第4話 久遠寺の御曹司
学校生活と、宿敵の登場です。
翌日。
重たい体を引きずって教室に入ると、いつものようにクラスの空気が少しだけ淀んだ気がした。
「うわ、来たよ没落貴族」
「貧乏神が移るから近寄んなって」
ヒソヒソと交わされる陰口。
天城家が没落してからの日常風景だ。
僕はそれをBGMのように聞き流し、一番後ろの窓際の席に鞄を置いた。
昨夜の戦いのせいか、全身が筋肉痛で悲鳴を上げている。
机に突っ伏して眠ろうとした、その時だった。
「キャアアアッ! 蓮様よ!」
「おはようございます、蓮様!」
教室の入り口が華やいだ歓声に包まれる。
さっきまでの陰湿な空気とは大違いだ。
女子生徒たちの熱い視線を一身に浴びて教室に入ってきたのは、整った顔立ちの長身の男子生徒。
制服の着こなしからして、オーダーメイドの上品さが漂っている。
久遠寺蓮。
この街を牛耳る久遠寺グループの御曹司であり、僕の家を陥れた一族の次期当主だ。
蓮は取り巻きたちに爽やかに挨拶を返しながら、真っ直ぐに僕の席へと歩いてきた。
「おはよう、天城。相変わらずカビ臭いな、君は」
わざとらしく鼻をつまむ仕草。
教室中からクスクスと忍び笑いが漏れる。
「……おはよう、久遠寺。わざわざ挨拶に来てくれるなんて暇なんだな」
僕が顔を上げずに返すと、蓮は面白くなさそうに目を細めた。
「勘違いするなよ。今日は忠告をしてやろうと思ったんだ。僕の慈悲深さに感謝しろ」
「忠告?」
「最近、街で質の悪い妖怪が増えているらしい。君のような霊力のない落ちこぼれがウロウロしていると、餌にされるぞ?」
心配しているような口ぶりだが、その目は明らかに嘲笑っていた。
こいつは知っているんだ。
僕の家が妖怪によって滅ぼされたことも、僕がその時、無力だったことも。
「……心配どうも。でも、自分の身くらい自分で守れる」
「ハッ、強がるなよ。守るべき家も、資産も、家族も失った君に何が守れるって言うんだ?」
蓮が僕の机に手をつき、耳元で囁く。
「そういえば、君の生家だった屋敷跡、更地にしてショッピングモールの駐車場にすることになったよ。来週から取り壊しだ」
ドクン、と心臓が跳ねた。
あそこにはまだ、取り出せていない父の書斎や、古い蔵が残っているはずだ。
「……ふざけるな。あそこにはまだ」
「僕の土地をどうしようと僕の勝手だろ? 悔しかったら買い戻してみせろよ。逆立ちしたって無理だろうけどな」
蓮は勝ち誇ったように笑うと、踵を返した。
「せいぜい野垂れ死なないように気をつけるんだな、元名門さん」
遠ざかる背中を見ながら、僕は机の下で強く拳を握りしめた。
爪が食い込み、血が滲む。
今に見てろ。
絶対に、この屈辱は倍にして返してやる。
鞄の中に入っている竹刀袋が、共鳴するように微かに熱を帯びた気がした。
典型的な嫌な奴が出てきました。
屋敷の跡地が駐車場……これは阻止しないといけません。
次回、取り壊しを止めるために屋敷跡へ向かいます。




