた。

 

「じゃ、一駅ごとに交代ね」


 そう言って歯を見せて笑った顔。

 

 そんな緋鞠ならきっとそう言う。

 俺もそう思ってしまった。

 

 だから俺は腹が立ったんだ。

 俺よりも蛍火の方が緋鞠の事を理解できているような。そんな気がして。

 

「意見が違うのなんて当たり前なのに。私は、自分の意見に同意してくれないのが悲しくて、主様の意見を変えさせたくて。だからあんなことを言ったんです」


 蛍火は蛍火で、俺の意見を蔑ろに。


「似たようなことを、していたんだな」


 苦笑混じりの感想に蛍火も控えめながら頷いた。


「蛍火」


 見つめるのは、彼女の瞳を正面から。


「俺は緋鞠を助けたい。蛍火は母を助けたい。目的は違うけど、手段は一緒。俺達はチームになるべきなんだ」

「はい」

「だから話し合おう。そこをすっ飛ばして、いきなり実戦で試そうとしたから俺達は回り道をした……気がする」


 下手に言葉が通じるから、意思も通じているような気がしていた。

 超常的な出会いから何もかもが分かり合えている様な錯覚。

 だけどそんなはずはない。


 蛍火と語り合った時間は下手したらジャイアントビートルとよりも短い。

 そんな僅かな時間で相互理解など程遠いと、こんなに回り道をしてやっと気付けた。

 

「それで早速なんだけど、少し考えてみた。俺の強みは考えることだって二人から教えて貰った。だけどその時間が無いっていうなら逆に――」

「いえいえ、主様。それよりも先にやることがあります」

「うん」

「寝ましょう」

「うん?」


 ちょっと思っていたのとは違う言葉が来た……。

 

「酷い顔色です。何をするにしてもまずは体力回復。それが最優先かと」


 良い事言った、とドヤ顔している蛍火に反論しようとして同じことを雷蔵が言っていたのを思い出す。

 

「そんなにひどい?」

「はい。大分」


 大分酷いらしい。

 ベッドに寝かしつけられる。手際が、良い……。

 

「せっかくなので緋鞠様みたいに膝枕しますか?」

「いやそれは……」

「冗談です。でもお傍にいるのは許してください」


 そう言って蛍火は再び狐の姿となり俺の枕元で身体を丸めた。

 

―――――――――――――――――――

 8月14日 朝 探索者7日目

  間引き対象☆3ダンジョン 第九層

   間引き任務二日目

―――――――――――――――――――


 一日しっかりと休んだだけあって、体調はかなり良くなった。

 ダンジョンに入って九層で雷蔵と合流。

 

「おい、今日は俺が先導する。てめえは着いてこい」


 問答無用。俺に反論を許さずに雷蔵は転移門から歩き出した。

 

「刹那ネズミ、レイジングキャット」


 ここに来てから、雷蔵が初めてモンスターを二体召喚した。

 小さなネズミ型モンスター。瞬きしている間にもどんどんと増殖していっている。

 雷が猫の形を取ったような、不定形のモンスター。

 

「今日は二体出すんだな」

「召喚枠に空きがあるからな……まあ念のためだ」


 この階層では出せるモンスターは低ランクのモンスターが2体。多くて3体。

 深くなればランクも数も増やせるらしいけど俺にはまだ縁がない。

 そういう意味では雷蔵は今まで大分余裕を見せていたことになる。

 

 でも今日は違う。

 何かに焦っている……?

