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錆びた妖刀と落ちこぼれ当主 ~現代に潜む妖怪を従え、奪われた家名を取り戻すまで~  作者: 橘壮馬


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9/11

第9話 清めの儀

神社でのメンテナンス回です。

ヒロインの力で、錆びついた刀が輝きを取り戻します。

 放課後。僕は如月さんに連れられて、街の高台にある『如月神社』へとやってきた。

 長い石段を登りきった先には、小さいながらも手入れの行き届いた境内が広がっている。

 僕の廃墟のような実家とは大違いだ。

「ここで待ってて。準備してくるから」

 彼女はそう言うと、社務所へと入っていった。

 数分後、戻ってきた彼女は、制服の上から白い装束――白衣はくえのようなものを羽織っていた。

 手には、透き通った水が入った木桶と、柄杓が握られている。

「お待たせ。これが、うちの神社の御神水だよ」

 彼女が桶を置くと、ふわりと甘いような清涼な香りが漂った。

 腰の刀が、待ちきれないとばかりに震える。

『ほう……。なるほど、地下深くの霊脈から汲み上げた純度の高い水か。悪くない』

 刀の上から目線な評価に苦笑しつつ、僕は鞘から刀を取り出した。

 赤錆にまみれ、刃こぼれだらけの刀身が夕日に晒される。

「……ひどい状態だね。ずっと痛かったでしょう」

 如月さんは刀を怖がることもなく、慈しむような目でそう言った。

 彼女がそっと手をかざすと、指先が淡い光を帯び始める。

「じゃあ、いくよ」

 彼女が柄杓で水を汲み、ゆっくりと刀身に注ぐ。

 チャプ、と水が刃に触れた瞬間だった。

 ジュワアアアッ……!

 まるで熱したフライパンに水をかけたような音が響き、白い蒸気が立ち上った。

 刀身にこびりついていた赤錆が、黒い泥のような汚れとなって溶け出し、地面へと滴り落ちていく。

「す、すごい……」

 僕は息を呑んで見守った。

 ただの水洗いではない。彼女の霊力が、水を通して刀の奥深くに浸透し、呪いのような穢れを洗い流しているのだ。

『うむ……うむ! これだ! 染みるぞ!』

 頭の中で、刀の喜悦の声が響く。

『長年詰まっていた血の巡りが通るようだ。そこだ、その峰のあたりを重点的に頼む』

 注文の多い刀だ。

 だが、その効果は劇的だった。

 十分ほど作業を続けると、刀身の半分以上を覆っていた赤錆が綺麗に落ちていた。

 現れたのは、吸い込まれるような深い輝きを放つ地金。

 刃こぼれしていた箇所も、まるで金属が自己再生したかのように滑らかに修復されている。

「……ふぅ。今日はここまでかな」

 如月さんが額の汗を拭いながら、大きく息を吐いた。

 相当な集中力と霊力を使ったのだろう。その顔は少し青白い。

「大丈夫? 無理させたみたいで悪いな」

「ううん、平気。……見て、すごく綺麗になったよ」

 彼女が指差した刀は、昨日のナマクラとは別物だった。

 まだ根元の方に錆は残っているが、切っ先から中央にかけては名刀の風格を取り戻している。

 軽く振ってみる。

 ヒュンッ!

 空気を裂く音が鋭い。

 重さを感じないほど手に馴染む。これなら、あの硬い式神の皮膚も斬れるかもしれない。

『礼を言うぞ、巫女の娘よ。お蔭で力が戻った』

 刀から伝わってくる満足げな波動を感じ取ったのか、如月さんが嬉しそうに微笑んだ。

「どういたしまして。……天城くん、これで戦える?」

「ああ。十分すぎるくらいだ」

 僕は刀を鞘に納め、彼女に向き直った。

「ありがとう、如月さん。この借りは必ず返す」

「借り返すなんて言わないで。私は……ただ、天城くんに死んでほしくないだけだから」

 彼女の真っ直ぐな視線に、僕は言葉を詰まらせた。

 ただのクラスメイトだった僕に、なぜそこまでしてくれるのか。

 その理由は聞けなかったが、彼女が僕にとって欠かせない「仲間」になったことだけは確かだった。

 僕は強くなった相棒の重みを腰に感じながら、ある決意を固めていた。

(待っていろ、久遠寺。次は負けない)

メンテナンス完了。

刀の切れ味と強度が大幅にアップしました。

次回、いよいよ反撃の時? それとも新たな事件?

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