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エアルドレッド王国

リリアの楽園

作者: 桃兎
掲載日:2025/12/06

『 スラムで育った孤児は愛されて恋をする 』のスピンオフですが、読まなくても全く問題ありません。雰囲気はまるで違うのでスピンオフと言っても全くの別作品です。国王の話。

リリアとキーサルト、マクリシアの3人の気持ち。そして願い。

おそらくハッピーエンドです。

しんしんと降り積もる新雪に少女とも女性とも見えるーーリリアは立っていた。

リリアは18歳で学園を卒業した後、婚約者と無事に婚姻した。

しかしリリアが20になっても妊娠の兆しはなく夫は側室を迎えることになった。


雪が指先に触れじゅわっと溶けた。


「……政略結婚ではあったけれど、わたくしは」


涙が落ちた事を夫は知らない。



夫の名はキーサルト・エアルドレッド。エアルドレッド王国の王太子だった。

この二年で国王となった。

王には後宮がある。しかしキーサルトはリリアだけでいいと自身の部屋の隣に妻の部屋を用意した。


婚約者としてリリアを尊重し、ひとつの庇護もなく、愛情と見紛うほどの時間を費やしてくれた。

嫁いでからも優しく慈しんでくれた。好意が恋慕となるのは自然の事だった。

だからこそ、リリアは涙した。


「こんなに愛してしまう前ならば……」


王なのだから傲慢に愛妾を侍らせれば傷つきはしただろうが、絶望はしなかっただろうと思う。

はらはらと流れる涙が落ちると共に雪は積もり続けた。

側妃に選ばれたのはリリアの親友のマクリシアだった。

同じ侯爵家の同じくらいの歴史のある家門。歳も同じで、おっとりしているリリアと違い勝気なマクリシア、ふたりが仲良くなるのは時間の問題だった。

学園ですぐに意気投合したふたりは休みの度に一緒に出かけた。


「あたくし達って姉妹のようね」


マクリシアもリリアを大事にし、輿入れの時はマクリシアはリリアを抱きしめた。

困ったらいつでも相談なさい。と、マクリシアは何度も言ってくれた。

勝気ではあるが小柄なマクリシアはリリアにとって可愛い親友だった。



そんな愛する夫と可愛い親友が床を共にする初めての日。

リリアは寝付けずにバルコニーに出た。

雪のせいではない、寒さと違う震えが止まらない。


胸が締め付けられる。


それはマクリシアの言葉もリリアは不安になった事のひとつの理由である。



「あたくし、お慕いしている方が居たから婚約も結婚も致しませんでしたの。今回のお話はその方のお傍に侍れる最後の機会と心得ております。リリア様の不都合には決してならないと誓います。ですから、キーサルト様の側妃に立つことお許しください。」