 

「今日は戦闘は避ける。とにかく走り回るから着いてこい」

「分かった……けど何で?」

「数がすくねえ。いくら何でもこの遭遇数は異常だ」

 

 だが、階層全体は回った。

 

「ってことは、モンスターが移動している?」

「ちったあ頭回るようになってきたな。その可能性がある。それも、今日までに倒してきた数の群れがだ」


 モンスターが群れを成す……今まで遭遇してきた奴らは多くても三体程度。

 それも群れというよりは偶々近くにいたから一緒にやっているという感じ。

 数十体が統制を保ってこちらから逃げるように移動。

 だとしたら。

 

「群れを率いれるような個体が居る」

「そうなるな」


 言いながら雷蔵はマップを指先でぐるりと一周させる。

 

「今日はこの階層全体を走り回って群れの痕跡を探す」


 確かにそれでもいい……が、痕跡を探すというのなら寧ろ相手にもっと痕跡を残させるような何かをしたい。

 集団が1方向に進み続けるだけでは相手の動きを乱すことは出来ない。


「……こう回らないか?」


 マップ上で俺は八の字を書くように指を回した。明らかに総当たりとしては非効率な回り方。

 案の定雷蔵も難を示す。

 

「相手が逃げているのが前提ならこの動きで先回り、出来るかもしれない」


 仮に失敗したとしても、回り込まれた相手は方向転換を余儀なくされる。

 もしも本当に逃げ回っているのならば、そこに痕跡が残るはずだ。


 しばし雷蔵は考え込み。


「よし、それで行く」


 そう言って俺たちは第九層を走り始める。

 足場の悪い沼地を。一時間走って五分休憩。

 

 この階層が凡そ四キロ四方。だが痕跡を探しながらだ。

 オマケに、たまーに今日までの掃討から漏れたモンスターが出てくるので一瞬も気が抜けない。

 

 体力というよりも精神的な疲労が大きかった。

 流石の雷蔵も、今日は酒抜きだ。

 

「昨日寝といてよかった……」


 寝不足でこんなことやってたら間違いなく倒れてる……。

 

「当たり前のこと何言ってんだ。探索者なんて体力仕事なんだから休むときはしっかり休むんだよ」


 探索者のアイテムの中で一番高いのが寝袋という話は覚えておこう。


 そんな過酷な繰り返しを四回。

 

「……てめえの考えが当たったぞ」


 雷蔵が指さした先には沼地に残った大量のモンスターの痕跡。

 

「慌てて連中方向転換したらしい。ばっちり残ってる」

「ってことはこの先にいるのか」

「ああ。だが思ったほどの数じゃねえ。一先ず追いかけるぞ」


 そこからモンスターの足跡やらを追いかけていった先にはこの階層で散々見かけたモンスター達が群れを成していた。

 その数約10。

 

「少ない気がするんだけど」

「ああ、妙だな……」


 想定していたのは4~50体程度の群れ。

 ならば、他はどこにいる?

 

「ばらけてくれているなら都合がいい。今のうちにあいつらを――」


 雷蔵の言葉が耳に入らない。

 蛍火もジャイアントビートルも、他の敵を見つけられていない。

 

 だというのに。俺は嫌な予感がしていた。

 

 今までに遭遇したモンスターの多くは、沼の中に潜れた。

 そいつらは移動すると振動が生まれる。

 俺達を見つけたら真っ先に動き出す。だから見つけられた。

 

 ――もしも動かなかったら?

 じっと、沼の中に身を顰めることが出来るのならば。

 

 そう、例えば群れのボスにそう命じられたのならば――。

 

「まずいおっさん!」

「雷蔵だ!」

「沼の中だ!」


 その声が契機になった訳ではないだろう。

 ただ俺たちが、こいつらの狩場に踏み込んでしまっただけ。

 

 俺達を囲うように、沼の中からモンスター達が飛び出してくる。

 

 その数は――凡そ30体以上!

 これだけのモンスターを一糸乱れぬ統制を維持したまま沼の中に潜ませていた。

 

「モンスターが待ち伏せだと!?」


 雷蔵にとっても想定外の出来事だったのか。

 目を見開いて驚愕している。

 

 一瞬で四十以上のモンスターに取り囲まれた。

 出し惜しみなんてしている場合じゃない。

 

「蛍火!」


 持てる全力を尽くさなければ。

 この場を乗り切れない。

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