表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/16

揺らぐ光と最初の選択

ネズミを飲み込んだあと、俺はしばらくその場で丸くなっていた。

体の奥に沈んだ重みは、不思議と心地よい。

ほんの少し前まで、獲物を丸呑みするなんて想像もできなかった。

でも今は、腹の中に広がる温もりが、俺に“生きている”という実感を与えてくれていた。


しばらくして、洞窟の静けさが再び耳に戻ってくる。

ぽた、ぽた、と天井から落ちる水滴の音。

遠くで、かすかに風が流れるような音がした。

……この先に何かがある。


俺はゆっくりと体を伸ばした。

胃袋に収まったばかりの獲物が少し邪魔をして、動きが重い。

でも、このまま同じ場所にいれば、別の何かに襲われるかもしれない。

食事が終わった今こそ、周囲を探るべきだ。


舌をちろりと伸ばす。

鼻孔の奥に、湿った空気と一緒に“情報”が流れ込んできた。

苔の匂い、水の匂い、そして……ほんのりと甘いような、土とは違う匂い。

何だ、これ?

匂いは洞窟の奥、微かな光のある方向から漂ってきている。


俺は腹側の鱗を地面に押し当て、するりと前へ滑り出した。

鱗のひんやりした感触と、岩のざらつきが交互に伝わってくる。

そのリズムが少しずつ心を落ち着かせた。


しばらく進むと、通路は二つに分かれていた。

右の道は細く、奥にかすかな光が漏れている。

左は広く、暗闇が続いていて、遠くで水の音が響いている。


「どっちに行くべきだ?」

人間のころの癖で、思わず独り言をもらした。

答えは返ってこない。

けれど、舌をもう一度ちろりと出してみると、甘い匂いは右の細道から強く漂っている。


……食べ物かもしれない。

でも、罠の可能性だってある。

まだこの世界のルールは何ひとつ分かっていないのだ。


少し迷ったあと、俺は頭を右に向けた。

もし危険なら、そのとき考えればいい。

生き残るためには、動かなきゃならない。

そう自分に言い聞かせて、俺は光の差す細道へと体を滑り込ませた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