第11話 裏切りの痕跡
勝利の後に残った違和感。
刀が記憶していた「ある事実」が明かされます。
久遠寺の式神を撃退し、アパートに戻った頃には日付が変わろうとしていた。
狭い六畳一間。
僕は湿った畳の上に座り、相棒である『妖刀』の手入れをしていた。
手入れといっても、汚れた血を拭き取り、如月さんにもらった清めの布で軽く拭うだけだ。
それだけで、刀身は月光を吸い込んだように怪しく輝く。
「……強かったな、お前」
素直に称賛すると、刀がふん、と鼻を鳴らした気配がした。
『当たり前だ。これでもまだ全盛期の三割程度。錆が完全に落ちれば、あのような紙人形、振るう風圧だけで裂いてやれる』
「はいはい、期待してるよ」
軽口を叩き合いながら、僕はポケットから一枚の紙切れを取り出した。
先ほどの戦闘で、燃え尽きた式神の残骸――『形代』の燃えカスだ。
大半は灰になっていたが、中心部分に描かれた術式の紋様だけが、黒く焼き付いて残っていた。
それを見た瞬間、刀の気配が鋭く変わった。
『……おい、小僧。それをどこで拾った』
「どこって、さっきの赤鬼の残骸だけど」
『見せろ』
刀に促され、僕は燃えカスを刀身に近づける。
刀はしばらく沈黙していたが、やがて低い声で、信じがたいことを告げた。
『……間違いない。これは久遠寺の術式ではない』
「は? どういうことだよ。出したのは久遠寺蓮だぞ」
『術の「核」が違う。この式神を構成している術式……これは、天城家のものだ』
思考が停止した。
天城家の術式?
ウチの術は、一族の血筋か、認められた高弟にしか扱えない秘伝のはずだ。
それがなぜ、宿敵である久遠寺の式神に使われている?
『思い出したぞ。10年前、屋敷が炎に包まれた夜……結界を内側から破った者の気配。今の式神から感じた霊力と同じだ』
ドクン、と心臓が嫌な音を立てた。
脳裏にフラッシュバックする、あの悪夢。
燃え盛る屋敷。
父と母を裏切り、嘲笑っていた「兄様」と慕っていた男。
「……まさか」
僕は震える手で燃えカスを握り潰した。
「あの時の裏切り者が、久遠寺に技術を流しているのか……?」
いや、それだけじゃない。
久遠寺蓮は、天城の術で作られた式神を平然と使っていた。
つまり、あの裏切り者は今も、久遠寺家の中で飼われているということだ。
僕の家族を殺し、家を奪った報酬として、のうのうと生きている。
「……ふざけるな」
腹の底から、どす黒い感情が湧き上がってくる。
久遠寺家だけじゃない。
僕が斬るべき相手は、もう一人いたんだ。
『怒るな、小僧。冷静さを欠けば刃が鈍る』
刀が諌めるような声を出すが、その声色もまた、怒りに震えていた。
『だが、標的は定まったな。我らの家を汚した鼠を見つけ出し、八つ裂きにしてくれよう』
「ああ、同感だ」
僕は立ち上がり、窓の外に広がる夜景を睨みつけた。
この街のどこかに、裏切り者がいる。
必ず見つけ出してやる。そして、絶望の中で後悔させてやる。
復讐の炎が、僕の中で静かに、けれど激しく燃え上がった。
新たな事実。
敵は外部だけでなく、かつての身内にも及んでいました。
物語の縦軸である「没落の謎」が一歩進みました。
次回、裏切り者の正体を探るために。




