第16話 明かされた真相
愛理と和宏はスタジオの前に立ったが、その入口には頑丈なバリケードが張り巡らされていた。金井が誰かを閉じ込めていることは明らかだった。しかし、バリケードがいかに堅固であろうとも、愛理にとっては問題ではなかった。
「即席で作った物のようですね。これぐらいならすぐに壊せます」
愛理は軽く言い、真っすぐにバリケードに向かって歩み寄った。
和宏は愛理の動きに少し驚きながらも、心配そうに声をかける。
「大丈夫かい? どこか入れる場所を探した方が……」
「時間がありません。最短距離でいきましょう」
愛理はバリケードに向かって拳を構え、気合一閃、振り抜いた。
「でやあああ!」
愛理の鋭い拳による威力を受けると、バリケードが木々の音を立てて崩れ落ち、スタジオの中に進む道が開けた。和宏はその力強さに再び驚いてしまう。
「凄い、愛理ちゃんの拳はこれを打ち砕くほどの力なのか。僕も気を付けないと」
「いえ、今のはもろい部分があったのでそこを突いたんです。きちんと時間を掛けて作られたバリケードならこうはいきません」
そうは言われてもそれを見抜く目と実行する技と力に和宏はただ驚きながら、前を行く頼りになる探偵の後をついていくのだった。
スタジオ内は静かで、どこか不穏な空気が漂っていた。このどこかに桜子が監禁されているのだろうか。
広いホールを二人が進んでいくと、突然、物音が聞こえた。そちらへ振り向くと、金井が猟銃を構えて立っていた。
「何者だ! 熊の仲間なのか!? 桜子は渡さないぞ! ……女の子?」
金井は冷徹な目で愛理と和宏を見つめていたが、愛理の姿を見て驚いていた。だが、猟銃を下ろす事はしなかった。
「何者かは知らないが帰るんだ。ここはお前たちには関係ない場所だ」
「そうはいきません」
愛理はその猟銃を一瞥した後、すぐに動きを見せた。
「銃を持っていても、私はあなたを止められます」
「なんだって!?」
金井は猟銃をさらに前に突き出し、愛理を脅そうとするがその瞬間、愛理は素早く前進した。狙いを定めさせないよう身を低くして左右に走って揺さぶりをかけ、猟銃を使う暇もなく、愛理はその動きを封じ込めるように金井の腕を掴み、猟銃をひねり取った。
「なんなんだ君は!」
「私は探偵です!」
そのまま、愛理は金井を床に押しつけ、手早く制圧した。
「暴力で脅すことなんてできませんよ」
「なんなんだこの女の子は! 軽そうに見えるのに動かせない!」
「キメていますからね」
愛理は冷静に男を押さえつけていた。和宏はその様子に驚きながらも、少し安心した表情を浮かべた。
「さすがだな……相手がうらやましいぐらいだ」
愛理は金井を完全に制圧した後、すぐに問い詰めようとしたが、その時、突然、背後から声が聞こえた。
「待って下さい、探偵さん! 金井さんは悪くないんです!」
振り向くと、桜子が立っていた。彼女は少し痩せた様子で、服も汚れているが、元気そうだった。しかし、その目にはどこか複雑な感情が浮かんでいた。
「桜子……!」
和宏は駆け寄ろうとしたが、桜子は一歩踏み出して彼を止めた。
「お父さん、どうして来てしまったの……」
桜子はゆっくりと歩み寄りながら言った。
「この山には……熊がいるのに!」
いよいよ事件の全貌が明らかになろうとしていた。
まだ危険を疑っていたので愛理は金井の拘束を解かなかった。彼はそれ以上暴れる事をせず、愛理と和宏は桜子の話を聞くことにした。
桜子は少し黙ってから、深く息をつき、目を合わせた。
「私は何も金井さんに監禁されていたわけじゃない。ここにいた理由は……熊に襲われて帰れなかったから」
和宏と愛理は驚いた顔で桜子を見つめた。
「熊だって……!?」
「熊は事件とは無関係ではなかったんですか!」
「そうです。熊こそがこの事件の真の犯人だったんです」
桜子は静かに頷いた。
「山で練習をしていた時、急に熊が現れて、私は逃げられなかった。金井さんが猟銃で追い払ってくれたんですが、熊はまだ山のどこかに潜伏していて、私たちは帰れなくなったんです」
和宏は桜子を見つめながら、少し戸惑った。
「でも、連絡をくれなかったじゃないか。俺が心配して、何度も電話したのに……」
桜子は少し俯いて、「それは……」と、言葉に詰まった。
「私が金井さんと音楽の練習をしていた事、お父さんに知られたくなかったから。それに連絡したらお父さんが山に来るって分かっていたから。こんな熊の出る危険な山に……だから、連絡を取れなかった」
「なるほど、全ては熊という人の仕業だったんですね」
「いえ、熊は熊です」
愛理は桜子の目をじっと見つめ、さらに尋ねる。
「では、桜子さんと金井さんの関係はなんだったんですか? ずっと不安そうにしていると聞いていたんですけど」
「それは……金井さんがメジャーデビューしないかと誘ってくださって。私はまだそれほど自信が無くて……」
「メジャーデビュー?」
桜子はその言葉を聞き、涙をこらえながら、小さく頷いた。
「はい。金井さんは私をここまで導いてくれた恩人なんです。決して犯人なんかではありません」
「なるほど、そういうことだったんですね」
ついに事件の全貌が明らかになった時、熊の咆哮が轟いた。
愛理は事件に決着を付ける為、熊に挑まなければならない。




