第10話 再戦
メンテナンスの効果測定。
昨日の自分とは違います。
如月さんと別れ、神社の長い石段を降りる。
日はすっかり落ち、街は夜の闇に包まれていた。
帰り道、人気の少ない公園の脇を通りかかった時だった。
『……来たぞ』
刀が警告を発するのと同時に、前方の街灯がバチリと音を立てて消えた。
闇の中からぬうっと現れたのは、見覚えのある巨体。
燃え上がるような赤い肌に、太い金棒。
昨夜、僕を圧倒した久遠寺蓮の式神――『赤鬼』だ。
「またお前か。懲りないな、あの野郎も」
僕は足を止め、冷静に相手を見据えた。
昨日は恐怖で足がすくんだ相手だ。
だが今は、不思議と恐怖を感じない。腰にある相棒が、早く血を吸わせろと脈打っているからだ。
「グオオオッ!」
赤鬼が問答無用で襲いかかってくる。
行動パターンは昨日と同じ。単純な力任せの正面突破だ。
巨大な金棒が、空気を裂いて振り下ろされる。
昨日の僕なら、回避するのが精一杯だった。
受け止めれば骨が砕け、斬りつけても刃が通らなかった絶望的な暴力。
でも。
(――遅い)
僕は一歩も引かなかった。
足を開き、腰を落とし、鯉口を切る。
迫りくる鉄塊を前にしても、今の僕には「斬れる」という確信があった。
「天城流剣術――」
金棒が僕の頭蓋骨を砕く直前。
鞘走る銀閃が、闇を切り裂いた。
「――『不知火』」
キンッ。
高く、澄んだ音が夜気に響く。
衝撃はなかった。
僕が刀を振り抜いた姿勢で残心をとると、背後で重たい音が二つした。
ドスン。ゴロン。
振り返ると、そこには切断面から赤々と熱を放つ、真っ二つになった金棒が転がっていた。
そして。
「ガ……ア……?」
赤鬼が信じられないといった顔で自分の胴体を見る。
ズレる。
斜めに走った斬撃の痕に沿って、巨体が上下に分かれて崩れ落ちた。
鉄の棒ごと、鋼の肉体を一刀両断。
まるで濡れた紙でも斬ったかのような軽さだった。
『……ふん、豆腐のほうがまだ歯ごたえがあるぞ』
刀が呆れたように呟く。
昨日はあれほど苦戦した相手が、今は準備運動にもならない。
これが、天城の刀の本来の力。
赤鬼の死体が炎となって消え、燃え尽きた紙切れに戻っていく。
僕はそれを踏みつけ、暗闇の向こう――おそらくどこかで覗いているであろう、久遠寺蓮に向けて告げた。
「次は本体が出てこいよ。その自慢の首、繋がってる保証はないけどな」
答えはなかった。
ただ、ゾクリとするような殺気が一瞬だけ膨れ上がり、そして消えた。
宣戦布告は済んだ。
僕は刀を鞘に納め、カチンと鍔を鳴らす。
反撃の準備は整った。
待っていろ、久遠寺。奪われたもの、すべて返してもらう。
一撃でした。
前回の苦戦が嘘のような勝利。主人公の成長(というか武器の強化)が実感できる瞬間です。
次回、学校での反応の変化、あるいは新たな動きについて。




