第17章 天の塔、静寂の戦場
第17章更新しました。 石造りの塔の中身は、超未来的な管理施設。 未知のテクノロジーに対し、エルゼの知識とベルンハルトの魔法が炸裂します。 そして明かされる衝撃の真実とは。
大陸の中央、雲を突き抜け天を衝くようにそびえ立つ「天の塔」。 その外観は、風雨に晒され、苔むしたただの巨大な石柱に見えた。 連合軍の兵士たちは、その圧倒的な質量と高さに首が痛くなるほど見上げ、神話的な畏怖の念を抱いて立ち尽くしている。
「……ここが、神の居城か」
帝国将軍が、巨大な戦斧を担ぎ直しながら低く唸った。 その隣で、ベルンハルトもまた、緊張した面持ちで杖を強く握りしめている。 彼らにとって、ここは人知を超えた魔境の入り口だ。
だが、先頭に立つエルゼ・ノイマンの反応は違った。 彼女は石造りの壁に近づくと、何もない空間を指先でなぞり始めたのだ。 その瞳には、宝の山を前にした子供のような、無邪気な輝きが宿っている。
「違うな。これはただのカモフラージュだ。 表面に岩石質の素材を貼り付けて、自然物に偽装しているだけだ。 ……見ろ、ここに隠しインターフェースがある」
エルゼが指を走らせた場所が、幾何学的な光を放ち始めた。 石の表面がホログラムのノイズと共に揺らぎ、青白い操作パネルが空中に浮かび上がる。 古代語――いや、複雑なプログラムコードが高速で流れていく。
「なっ!? 壁が光っただと!?」 「詠唱もなしに……これが科学の魔法か!」
「魔法じゃない。認証プロトコルだ。 ……パスコード解析、バイパス接続。 開け、ゴマ(オープン・セサミ)。……なんちゃってな」
エルゼが最後のキーを叩くと、ズズズ……という重低音と共に、巨大な石壁が左右に割れた。 いや、割れたのではない。滑らかにスライドしたのだ。 粗野な石の偽装が剥がれ落ち、その下から現れたのは、継ぎ目のない銀色の金属扉だった。
プシュウゥゥゥ……!!
圧縮空気が抜ける鋭い音と共に、扉が内側へと開いていく。 そこから吹き出してきたのは、カビ臭い遺跡の空気ではなかった。 消毒液のような無機質な匂いと、肌寒さを感じるほどに管理された冷気だ。
「……空気が、違います」
アリアが鼻をひくつかせ、身震いする。 暗い洞窟を想像していた一行の目の前に広がったのは、あまりにも異質な光景だった。 シミ一つない純白の複合素材で覆われた床と壁。 天井には影を作らない面発光の照明が埋め込まれ、どこからともなく「ブゥゥン……」という低い駆動音が響いている。
「な、なんだここは……!?」 「壁が……白い? 石でも鉄でもないぞ!」 「明るい……松明もないのに、昼間のように!」
ベルンハルトたちが、未知の空間に足を踏み入れるのを本能的に躊躇う。 彼らの常識にある「ダンジョン」とは、あまりにもかけ離れていたからだ。 だが、エルゼにとっては、それは懐かしさすら覚える「文明」の匂いだった。
「……素晴らしい。 空調完備、防塵仕様、完全な照明設備。 ここはこの世界で唯一、古代の文明レベルが維持されているサンクチュアリだ」
エルゼはカツカツと乾いた足音を響かせ、先へと進んでいく。 彼女の煤けた白衣が、清潔な照明に照らされて白く輝く。 アリアもまた、困惑しながらもエルゼの背中を追った。
「エルゼ様、あの音……ずっと鳴ってますけど、魔物の唸り声でしょうか?」
「いいや、あれは空調ファンの駆動音だ。 換気システムが生きている証拠だよ。 ……さあ、観光は後だ。上層へ向かうぞ」
一行が広い通路を進み始めると、突如として壁の一部がスライドし、赤く光る複数の「眼」が現れた。 ウィィィン、ガシャン! 機械的な動作音と共に現れたのは、流線形のボディを持つ浮遊型の警備ロボットたちだ。
「侵入者検知。排除モードへ移行します」
無機質な合成音声と共に、ロボットのアームから赤い光線――高出力レーザーが放たれた。 ジュッ! という音と共に、床の素材が瞬時に焦げ付く。
「うおっ!? 光の矢だと!?」 「盾を構えろ! 物理攻撃じゃないぞ!」
将軍が斧で防ごうとするが、レーザーは高熱で鋼鉄の刃を容易く溶かそうとする。 未知の兵器に、歴戦の猛者たちが動揺する。 だが、エルゼはニヤリと笑い、即座に弱点を看破した。
「光学兵器か。出力は対人レベルだな。 鏡面反射には弱いはずだ。 ベルンハルト! 『氷の鏡』を展開しろ!」
「指図するな! ……だが、やってやる!」
「ただの氷じゃダメだ! 表面をナノレベルで平滑化しろ! 歪みがあると熱で割れるぞ! 入射角を計算して弾き返せ!」
「注文が多いわッ!!」
ベルンハルトが杖を振るうと、彼らの前に分厚く、そして鏡のように磨き上げられた氷の壁が出現した。 レーザーが直撃するが、氷はそれを吸収することなく乱反射させ、あさっての方向へと弾き返す。 自分たちの攻撃が効かないことに、ロボットのAIが一瞬の処理遅延を起こす。
「今だ、アリア! 将軍! センサーアイを潰せ! ただの精密機器だ、衝撃には脆い!」
