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捨てられ王子と魔獣聖女 〜帰還道中記〜  作者: いわな
第一章 最初の臣下
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○【09・貴人の生活】○


「ウィリさん、寝ててください」

「無理だ。馬車は揺れる」

「ウィリ、寝る! 昨日も一昨日もちゃんと寝てない、その前も寝てない」


 そんなに寝てないのか?

 

 俺は御者をしつつ、馬車の中にいる二人と話をしていた。

 馬車は今、なだらかに下る道をゆっくりと進んでいる。しばらくは平原がつづくけど、正面にはまた山が見える。

 ちなみに、デラとロームは御者台に座っている。俺の両隣だ。二人も心配そうに馬車の中を見ている。


「ミーニャ、三日ぐらい眠らなくても大丈夫だ。全く休んでいないわけでもないし」

「ゆだんきんもつ! おかあさまに怒られるよ」

「……む」


 やっと納得してくれたのか、古布を敷き詰めた馬車の床に横になってくれた。少しでも休めるようにと敷いたんだけど、どうだろう。

 と、進行方向に顔を戻した途端ガッタンと馬車が石に乗り上げて大きく揺れた。

 おずおずともう一度振り向くと、ウィリさんは後ろ頭を撫でながら半身起きてた。

 寝られないよな。こりゃ、確かに。

 もう少し野宿した場所でゆっくりしててもよかったんだけどな。ウィリさんが大丈夫と言い張ったので出発はしたけれど……

 ちょっと目の下に隈があるんだよな、ウィリさん。

 ミーニャさんも心配そうにウィリさんの頭を撫でている。そうしながら「よしっ」と、うなずいた。


「馬車、かいそうする」


 改装?


「ミーニャ、この馬車はベイルのものだ。親の形見だとも言っていただろう」

「え!? いや、それはそうですけど、改装できるならしてもらえる方がいいですよ。かなりボロなんで」


 父さんが死んでからはろくに手入れもできてないからかなりボロボロ。車輪や車軸なんかは気をつけているけど、それだけでもかなり金がかかってしまうから、他は手がつけられなかった。

 つまり──


「改装にはかなり金がかかります。たぶん時間もかかります。揺れにくい馬車にしようとしたら相当です」


 ウィリさんの金貨を換金していくらになるか分からないのに、簡単にそんな話には乗れないよ。

 けれど、ミーニャさんは胸を張る。


「ミーニャがつくる。おかあさまに習ったから、できる!」


 なんか無茶を言い出した。

 いや、馬車の改装を手ずからやる『お母様』って、どんなだよ。


「ミーニャは木を切るところは無理だろう。前に練習で小屋を作った時は俺が木を切った」

「あの、すみません。馬車には修理用の工具は積んでいますが、斧とか大きなノコギリとかはないですよ?」

「剣で切る」


 ウィリさんも変なこと言い出したよ。

 剣じゃ細い雑木くらいしか切れないでしょうに。


「ウィリさん、やっぱりちょっと寝た方がいいですよ」

「うむ……」


 馬車はガタンガタンと石に乗り上げては弾む。

 本当は、馬車よりもっと切羽詰まったことがあるんだよな。


 パンがもうないんだよ。


 本当なら、今頃はトートウ領の商会に戻って、人買いのおっさんどもから報酬もらってうまいもん食ってるところだった。いや、その辺の不平はいい。

 パンくらいならどこかの町に寄った時に、俺の持ち出しで俺が買いに行けばいいんだ。

 そんな提案をウィリさんに話そう、と思った時。先にウィリさんが言った。


「ベイル、どこか人がまったく来そうにない森はないか? 村からも町からも離れた」

「は?」

「そこで馬車の改装をする」

「えっ!? いや、でも」

「良い場所はないか?」

「ありますよ、昔父に連れてってもらった場所が。けど、もうパンもないですし……」

「パンがなくても餅がある。狩りもする。池や川があれば魚も獲れる」


 狩り。

 そう言えば、前に鳥の肉食わせてもらったっけ。あれ、やっぱり狩ったんだ。どうやって? 弓矢とかも持ってるのかな? いや、それもだけどモチって何?


