第3話 桜子の学校
桜子の通う学校に到着した愛理と和宏は、校門をくぐり、学び舎の静けさに包まれながら学校の敷地内に足を踏み入れた。風が心地よく吹き、放課後の静けさが漂う中、愛理は素早く周囲を見渡しながら歩いた。
「桜子さんのことについて、何か知っている教師がいれば教えてもらいましょう」
愛理は和宏に軽く言うと、学校の正門脇にある事務室に向かって歩き出した。
和宏は少し緊張した面持ちでその後ろをついていく。娘の行方がわからない中で、愛理の手助けを受けられることには安堵を感じる一方、心の中ではまだ不安が残っていた。
事務室に入って許可を取ると今度は職員室に向かう。愛理は堂々と歩いていくが、和宏は緊張でびくびく震えていた。
「大丈夫なんだろうか。僕たちなんかが学校に入って」
「大丈夫ですよ。私たちはきちんと許可を取ったんですから」
「君は大丈夫だろうけど……」
「ありましたよ。あそこが職員室です。失礼します」
愛理は何の遠慮も躊躇もなく、職員室のドアを開け放つ。和宏は愛想笑いで頭を下げるが、愛理は笑顔で職員室内にいた教師に声をかけた。
「すみません、少しお話を伺いたいのですが」
「ん? なんだね君は?」
「私は愛理。探偵です」
「探偵だって!? まさかこの学校で殺人事件が!? いや、それとも不倫調査の方か!?」
「いえ、そういう事件ではありません」
教師は不審とも思える驚き方をしたが、愛理が来た目的を伝えると、安心した様子で話を聞いてくれた。
「実は、桜子さんのことでお伺いしたいのですが……最近、彼女が何か気になるような様子を見せていませんでしたか?」
愛理は直接的に聞き込みを始めた。
教師は少し考える素振りを見せた後、言葉を選びながら話し始めた。
「高島桜子は、最近ちょっと元気がなさそうでしたね。授業中もぼーっとしていることが多かったし、以前はよく笑っていたのに、最近はあまり笑わなくなっていたように感じます」
「それは……何か特別な理由があるのでしょうか?」
「実は最近、友達との間に何かトラブルがあったみたいです。桜子さんは、気になることがあっても、あまり話さないタイプの子ですから、あまり詳しくはわからないんです」
「友達とのトラブルですか……」
愛理は和宏からも聞いたその言葉をしっかりと記憶に刻み込んだ。
「他の生徒からも何か聞いたことがありますか?」
教師は少し戸惑いながらも、続けた。
「実は、桜子さんと仲が良かった友達が最近、突然授業を休みがちになっているんです。名前は……確か、里見紗耶さんだったかな」
「里見紗耶さん……」
愛理はその名前を心に留めながら、続けて質問した。
「紗耶さんについて、何か心当たりはありますか?」
教師は首をかしげ、少し考えてから答えた。
「桜子さんと紗耶さんは、元々とても仲が良かったんですけど、最近は急に距離を取るようになった気がします。それに、紗耶さんが最近、学校に来ると、ちょっとおかしな行動をすることもあったと聞いています。」
「おかしな行動? 例えば、どんな?」
愛理の反応に、教師は少し困惑した表情で、声を小さくして言った。
「紗耶さんは、周りの生徒に話しかけることが少なくなったり、急に怒りっぽくなったりして、周囲とトラブルを起こすことが増えたと聞いています」
「それは気になりますね。紗耶さんは今どこにいるんでしょうか?」
愛理はその情報をしっかりとメモに取って尋ねた。
「うーん……最近は、よく保健室にいるみたいです。もしかしたら、まだいるかもしれません」
「帰る前に聞き込みましょう」
愛理はその情報をもとに、次の目的地に向かうことに決めた。
「和宏さん、保健室に行ってみましょう。桜子さんと紗耶さんの関係に、何か事件を解く手がかりがあるかもしれません」
その強い言葉に和宏は少し驚いた顔をしたが、すぐに頷き、彼女に従った。
二人は学校の廊下を歩きながら、しばらく無言で進んだ。愛理は歩きながら、頭の中で桜子と紗耶の関係を再構築していた。何か大きな問題が起こったに違いない。桜子の行方不明には、紗耶が深く関わっている可能性がある。だが、どんな理由で紗耶がそのような行動を取るようになったのか、まだ謎は多かった。
やがて保健室に到着する。
扉を静かに開けると、そこには少し元気のない様子で座っている紗耶がいた。愛理はやや驚きながらも、声をかけた。
「こんにちは、紗耶さん。まだいらしたんですね」
紗耶は顔を上げ、少し驚いた表情を見せた。
「あ、あなたは……?」
「私は愛理、探偵です。こちらはお父さんの和宏さん。私たちは今、桜子さんのことを調べているんです」
「探偵とお父さんが桜子の事を……?」
紗耶の表情が今度こそびっくりして一瞬硬直した。その後で訪れるのは心配の声だった。
「あ、あの子がどうかしたんですか?」
「実は、桜子さんが行方不明なんです。最近、何か気になることがあったのか、教えていただけませんか?」
紗耶はしばらく黙って考え込み、そしてやっと口を開いた。
「実は……あの子、最近、私に何か秘密を抱えているようだったんです。私、どうしてもそれが気になって聞き出そうとして……」
「秘密? それはどういうものですか?」
愛理は一歩踏み込んだ。
紗耶は少しだけ目を伏せ、声をひそめた。
「桜子が、ある男の人と関わっているみたいだったんです。最初は普通に話してくれていたんですけど、だんだん態度が変わってきて……私もついキレて桜子に言い返したりしてしまって……それからは何も言ってくれなくなったんです」
その言葉を聞いた愛理は、さらに深く調査を進める決意を固めた。
「その男、誰か心当たりはありますか?」
「……分かりません。でも、桜子がその人に会う時間が増えてから、彼女は少しおかしくなったんです。私が見たのはカフェが最後でした」
「それは重要な手がかりですね。ありがとう、紗耶さん」
「ごめんなさい……桜子が無事だといいけど……」
紗耶はうつむきながら言った。
愛理は彼女に軽く微笑んでから、和宏に向かって言った。
「和宏さん、これで一つ分かったことがあります。桜子さんが関わっているその男、この事件を解く鍵になりそうです」
和宏は頷き、二人は次のステップへ進むため、学校を後にした。




