第四話 雪の日に
さくさくと音がします。
お山の上の小さな神社、その境内でひとりのこどもが歩いています。その足元からです。
歩きながら何かを踏んでいますね。
「これは何度やっても楽しいのう」
こどもに化けた神様が霜を踏んで遊んでいました。
「もっと寒くなったら雪遊びもできるのじゃが」
雪だるまを作ったり雪合戦をしたり斜面をすべりおりたりいろんな遊びをしてきました。
昔はこどもたちと。最近はひとりで。
ひとりだと少し物足りないのです。雪合戦はできませんし。
この冬はまだ雪は降っていません。このあたりで雪が降るのはお正月のあとです。
「ないものねだりをしても仕方なし。現実的に出来ることを考えるとするかの」
静かなお正月が終わって何日かたったあと、雪が降りました。少しだけ積もりました。雪だるまはちょっと無理そうです。
「雪うさぎでもつくるとするか」
小さな雪のかたまりに南天の実で赤い目を、葉っぱで耳をつけて完成です。一匹だけだとすぐに作り終わってしまったので何匹か作りました。
雪うさぎたちは鳥居の足元に仲良く並べられています。
「おまえたちはいつまでここにいてくれる?」
神様は雪うさぎたちに聞きます。当然答えはありません。
お山の上の小さな神社。鳥居の足元に作られた雪うさぎ。それを見つける者がありました。
人間のこどもです。
もこもこした暖かそうな上着に襟巻き(マフラーのことです)、手袋をしています。
「わあ! かわいい。うさぎだ」
このあたりにこどもはいません。春に出会ったみーちゃんのようにおじいちゃんおばあちゃんの家にやって来たこどもでしょうか。
「わたしが作ったの」
そう返事をしたのは神様です。雪うさぎを見つけたこどもと同年代のこどもに化けています。言葉遣いも変えてますね。
「作り方、教えてくれる?」
「うん! 簡単だよ」
南天の実と葉っぱを雪のカタマリにくっつけるだけです。でも、ちょっとした位置の違いで違う顔に見えます。
「この赤いの、お正月飾りについてた」
「南天の実だよ」
「コンちゃん物知りだねえ」
神様は今回もコンちゃんと名乗りました。
「こうちゃんはこのへんの子じゃないよね。遊びに来たの?」
「ひいおじいちゃんとご先祖様のほうじっていうのできたの」
おととし亡くなったひいおじいちゃんとご先祖様の何周忌だかをまとめてやるので集まったそうです。
こうちゃんは法事のことはよくわかっていないようです。
神様にはなんとなくわかりました。こうちゃんのひいおじいちゃんが誰なのか。
「お狐さまー」
「コンコンさまー」
「コンちゃーん」
「「「あーそーぼ」」」
近くの里にこどもがたくさんいたころ、神様とこどもたちが日常的に遊んでいたころのことです。
雪の積もった日に神社にやってきたこどもたち。
神様を雪遊びに誘います。もちろん神様はいっしょに遊びました。
「雪合戦でもするか?」
呼びかけたこどもたちと同じくらいのこどもに化けた神様が出てきました。
神様が提案したとおり、最初は雪合戦をしました。二組に別れてはじめたのに、だれがどちらの組かわからなくなってしまいました。
「次は雪だるま作ろう!」
とだれかが言いました。今度はみんなで力をあわせて雪を集めます。雪合戦をおもいっきりやったあとなのに疲れてなどいないようです。
集めた雪を丸めて小さいほうを上にのせます。小さいといっても雪のカタマリですからこどもたちにとっては重いものでした。
なんとかのせて、ひろってきた枝で手をつけて、適当に顔を作って完成です。
その横に小さなうさぎがいました。南天の実と葉っぱと雪で作られたうさぎです。
「これコンコン様が作ったの?」
「うむ、かわいらしいだろう」
雪だるまの頭よりもずっと小さい雪のうさぎです。
「あたしも作る!」
「オレもー!」
今度はみんなで雪うさぎ作りが始まりました。
小さいのでひとりでも作れます。まもなくこどもの人数分の雪うさぎができあがりました。
作り方は同じでも、目や葉っぱの位置で表情が違って見えます。
「耳のつけ方かえるとほかの動物になるぞ」
といったのは虎太郎です。こどもたちの中では兄貴分になります。弟や妹もいっしょに遊んでいたので本当のお兄ちゃんでもあります
「わあ! 本当だ」
「こうすると犬みたい」
「こっちは猫だよ」
虎太郎兄ちゃんの発見をきっかけに雪うさぎたちはろんな動物になりました。
犬だったり猫だったり狐だったり。みんな体は白くて目は赤いのですけどね。耳は葉っぱだし。
日が暮れてきてこどもたちが帰ったあとも、境内は雪だるまと雪で作られた動物たちでにぎやかでした。
「見てコンちゃん。葉っぱのつけ方帰ると違う動物になるよ」
そう言ったのはこうちゃんです。かつての虎太郎と同じ発見をしたようです。
「こうすると犬っぽいね」
「猫も作りたいなあ」
雪でいろんな動物を作りました。他の人がみたら少し変わった雪うさぎにしか見えないかもしれません。でも、こどもたちにとっては犬や猫や狐なのです。
昔はたくさんのこどもたちと、最近は神様だけで、今日はこうちゃんと二人での雪遊び。
昔はたくさんのこどもたちと遊ぶのがあたりまえでした。でも今はちがいます。
「こうちゃん、まだ帰らなくて大丈夫?」
そう言われたこうちゃんは、すまほらしきものを取り出して時間を確認しました。
「帰らないと怒られちゃう!」
やっぱり帰宅の時間がきたようです。
「近くまでおくっていくよ」
「ありがとうコンちゃん」
名残惜しいけどひきとめることはしません。自然に、普通のともだちのように遊ぶのが楽しいのです。
「またねー。ばいばーい!」
こうちゃんが手をふります。神様もふりかえします。
神様は『またね』と言ってくれたことがとても嬉しかったのです。
また会うことがあるかはわかりません。でも嬉しかったのです。
「虎太郎のひ孫か。もうそんなになるのかのう」
兄貴分な虎太郎、おっとりしたこうちゃん。一見違うように見えますがよくみると似ています。
「ながくいるといろんなことがあるものじゃ」
今日のこと、秋のこと、夏のこと、春のこと。もっと昔のいろんなことを思い出して神様はつぶやきました。
「あしたは何が起こるかのう」
何も起きないかもしれません。起きてもささいなことかもしれません。そんな毎日を神様はおくっているのです。




