第4話 カフェの店員
桜子が行方不明になる前、通っていたというカフェがあった。桜子がそのカフェで男と会っていたという紗耶から得た情報を基に、愛理は次の行動を決めた。
「カフェに行ってみましょう。その男が事件に関わっていた可能性があります」
「その場所は知っているのかい?」
「もちろんです。ついてきてください」
そう言われたので和宏は愛理の後ろをついて、二人でカフェへ向かうことにした。
今更ながらに自分がただのお荷物になっている事を和宏は自覚していたが、元気に前を歩く少女に言い出すきっかけは見つけられなかった。
カフェの外観は、街の中では目立たない普通の喫茶店だった。しかし、その静かな雰囲気が、どこか秘密を抱えていそうな予感を感じさせる。
「ここが桜子さんがよく来ていたというカフェですね。見たところ怪しい男はいないようです」
冷静に分析する愛理の横で、和宏は少し不安そうに目の前の店を見つめていた。
「本当に、この店で何か桜子の手がかりが見つかるんだろうか?」
「きっとあります。桜子さんが会っていた男について、何か知っている人がいるはずですから」
愛理は自信満々に答え、足を踏み出していく。和宏は自信が無いながらもその後についていくのだった。
入り口の扉を開けた二人は、店内に入った。そこは落ち着いた雰囲気で、数人の常連客が静かに過ごしている。
和宏がどうしようか迷っている間に、愛理はすぐに店員に声をかけた。
「すみません、少しお話を伺いたいのですが」
店員は一瞬驚いた顔をしたが、愛理が探偵だと名乗ると、少し警戒しながらも答えた。
「はい、何でしょうか?」
「実は、桜子さんというお客様が最近よくこちらにいらっしゃっていたと聞いたのですが、そのことについてお伺いしたいんです」
愛理は優しく言った。そのはきはきとした態度に店員から見られても和宏には何も言えない。
店員は少し考えた後、ため息をついて答えた。
「名前だけ言われても……」
「困りましたね」
「これが桜子の写真です」
和宏がそれを見せると店員はハッと気づいた顔をした。
「このお嬢さんなら確かに頻繁に来ていましたよ。特に最近は、誰かとよく会っていたみたいです。でも、その男の人のことはあまり聞いたことがないですね」
「その男の人は、どんな人でしたか? 何でも覚えている事があれば教えてください」
愛理は焦らず、ゆっくりと質問を重ねた。
店員はしばらく黙ってから言った。
「個人のプライベートな事を僕なんかが言っていいものか……」
「私は探偵ですよ。警察を呼んだ方がいいですか?」
「ひええ! 警察は勘弁を!」
愛理が軽く脅してやると、店員は黙ろうとしていた口を開いた。
「彼女が会っていた男、たしかちょっと年上で、どこか冷たい感じの人だったと思います。よく桜子さんと話していたけど、何を話しているかは聞けませんでした」
「冷たい感じの人?」
愛理はその言葉に反応した。
「他に何か具体的な特徴はありますか?」
「うーん、髪が黒くて、少し長めだったような……。服装はシンプルで、目立たないような感じでした。でも、桜子さんがその人と会っているとき、彼女はいつも嬉しそうに見えたんです」
「嬉しそうに?」
「はい、でも、なんだかすごく心配そうにも見えたんです。笑っているけれど、目が寂しそうで」
店員は少し苦しそうに話した。
愛理はその言葉を心に刻みながら、店員にもう一度尋ねた。
「その男の名前は、わかりますか?」
店員は残念そうに首を横に振った。
「すみません、名前はわかりません。桜子さんがその男の名前を呼ぶところを見ていなかったので」
愛理はその情報を頭に入れ、和宏に向かって軽く頷いた。
「ありがとうごさいます。大変助かりました」
愛理は店員に感謝の言葉を述べ、店を出る準備をした。
カフェを出た二人は、そこから歩き出す前に次の手がかりを考えた。桜子が会っていたその男が事件と深い関わりがありそうだが、肝心の男の名前がわからないのが大きな障害だ。
「冷たい感じの男か……」
愛理は店の前で思案を巡らせた。
「もしかしたら、その男は桜子さんに何かを強要していたのかもしれない。それとも、何か悪い取引に巻き込まれたとか……」
「桜子がそんな悪い男と関わっていたなんて、信じられない。それに、そんな男のことを、なぜ桜子は秘密にしていたんだろうか?」
「それは私にも分かりませんが……」
愛理は少し考え、やがて答えた。
「秘密にしていたのは、もしかしたらその男が、あなたの家にとって危険な存在だったからかもしれません。彼女とその男との関係を見つける事が事件解決の糸口になるかもしれません」
「じゃあ、次は何をするんだ?」
和宏が尋ねると、愛理は振り返って前を見据えて答えた。
「次は、この男がどこに住んでいるのか、追いかけてみましょう。カフェの近くで、この男を見かけた人がいれば、きっと手がかりが得られるはずです」
「なるほど、そういうことか。わかった」
和宏は頷き、愛理の後に続こうとした。
再び歩き出し、桜子の行方を追い続けるため、次の手がかりを探しに向かうために。