「オラァッ!!」
将軍の剛腕が振り下ろされ、一機目のロボットを壁ごと粉砕する。 残る二機が照準をアリアに向けた。 発射の予備動作なし。光速の攻撃。避けることなど不可能なはずだった。
だが、アリアは動いていた。 トリガーが引かれるよりも早く、彼女の体がスッと沈み込む。 直後、彼女の髪の数ミリ上を赤い閃光が通過した。
「……そこです!」
アリアが壁を蹴って跳躍し、空中でスタンバトンを振り抜く。 バチチチッ!! 高電圧の一撃がロボットの中央レンズに突き立てられ、内部回路を焼き切る。 火花を散らし、警備ロボットたちが次々と鉄屑へと変わっていった。
「ははっ! なんだ、見かけ倒しか!」 「中身はガラス細工みたいだな!」
「油断するな。これはただの露払いだ。 本命は、この奥にある」
エルゼの言葉通り、通路の突き当たりには、これまでとは桁違いに堅牢そうな、黒い金属の扉が立ちはだかっていた。 その横には、手のひらサイズのガラスパネルが設置されている。 ここが、中枢へと至るエレベーターホールへの最終防衛ラインだ。
「……セキュリティレベル、最大か。 物理破壊は不可能。ハッキングも……外部ポートが物理的に遮断されている」
エルゼはパネルに端末を接続しようとしたが、アクセス拒否の赤いランプが点滅するばかりだ。 ドリルでも、魔法でも、この扉をこじ開けることはできない。 それは、「管理者」以外を絶対に通さない、論理の壁だった。
「くそっ……ここまで来て、鍵がないだと?」 「私が最大火力で吹き飛ばしてみせようか?」
「無駄だ、ベルンハルト。 この材質は対消滅装甲だ。お前の全魔力をぶつけても傷一つ付かない。 ……万策尽きたか」
エルゼが悔しげに唇を噛んだ、その時だった。 アリアがふらりと、何かに導かれるように扉の前へと歩み出た。 彼女の首筋にある、バーコードのような痣が、ドクン、ドクンと赤く脈動し始めている。
「アリア? どうした?」
「わかりません……。 でも、ここが……私を呼んでいる気がします」
アリアは夢遊病者のように手を伸ばし、その震える指先を、光るガラスパネルへと触れさせた。 その瞬間。 今まで赤く拒絶していたパネルが、鮮やかな緑色へと変色し、ホログラムウィンドウが展開された。
『――生体認証、確認。 遺伝子コード、クラスA。 最終ログイン……3000年前。 おかえりなさいませ、管理者』
柔らかい女性の声が響き渡る。 プシュウゥゥ……という静かな音と共に、絶対に開かないはずの黒い扉が、恭しく左右へと開かれた。
「な……!?」 「3000年前、だと……?」
その場にいた全員が、言葉を失った。 エルゼだけが、驚愕に見開いた目でアリアの首筋と、モニターの表示を交互に見つめる。 全ての点と線が繋がった。 アリアの異常な身体能力、パワードスーツへの適合率、そしてこのセキュリティ解除。
「……そうか。そういうことか。 お前は、古代人の末裔なんかじゃない。 このシステムを管理するために作られ、長い時を眠っていた……『正規管理者』の生き残り(オリジナル)だったのか」
アリア自身も、自分の手を見つめ、戸惑っている。 だが、開かれた扉の奥には、透明なチューブの中を光の粒子が昇っていく、巨大なカプセル状の昇降機が待っていた。
「……行きましょう、エルゼ様。 私が何者でも、やることは変わりません。 あなたを守って、この世界を救う。それだけです」
アリアは振り返り、力強い笑顔を見せた。 その表情は、もはや守られるだけの少女のものではない。 自分の運命を受け入れ、前に進む覚悟を決めた、一人の人間の顔だった。
「……ああ、その通りだ。 お前がお前であることに変わりはない。 最高の相棒だ」
エルゼは短く答え、アリアの隣に並ぶ。 ベルンハルトと将軍も、顔を見合わせて苦笑し、二人に続いた。 一行は、未来的なカプセルへと乗り込む。
『行き先指定、衛星軌道ステーション「月読」。 上昇を開始します』
強烈なGがかかり、床が浮き上がる感覚。 窓の外では、雲海が瞬く間に下へと流れ去り、空の色が青から群青へ、そして漆黒へと変わっていく。 石と魔法の世界は遥か彼方へ遠ざかり、彼らは今、星の海へと至る垂直の旅路についた。
ファンタジーの皮を被ったこの世界の、本当の姿(SF)が露わになる。 静寂の戦場は、地上から宇宙へと舞台を移した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
「開けゴマ」からの自動ドア。お約束ですが、異世界人には効果絶大ですね。 そしてレーザーを鏡面加工した氷で弾く。 科学知識があれば、未知の兵器も攻略可能です。
エレベーターはいよいよ宇宙空間へ。 地上とは全く異なる環境で、彼らはどう戦うのか。 物語はクライマックスに向けて加速していきます!
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