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初めてのひと口
岩肌に身を横たえたまま、しばらく動かずにいた。
体を起こそうとして――いや、俺にはもう「起こす」という概念がない。
細長い体をゆっくりうねらせ、周囲を見渡した。
薄暗い洞窟。天井の岩から水滴が落ち、地面の苔がほのかに光っている。
足音も、風の音もない。耳を澄ますと、遠くでかすかに水が流れる音がした。
……ここは、どこだ?
とりあえず、落ち着け。
さっきまで卵の中にいて、今は蛇の体になっている――それは分かった。
でも、このまま突っ立って(いや、立てないけど)いても、何も変わらない。
ふいに、ぐぅ、と腹の奥で音がした。
「……お腹、空いた?」
いや、蛇に“腹”ってあるのか? でも空腹感は確かにある。
そのとき、ふと記憶の片隅がよぎった。
――蛇は、生まれたあとに自分の卵の殻を食べるって、誰かが言ってた気がする。
見れば、さっきまで自分を包んでいた殻が、床に散らばっている。
「……試してみるか」
俺は舌をちろりと伸ばし、かすかに残る生温かい匂いを確かめた。
そして、そっと殻のかけらを口に運んだ――。