第8話 神社の娘
敗北の翌日。
傷ついた主人公に近づく影が一つ。
久遠寺蓮の式神に敗北した翌日。
僕は全身の打撲の痛みに耐えながら、学校の屋上でパンをかじっていた。
「……はぁ」
ため息が出る。
悔しさが未だに胸の奥で燻っている。
昨夜、あの場から逃げるしかなかった自分が情けない。
腰の刀を撫でる。
鞘に収まった『赤錆の刀』は、昨晩の戦闘でさらに刃こぼれが増えていた。
『……腹が減った』
刀が不機嫌そうに脳内に語りかけてくる。
『あのような下級式神ごときに後れを取るとは。我の錆さえ落ちていれば、あんな石ころ、豆腐のように斬れたものを』
「悪かったな。僕がもっと強い妖怪を倒して、お前に食わせてやればよかったんだろ」
そう言い返すが、現状は八方塞がりだ。
強い妖怪を倒すには刀の切れ味が足りない。
だが、切れ味を戻すには強い妖怪を倒さなければならない。
完全なジレンマだ。
ガチャリ。
屋上のドアが開く音がした。
教師の見回りかと思い、慌てて竹刀袋を背中に隠す。
だが、現れたのは意外な人物だった。
「……やっぱり、ここにいた」
長い黒髪を風になびかせ、少し息を切らせて立っていたのは、隣のクラスの如月さんだった。
以前助けたあの女子生徒だ。
「如月さん? どうしてここが」
「クラスメイトに聞いたの。天城くん、いつも一人で屋上にいるって」
彼女は躊躇なく僕の隣に歩み寄ると、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「顔色が悪いよ。……昨日の怪我、痛む?」
「! ……なんのことかな」
とぼけようとしたが、彼女の瞳は真剣だった。
その瞳の奥に、微かな霊力が宿っているのが見て取れた。
そういえば、彼女はあの時、僕の姿や妖怪を「見た」と言っていた。一般人には見えないはずのものを。
「隠さなくていいよ。私、知ってるから」
彼女は少し言い淀んでから、意を決したように言った。
「私の家、如月神社っていうの。……小さい頃から、少しだけ『視える』体質なの」
神社。
その言葉に、腰の刀がピクリと反応した。
『ほう……。穢れのない、清浄な霊気だ』
刀が興味深げに唸る。
「君が昨日の夜、戦っていた相手……久遠寺くんの式神だよね?」
「……そこまで見えていたのか」
観念して認めると、彼女は悲しげに眉を寄せた。
「私、悔しかった。助けてもらったのに、何もできなくて。……でも、今の私なら、少しは天城くんの力になれるかもしれない」
「力になる?」
彼女は僕の腰に指した刀を指差した。
「その刀、すごく苦しそう。悪い気……穢れが溜まって、本来の力が封じられているみたい」
彼女の指摘は的確だった。
この赤錆は、単なる酸化現象ではない。長年の封印と、過去の怨念による呪いのようなものだ。
「私の家の神社に、古い御神水があるの。そこで『清めの儀式』をすれば、少しはその刀の錆……落とせるかもしれない」
『行け、小僧』
僕が答えるより早く、刀が食い気味に命令してきた。
『妖怪の血を吸うのもいいが、神職の清めも悪くない。この娘の霊力なら、極上の砥石代わりになるぞ』
刀の現金な反応に、僕は苦笑するしかなかった。
だが、これは渡りに船だ。
「……分かった。頼んでもいいかな」
「うん! 放課後、案内するね」
如月さんが、花が咲いたように笑った。
どん詰まりだった状況に、一筋の光が見えた気がした。
ヒロインの正体は、神社の娘でした。
「視える」彼女のサポートで、刀の強化イベント発生です。
次回、神社での手入れと、急接近?




