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捨てられ王子と魔獣聖女 〜帰還道中記〜  作者: いわな
第一章 最初の臣下
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○【07・果てない旅のはじまり】○


「じゃあ、出発しますか?」

「ああ」


 朝食の片付けをして皆で馬車に乗り込み出発。

 ミーニャさんとデラとロームは馬車の中。俺とウィリさんは御者席だ。

 馬車の窓は全開。左右にある跳ね上げ式の窓を、紐で引っ張りひさしのようにして開ける。御者席の真後ろは中との仕切りのために板をひっかけていただけなので取り外した。これで馬車の中とのやりとりがしやすくなる。背後の扉は閉めているけど、外からのかんぬきは外した。

 ミーニャさんは馬車の中から御者台のへりに座っていて、デラとロームはそれぞれ荷箱を椅子がわりに腰掛け窓から外を見ている。


 少し日が高くなってきた森の中を、馬車はゆっくりと進んでいく。


「ウィリさん。森を出たらたぶん近くに村か町があると思いますが、寄りますか?」

 

 尋ねてみたら驚かれた。


「たぶん、とは? 道を知っているのではないのか?」

「いえ、この道は来たことないので勘です。いや、似た道をいくつか知ってるからそうかなと思った感じかな?」

「似た道?」

「この道、古くなってるけど轍の跡があるでしょ? 昨夜泊まった少しひらけた場所は木を切り出したり狩りをした後の作業場だと思います。近くに町か村があって、そこの人たちがたまに来てるんじゃないですかね」


 見た感じ、整備されてるわけでもないし本当にたまに来る程度かと思う。


「そうなのか。大型の獣が通る獣道かと思った」

「そんな大きな獣がいるなんて、聞いたことないです」


 馬車がゆったり通れるほどの獣道ってどんなだよ。どんな大きさの獣だ?


「では、昨夜通ってきた道は? あちらはこの道より細い道だったように思うが」

「ああ、それはたぶん、あっちは馬車で通ることがほとんどない道なんじゃないですかね。トートウ領へ向かう人が近道に使う程度とか。徒歩で大きな町に出かけるなら、この辺りからならトートウ領へ行った方が早いですからね。けれど馬車があれば山越えしてイーク領へ出るでしょう、そっちの方がいいものが多いし」


 トートウ領よりイーク領の方が景気がいい。

 ついでに言うと、辺境開拓領地には大きな町がない。村と呼ぶには大きめの集落がかろうじて町と呼ばれているような感じだ。辺境領主の住む町からしてそうだ。

 ただ、辺境の村人がそんな大きな町に買い出しに行くなんてそうはない。大変だからね。村の中にあるものだけで生活するのが基本だし、たまに来る行商人から何か買えればだいたいがなんとかなる。

 だから道はあっても行き来が少ないから雑草なんかに浸食されて細くなってわかりづらくなったりしている。と、いう事情も話した。


「ほう……道を見ただけでよくそれだけわかるな」

「いえ、さっきも言いましたが経験でそうかなって思っただけです。それに、来たことのない道を見たら、その道はどんな人が通って何のために作られたのかとか想像して遊ぶ癖があるんで。道を見るといろいろ考えてしまうんです」

「遊び?」


 なんか聞かれてばかりだな。

 変な話でもないから、まあいいか。


「長い道をただぼんやり移動してても退屈になるじゃないですか。だから色々と想像するんです。両親が行商を始めた頃、母親がやり始めたとかで、俺は子供の頃から一緒にやってましたよ。やってみると面白いですよ」

「……獲物が通る道を読んで罠を張る感覚か?」


 どうだろう。

 ちょっと違う気もするけど。


「確かに、考えを練って獲物を捕まえられたときは楽しかったな」


 と、うんうんとうなずくウィリさん。


「牛、獲ったときは大変だったけど楽しかったねー」


 とはミーニャさん。


「牛?」

「野生の牛だ。あれは苦労したが楽しかったし美味かった」

「ねー」


 ……どんな暮らしをしていたんだろ。

 綺麗な服着て、しれっと人に忠誠を誓わせる身分? の人が。

 まあ、貴族も狩りはするし。おかしくないけど。


「あの、ぼくも、森で木の実とか食べられるもの探すとき、どこに行ったらあるかなって考えてました」

「あたしも、谷の向こうに何があるのかなとか。未来のご主人様はどんな人かなとか、想像してました」


 ロームやデラまで話し始めた。

 まあ、先のことを考えるという意味では同じか?

