第5話 天城家の跡地
放課後、立ち入り禁止の廃墟へ。
放課後。バイトを休んだ僕は、自転車を飛ばして街の外れにある山際へと向かった。
舗装された道路から外れ、砂利道を登っていくと、錆びたフェンスと「立入禁止」の看板が見えてくる。
ここが、かつて僕が暮らしていた天城家の屋敷跡だ。
久遠寺蓮の言葉通り、フェンスの向こうにはショベルカーが数台停められているのが見えた。
本当に取り壊すつもりなんだ。
「……変わっちまったな」
フェンスの隙間から中へ侵入する。
かつて手入れされていた庭園は雑草で埋め尽くされ、焼け焦げた柱だけが墓標のように残っていた。
10年前の火災の爪痕は、未だに生々しく残っている。
僕は背中の竹刀袋を握りしめ、屋敷の奥にある「蔵」の方角を目指した。
母屋は全焼したが、頑丈な土蔵だけは焼け残っている可能性がある。そこに父の遺品があれば、回収しなければならない。
雑草をかき分けて進む。
日が落ち始め、周囲が薄暗くなってきた頃だ。
『……臭うな』
突然、頭の中に刀の声が響いた。
「え?」
『懐かしい我が家の匂いではない。これは……腐肉と、下賎な獣の悪臭だ』
言われてみれば、空気が淀んでいる。
ただの廃墟特有の静けさではない。肌にまとわりつくような、湿った不快感。
以前感じた「黒い靄」が、この敷地全体を覆っていた。
ガサッ。
茂みが揺れる。
僕は足を止め、周囲を警戒した。
一匹や二匹の気配じゃない。
三匹、いや五匹……?
「グルルッ……」
暗がりから無数の赤い目が光った。
姿を現したのは、先日戦った餓鬼よりも一回り大きな、四足歩行の妖怪たちだった。
犬のような頭部に、人間のような手足を持つ『野衾』だ。
(こんなに……!?)
野衾たちは、ショベルカーの周りや、屋敷の瓦礫の上に群がっている。
まるで、ここを自分たちの巣にしているかのように。
『久遠寺の小僧、ここを駐車場にすると言っていたな?』
刀が嘲笑うように告げる。
『嘘だな。奴らはここを整地する気などない。天城の土地に残る霊脈を利用して、妖怪を養殖しているのだ』
「養殖……だって?」
怒りで視界が赤く染まる。
家を奪い、焼き払い、その跡地までもこんな化け物どもの飼育小屋にしているのか。
父さんや母さんが守ろうとしたこの場所を。
「……許さない」
僕は竹刀袋から刀を引き抜いた。
鞘のない刃が、夕闇の中で鈍く光る。
「一匹残らず駆除してやる。ここは僕の家だ!」
『よい殺気だ。その怒り、我に食わせろ』
野衾たちが一斉に襲いかかってくる。
数は十体以上。
だが、今の僕には恐怖はなかった。あるのは、沸騰するような怒りだけだ。
「行くぞ!」
僕は地面を蹴り、妖怪の群れへと突っ込んでいった。
思い出の場所が敵によって汚されていました。
次回、乱戦。刀の新たな能力が出るかもしれません。




