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第三話 秋の実り、変わらぬ神様

 秋になりました。神社のあるお山も紅葉でいろづいています。

 そんな中で神様は季節のうつろいを眺めて……いませんね。

 お留守のようです。どこに行ったのでしょうか。


 「はいよ、やきいも一つ!」


 近くの里の人家の近くに石焼き芋屋さんがきています。そこでこどもが石焼き芋を買っています。

 この子が神様です。お芋が食べたくて買いに出ていたのです。


 お金はちゃんとしたものですよ。狸の葉っぱだったりはしません。お賽銭から少しもらったものです。

 人間がやったら泥棒になってしまいますが。


 「そもそもワシに向けて皆いれておるんだしの」


 今はあまり人がこないので使えるお金も少ないです。そんなにお金を使うこともないのですが。


 こどもの姿のまま神様は焼き芋を食べます。しっとりしていて美味しいです。

 お芋を食べる神様に声をかけてくる人がいました。おばあさんと言っていい年齢の女性です。


 「コンコン様はお芋が好きねえ。今年も買いに来たのね」

 「うむ、えっちゃんも買ったのじゃな」


 神様がえっちゃんと呼んだおばあさんもお芋を二つ買っていました。おじいさんと二人分だそうです。


 「柿も美味しい季節じゃの」

 「いま渋柿を干してるわ。甘くなるころに来てくださいな」

 「うむ、ご馳走になるとするかのう」


 えっちゃんはこの里の生まれです。小さいころには神様とよく遊んでいました。そのころはこどもがたくさんいたのでみんなで遊びました。

 だけど、大人になると働きに出たりお嫁にいったりで出て行く人が多かったのです。


 そんな中ずっとこの里で暮らしている数少ない一人がえっちゃんです。神様はこどもと遊ぶのが好きですが、大人の前に姿を表さないわけではありません。

 たまには昔遊んだこどもたちのところへやってきます。そしてご近所さん相手のようななんでもないお話しをしていくこともあるのです。

 

 渋柿が甘くなったころに神様はえっちゃんの家を訪ねました。神社の裏になっている柚子がお土産です。


 「秋は美味しいものが多くて目移りしちゃうわ」

 「ほうじゃのう」


 さっそく柿をほおばっている神様です。お行儀が悪いですね。

 柿を食べながらおしゃべりをします。栗ごはんに秋刀魚の塩焼きにりんごに……。


 「えっちゃんは昔は柿食べなかったのう」

 「だいぶ昔の話ねえ。黒っぽいのが嫌だったのよ。元はせっかく綺麗な色だったのにって」

 「食わず嫌いじゃったな」


 食べてみたらおいしかったとえっちゃんは笑います。自分で作るくらい好きになりました。


 話題はだんだん昔のことになって行きます。えっちゃんがまだこどもだったころに。


 何十年か前の記憶です。神様とえっちゃんと何人かのこどもたちで遊んでいました。

 鬼ごっこをしたりかくれんぼをしたり綺麗な紅葉を集めてみたり。


 「かくれんぼは得意だったわ」

 「なかなか見つからず、全員で探し回ったこともあったのお」

 

 あの時いっしょに遊んだ他のこどもたちはどうしているのでしょうか。


 「ハルちゃんは県外にお嫁に行ったからねえ」


 ハルちゃんは足が早くて鬼ごっこで鬼になるとあっという間にほかの子をつかまえてしまいました。


 「クニちゃんは隣町じゃったろ、しばらくみていないが」

 「息子さん夫婦と同居することになって都会に引っ越しちゃったわ」

 

 クニちゃんはのんびりした子でした。鬼ごっこもかくれんぼも苦手だったけどいつも楽しそうにしていました。お外よりもお家で遊ぶほうが好きだったみたいですけど。


 他にもいろんな子がいました。何十年も前のことです。当時のこどもたちは孫のいるような年齢になっています。幼子たちはいまやおじいさんおばあさんです。

 そのこどもたちと遊んでいた神様は変わりません。


 人間は変わります。神様は変わりません。ずっと前からそうでした。寂しいと思うこともあるでしょうね。


 二人でお話していると何やら音楽が聞こえてきました。


 「あら、ちょっと失礼するわね」

 

 そう言ってえっちゃんが小さな板を手に取りました。何やらそれに話しかけています。

 話し終わったえっちゃんに神様は聞きました。


 「今のは……電話というやつか」

 「そうね。スマホっていう最新の電話よ」


 神様が聞いたことのある電話はもっと大きいものだったような記憶があります。呼び出しの音もあんなに綺麗な音楽ではなかったような。


 「お話以外もいろいろできるんだけど難しくてね」


 そういいながらスマホを見せてくれました。スマホは電話だけではなく、写真を撮ったり音楽を聴いたりできるそうです。


 「娘が送ってくれた孫の写真よ」


 嬉しそうに見せてくれました。可愛らしい幼子が写っています。えっちゃんの娘は進学で都会に行って働いて結婚して遠いところに住んでいます。


 「愛らしいのう。目元がえっちゃんに似ておる」

 「あら嬉しい。現像しなくても送れるんだから便利よねえ」


 いつだったか神様が見た写真は小さな白黒のものでした。今見せてもらったのは色鮮やかです。紙ではなくスマホですぐに見られるし他の人に渡すこともできるそうです。


 こういった人間の変化は面白いものだと神様は思っています。神様は変わらないのです。

 変わった人間にあわせることはあっても、自ら変化はしません。

 時代にあわせて人間に化けるときは洋服を着るようにしましたが、着物の方がしっくりきます。


 えっちゃんが孫や娘の話をします。神様はそれを楽しく聞きます。そうしているうちに外が暗くなってきました。


 「ずいぶん長居してしまった。そろそろお暇するかの」

 「久しぶりにおしゃべりできて楽しかったわ」


 神様としてはえっちゃんはよく会っているのですが、えっちゃんからはそうではないようです。このあたりの感覚は人間と違うのですね。

 さよならの挨拶をしてえっちゃんの家を出ました。


 神社に帰った神様はお山を眺めています。たまにおしゃべりする人間たちの話を聞くといろんなものが目まぐるしく変わっているそうです。


 お山の周りしか知らない神様にはわかりにくいのですが、よく考えるてみるとけっこうありました。


 都会ほど数はないものの電灯があります。昔は夜は月明かりと星の明かりくらいでした。馬のいらない車が使われています。夏の草刈りもギュイーンと大きな音がでる道具が使われていました。


 「人とはいろんなことを考えるものじゃなあ」


 こどもの遊びだって時代によって変わってきました。マー坊のやってた野球も神様にとっては最近の話です。てれびげえむなんて遊びも聞いたことはあってもよくわかりません。


 「今のこどもはどんな遊びをしとるんじゃろう」


 春に出会ったみーちゃんはお兄ちゃんと探検をしていたと言っていました。昔のこどももそういう遊びはやっていました。


 「新しいものができても根っこは案外変わらんのかのお」


 誰に聞くでもなく答えを求めるでもない独り言を言う神様でした。

 お山の神社にはもうすぐ冬がやってきます。 

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