 ともあれ、共通の話をしていたらなんか馬車の雰囲気が明るくなったな。もちろんそれは悪くない。


 せっかくだから、そうやってみんなで話をしつつ森を進む。

 そうして、そろそろ森を抜けるな、と思ったところで再度ウィリさんに聞いてみた。


「それで、村があったら寄りますか?」


 尋ねてみたら驚かれた。

 すっかり忘れちゃってたみたいだ。


「ほら、この道を少し行くと大きな道が見えるでしょ? あの道はイーク領に続いています。向こうに見える山の向こうがイーク領です。山越えをするには食料が心許ないので、補充したいなと思うのですが。どうします?」

「うむ、食料か。山間なら狩りや採集で賄えないかとも思うが……」


 野生的だな。

 やっぱり、今朝の鳥は二人で獲って来たものか。

 それはすごいと思うけど。


「いちいち狩りとかしていたら、それはそれで手間ですよ。確実に獲物がいるとも限らないですし。買って賄えるならその分、足を進められますし」

「なるほど。だが、買うなら金がいるだろう?」


 ……え?


「お金、持ってない、なんてことないですよね?」


 ちょっとだけ血の気が引いた。

 雇い主が実は文無しとか。

 それは流石に勘弁してほしい。


 俺が頬を引きつらせていると、ウィリさんはおもむろに馬車に入って自分の荷物を探り出した。

 そして、取り出したのは手のひらに収まるほどの金色に光る楕円の板。それをこちらに向けて言う。


「異国の金貨だ。小判という。これをロゼロット通貨に変えねばならんが、この辺りの村や町でできるものか?」

「……無理です」


 金貨と言うには変な形のそれは、繊細で美しい絵が浮き彫りされている。ネコかな? なぜか尻尾が二つある動物の絵だ。

 金貨としてより美術品とかの類になるんじゃないだろうか。


「珍しい形で絵も綺麗だし純金ならロゼロット金貨より高値がつくんじゃないですかね。両替商より換金屋に持ってく方がいいかもしれませんね。でも、そんな高額なものを買い取ってくれる換金屋は辺境領地にはありません」

「だろうな。つまり大きな町に行くまで実質、金はない」


 なるほど……。

 換金すれば相当になるんだろうけど、それはそれで色々と問題が出てくるぞ。


「ウィリさん。大きな町でもよほど信用できる換金屋じゃないとぼったくられたり盗まれる危険があります。そもそも、ウィリさんはまだ歳若いし俺らは子供ですから、まず侮られて足元見られると思います」


 ウィリさん、眉間にシワを寄せて押し黙った。


「ついでに言うと、これから向かうイーク領は治安が良いとは言えません」


 イーク領は山がちで、鉱山と林業が中心の領地だ。

 銀などが取れるから景気はいいけど、一獲千金を狙ってあっちこっちから食いっぱぐれた労働者が集まっていてガラが悪い。

 そんなところだから商売やってる連中も、あまりタチがよろしくない。

 ミーニャさんが見つかっちゃまずいし、ウィリさんだって危ないだろう。

 ただ、イーク領は南北への距離は短いので急いで通り抜ければそれほど日にちはかからない。

 最悪、俺の持ち金でパン程度なら買えるだろう。


 と言うことを、つらつらと説明したらウィリさんは頭を抱えちゃった。


「従者に金を出させるわけには、いかん」

「でしたら他のものを売ればどうですか? さっきの薬とか。異国の金貨ほどの値は付かなくても多少は旅費の足しになりますよ」

「あれは使うだろう。作るには材料集めが大変だしな……」


 薬を作れるんだ。


「ウィリさん、薬師なんですか?」

「いや。必要だから覚えただけだ」


 だけだって。

 底知れない人だなぁ


 金がないと聞いてちょっと危ぶんじまったけど、換金すればあるんだし。

 ここで契約を切って逃げたって、路頭に迷うだけだ。


 それに、なんだかこの人に興味が湧き出した。


「ラクナル領なら治安はいいですし、領都も遠くないです。とりあえずそこまでは野宿で乗り切って、それから考えますか?」

「そうしよう」


 ウィリさんは、俺の提案に笑って答えてくれた。


 そうして、道沿いにあった村には寄らずに先に進んだ。

 普通のパンはもう無いけど、保存用の堅焼きパンならある。まずいけど。


 なんとなく、この旅は楽しくなりそうな気がする。





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