リリアは王妃教育で身につけた笑みで頷くことしか出来なかった。

それからすぐにマクリシアはキーサルトと二人きりで過ごすようになった。

それでも夜はリリアの元に通っていたキーサルトがマクリシアの元へと向かった。

一人きりになった夫婦の寝室はやけに広い。


ーーリリア、君さえいれば子など要らない。なに、弟の子を立太子させればいいのだ。


そんな事を仰ってくださったのに、と、ちくりと胸の奥が痛んだ。



キーサルトとリリアは15歳離れていた。王太子であるにもかからわず婚約を先延ばしにしていたのは国の情勢が悪かったからである。

そんなキーサルトが年下のリリアに出会いあっという間に婚約を発表した。

弟は先の臣下に下り、公爵として妻と愛妾を囲っていた。子も四人いる。

初めは、国の為と結婚しなかった兄の突然の行動に弟は困惑していた。

それもそのはず、弟の次男を時期国王と教育していたからである。

長男でないのは、長男は身分の低い愛妾の子だったからだった。

内々の話だったためこの事実を知るのは弟と妹だけだった。

ちなみに妹のお腹には子がいる。その子が男の子ならば王位継承権第二位となるとも話した。




弟や妹には悪いと思ったがキーサルトはリリアを愛してしまった。

出会ってからずっと恋している。

若いと言えない自分を愛してくれるリリアを手放せるはずなどない。

しかし子が生まれない事でリリアは廃する動きがあった。









だから……あの女をリリアの傍に置く事に耐えることにした。


マクリシア・テールズ。20になった今でも婚約者もおらず、『わざと』見合いを失敗し続けている。

そんな女がキーサルトと接触したのはリリアとの茶会の時だった。

リリアが席を外した瞬間にぴしりと言われた。


「リリア様を助ける為にあたくしをお使いください」


言われた意味が分からずマクリシアを見る。


「子ができない理由がリリア様で無ければ良いのです。側妃を娶った王に皇妃も側妃も子がいなければそれは妃が理由ではありません」


側妃と言われカッとなるが、怒鳴るなどはしない。

静かに怒りに耐え声を出した。


「側妃など考えておらん。リリアだけが唯一の妻だ」


マクリシアは頷く。意味が分からず黙る王にマクリシアは呟く。


「リリア様の代わりなど存在しないなんて当然ですわ。『だからあたくしは独り身』ですもの」


その言葉の意味をゆっくりと理解したら腹立たしさが倍に膨れ上がった。


「貴様……リリアの事を」

「……そうですわ、愛しております。何よりも誰よりもお慕い申し上げております」


寂しげに俯いたマクリシアは、ですけれど、と続けた。


「リリア様が幸せならばあたくしはよかったのですわ。あの方はあたくしを『友』として慕ってくださってますからね。」

「ならば友の夫の側妃になるのはおかしくはないか?傷つくと分かっているのに……リリアの事を考えるとそれには頷けぬ。何よりリリア以外を愛せはしない。リリアを思えばこそ頷けぬ」

「いいえ、いいえ、違うのです。あの方は社交界で身の置き場がないのですわ。子の産めない石女と呼ぶ不届きな者すらおります。」


持っている扇子がギリっと音を立てた。


「あたくしが許せませんの。そんなの許せる訳がございません。ですから……王に置かれましては大変決断しがたい事と存じますが、あたくしと共にリリア様の汚名を晴らして頂きたいのです」

「……白い結婚を、望む、と?」

「お話が早くて存外の喜びに存じます」

「リリアが傷つく」

「……わかっております。ですが、あたくしと貴方様が閨をしたと思わせる日に真実を打ち明けれますわ。それまでは……あたくしも貴方様もリリアを慮り、愛を注げば良いのです。そして、時が来ればそこに居るのは石女ではなく王を支える健気な王妃ですわ。」



即答は出来なかった。

しかし王宮で新たな妃を、リリアを廃せと、そんな声が大きくなっていった。

秘密裏にマクリシアと手を組んだ。





マクリシアは一人後宮に入った。

リリアは怒っていいのに笑顔でマクリシアを出迎えた。抱きしめると震えるリリアの心中は怒りか悲しみか……


リリアには後宮の部屋ではなく妻の部屋がある。けれど後宮でただ一人のマクリシアを訪ねてくれた。

優しいのだ『あたくしのリリア』は……


同じような環境で育ったのにリリアはいつまでも心の清らかな女性だった。

憧れに近い感情だったのが恋情に変わり崇拝に近くなるには時間はかからなかった。

マクリシアは勝気で高慢だったがゆえに孤立していた。

高位貴族と言うだけではなく歴史ある家柄はマクリシアの存在意義だった。



そんな態度だから、お茶会でマクリシアのいない隙にある令嬢が陰口を叩いた。

あの令嬢は家柄しか取り柄のない高慢ちきで本当の友などいない。そんな言葉を……

しかしリリアはおっとりと笑いそれを否定した。


「わたくしはテールズ侯爵令嬢ではなく『マクリシア』様という唯一のお方の友ですの」


マクリシアを悪くいう他の令嬢は口を閉ざした。


「人とは相性がございますでしょう?だから仲良くなれるかなれないかは人それぞれですわ。だけれども、その人は誰かにとっては大事な方です。今も思いますの。マクリシア様を好きになれないのは仕方がないかもしれない。だけれど、わたくしの大事な人を悪く言われると、悲しい、と……」