「昼までに行けるか?」

「……行けますよ。道が荒れるから、今より眠れなくなるでしょうが」

「かまわん。どのみち眠れん」


 そうですか。

 俺は御者だしね。

 行きたいところへ連れて行くと言ったのは俺なんだ。連れて行きましょう。

 狩りもモチも改装も気になるし。

 ウィリさんたちがなんとかなると言うんだからなんとかしてもらおう。

 

 とりあえず、道なりに少し進んで山の形を見つつ、昔行った場所を思い出す。しばらくイーク領を北に向かって、まっすぐ進む予定を少しずらして東に向かう。

 いくつか村があったけど全て無視して山道へ入る。

 途中までは、昨日のような林道になっている緩い斜面をゆっくり登るが、進むにつれてどんどん道が荒れだした。草が道を隠し馬車も人も長いあいだ来ていないのがわかる道だ。

 さらに行くと、開けた場所にでた。すっかり崩れて草や苔が生えた木造の古家が十数軒。


「……廃村か」


 ウィリさんの言葉にうなずく。


「うちの両親が、俺が生まれる前にも来たらしいけど、その頃からこんなだったと言ってました。昔、近隣の村で聞いたらここの連中はみんなで鉱山へ移り住んだとか。もう何十年も前のことらしいですよ」

「そうか。イーク領では三十年ほど前に新しい銀鉱山が見つかったと言う資料があったな。林業よりそちらに事業を広めたいと──……」

「へえ、そうなんですか。ウィリさん、詳しいんですか?」


 聞いたら口をひき結んで黙ってしまった。

 なんか、知ってた話がうっかり口をついてでた、みたいな感じだったようだ。それは聞いちゃいけない部類のことかな? まあいいや。


「目的の場所はもう少し先です」


 歩きにくい道だけど馬には頑張ってもらうしかない。

 廃村の奥にも、馬車がなんとか通れるだけの道がある。そこをしばらく行くと、森が開けた。


「わあっ!」


 歓声を上げたのはミーニャさん。

 ロームやデラも同じように声を上げた。


 そこには、湖があった。

 三つ並んだ大きな山の裾にある、それはもうきれいな湖だ。日の光が水面に弾けてキラキラしている。写り込んだ山の姿はまさに絶景。


「ほう……」


 と、ウィリさんも感嘆の息をつく。

 なんかちょっと鼻が高くなっちまうな。


 ほんのしばらく、湖に見惚れた後。俺は馬車を湖のほとりまで行って留めた。

 とたん、馬車から飛び降りたミーニャさん。


「ミーニャは狩りに行く! ロームとデラはたきぎひろい! ベイルは馬のおせわと馬車のみはり! ウィリは馬車ですいみん!」


 元気にびしびし指示を出す。


「ミーニャ……」

「すいみん!」


 更に言われて、ウィリさんは困ったように笑った。


「わかった。ありがとう、ミーニャ」

「うん! ミーニャはウィリを守るためについてきたの。だから、ウィリは元気でいてほしい」

「それを言うなら、俺はミーニャのために故郷へ帰るんだぞ? 張り切ってくれるのは嬉しいが、俺を守りたいならまずはミーニャが身を守ることを忘れないでくれよ」

「わかってる!」


 そんな会話をした後、ミーニャさんは森の中に駆けて行った。早い。

 残された俺と、デラとロームはぽかんと見送る。デラはちょっと頬が赤い。

 恋人同士のやり取りに見えるもんな。

 実際そうなんだろうとは思うけど。


「では、あとは頼む。少し寝る」


 そう言って、ウィリさんは馬車に入ってすぐに寝た。

 あんなやりとりを俺たちの前で見せながら、こっちの動揺には気付いていないのか。気にならないのか。

 日常的にそんななのかな?

 なんかすごい。


 二人とも良い家の出なんだろうと思うんだけど、貴族とかってそんなもんなんだろうか。貴族なんて、遠目に偉そうにふんぞってるのしか見たことないけど、やっぱりいろんな人がいるんだな。

 色々と考えつつ、俺は言われた通り馬の世話をはじめた。



 それからしばらく。

 ミーニャさんが鳥とウサギ二匹を捕まえて来た。

 それ以上に驚いたのが、俺以外全員がそれらを捌けたことだ。デラやロームすらウサギの皮を剥いだり内臓取ったりできたんだ。しかもご馳走だと大喜び。どっちも貧しい村育ちだもんな。狩りも珍しいことじゃないんだろう。


 獲物が肉になった頃、ウィリさんが起きて来た。結局眠ったのは少しだったけど、ぐっすり寝たのか顔色は良くなっていた。

 で。

 肉の調理をしてくれた。

 焚き火で焼くのは前と同じだったけど、前よりずっとうまかった。なんか蜂蜜を使っていたけど、そんな料理の方法があったのか。

 

 ちなみに、モチは晩飯に出してくれた。

 肉やロームたちが採ってきたキノコなんかを煮た汁物に、赤茶っぽい謎の塊をナイフで切って入れていた。それがモチらしい。モチモチして美味しかったよ。


 ウィリさんたちは貴人には違いないのだろうけど、かなり特殊なことはよくわかった。




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