しんとしたお茶会。その空気を変えたのもリリアだった。


「ですから、ほかのお話を致しましょう?わたくしは皆様のお話が聞きとうございますわ」


ふふっと嫌味のない笑顔は場を和ませた。

しかし皆から見えない位置に立っていたマクリシアは動悸がひどくなっていった。誰にも気が付かれなくて良かったと思う。おそらく自身は首まで赤く染っているだろう。

リリアの笑顔はマクリシアを惹き付けて離さなかった。


リリアの笑顔がマクリシアの救いだ。リリアはマクリシアにとって女神のようだった。

だからリリアが侮られるのは許せなかった。


リリアの婚約、結婚……

一晩中泣いた。けれど、泣いた後は笑ってみせた。

リリアがそう望むから。


リリアが幸せそうだから……



遠くから見れるだけで嬉しかった。

しかし、一年経っても二年経っても懐妊の祝いは無く、リリアは侮られるようになっていった。


苦肉の策とし、マクリシアは嫁ぐ決心をした。











リリアは夫婦の寝室のベッドの上で丸くなって震えていた。


「起きていたのかい?」


深夜に夫は帰ってきた。

その手で親友を抱いたのだ思うと胸が張り裂けそうだった。

頬に触れようとする夫の手を身を引いて避けてしまう。

夫の瞳が傷ついたように揺れたが、そのまま手を下げた。


「……すまない、気が利いてないね。だけど誓ってリリアだけを愛しているよ」

「……っ、ですけど、それは、マクリシア様が」

「大丈夫だよ。彼女も私を愛してはいないから。そういう『契約』だから、妃に迎えたんだ。リリアだけを愛することを彼女は良いことだと思っている」


どういう……と声が掠れた。

涙が驚きで止まった。


「リリア、これで彼女を抱いたと皆が認める。だからリリアに子が出来なくとも、マクリシアにも出来ぬのだからリリアに責が無いのは立証される」

「え……」

「誓う。そなたを守るためにマクリシアの元に向かおうとも情はかわさぬと。そもそもリリアでない者を私は抱こうと思わぬよ」


言葉の意味を理解して喜んでしまった直後怒りが沸いた。


「そ、それじゃマクリシア様が!そんなのひど……い。わ、わたくしの、せいで……」


つんとしているマクリシアはリリアの前ではよく笑った。大事な親友だ。

それなのに、こんな役割……と、理不尽さに憤慨した。


「仰っていただけたら、わたくし、反対いたしましたのに!わたくしはキーサルト様もマクリシア様も大事なのですわ!酷いです」


こんなリリアだけの為に大事なふたりが犠牲になることなんて、そう憤っても目の前の彼は笑うだけだった。


「ごめん、だが、そう言うと思って今日まで言えなかったんだ。もう『マクリシアと情を交わした』という誤情報は事実として皆が知るとこになる。もう手遅れなのだ。それに、あの女は……いや、そうだな。リリアは私の大事な宝だが、時折ならばマクリシアに貸そう。業腹ではあるのだが。マクリシアとの契約だから仕方がない」

「……そんな。マクリシア様の幸せはどうなるのです……あなたのお子は……わたくしではお力になれないかもしれないのに。キーサルト様もマクリシア様も……わたくしの犠牲に」

「違うのだ。リリアのせいではない。リリアのため。その事実があれば嬉しいのだ。リリアだけが私の唯一なのだ。愛しているよ」


やっと触れることが許されたキーサルトはリリアの涙を指の腹で拭う。

リリアは寝れないまま朝を迎え、マクリシアとふたりだけの茶会を開いた。



「リリア様、寝不足ですのね……お聞きになったのでしょう?お知りになったのなら安心して頂きたいのに」

「……マクリシア様、わたくし……ごめんなさい」


俯くリリアにマクリシアは手を伸ばし、その手に触れるとゆるりと握った。


「リリア様、あたくしの顔を見てください。あたくしが不幸そうですか?」

「……それは、違いますけれど」

「ええ、ええ、そうでしょうとも。あたくしは今幸せですもの。もしもリリア様が納得できないのでしたらあたくしとのお茶会をまた開いてくださいまし。」


いつもの自信溢れる笑みではなく柔らかな微笑みをマクリシアは浮かべていた。


「もちろん、もちろんですわ。マクリシア様……ありがとう」


微笑みながらも涙をうかべるリリアは美しかった。








この三ヶ月後リリアの懐妊が発覚した。

今後マクリシアの立場は悪くなるのに彼女は我がことのように喜んだ。


キーサルトとマクリシアのいる後宮でリリアは優雅に微笑む。


「わたくしの子はキーサルト様はもちろんですけれど、マクリシア様の子とも思っていただきたいのです。わたくし、王宮に来てから気を張っていたのです……マクリシア様が支えてくださって安心できましたの。懐妊はその事があったからですわ。だから、この子はわたくしとキーサルト様、そして……マクリシア様の子ですわ。」


まだ存在が感じられない腹を愛おしそうに撫でる。

マクリシアの手を握るとそっとお腹に誘導する。


マクリシアが涙をうかべるとリリアを優しく抱きしめた。

キーサルトが少し拗ねたのはリリアだけが知っていた。




ここがリリアだけの幸せの楽園になった。

読んで下さりありがとうございました

マクリシアはリリアが大好きです。恋愛という側面もありますが崇拝に近いのでキーサルトは歯ぎしりしつつもマクリシアがそばに居る事に耐えている。

リリアはマクリシアの好きな人に思い当たらず、ずっとキーサルトを思っていると勘違いしていた。

後に、あれ?マクリシアの好きな人ってだれ??ってなるけど毎回はぐらかされる。

おっとりしているが妃としては優秀。

マクリシアもリリアと同じく優秀だったためリリアが悪阻で辛い時期は代わりにこなします。

キーサルトの取り合いに見えて実はリリアをふたりが溺愛しているだけのお話

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