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捨てられ王子と魔獣聖女 〜帰還道中記〜  作者: いわな
第一章 最初の臣下
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●【04・最初から苦難】●


 魔獣の森を出て、草原地帯で追いかけて来てくれたミーニャと合流。

 二人で草原を歩き、人の作った道へ出た。

 道は東西に延びている。

 わずかな木々が並ぶだけの荒れた道。


 四年前、この道を来た時は毒に蝕まれ朦朧としていた。

 その上、勝手に同乗して無意な説教をするやかましい弟と馬車を取り巻くたくさんの護衛のせいで周りをよく見る余地もなかった。


 なので、王都までの道は全く覚えていない。

 

 ただ、北に向かえば城のある王都に辿り着けるはず。とは知っていた。

 道なき道を突っ切っていくことも考えたが、どのぐらいでたどり着けるかもわからない。どうしたものかと、とりあえず道を歩いていたら背後から馬車が近づいて来た。


 四年ぶりに見た人の顔は醜悪だった。


 怪しげな笑みを浮かべ、ミーニャを見ていた御者席に座る髭の男と馬車に並走し馬に乗っていた強面。奴らがあからさまに悪巧みをしたのがその顔ですぐにわかった。なので、即座に馬車を奪う算段をした。だが、手綱を持っていた御者の少年が小さく首を振っているのもわかった。

 話しかけてきた悪党どもの話を聞くな、と言っているように感じた。


 悪党の仲間ではないのか?


 不思議に思いつつ、様子を見ようと悪党どもに言われるままに馬車に乗り込んだら、さらに小さな子供がいて驚いた。

 少年が話す、人買いの話や知らぬ間に増えた税の話などには頭が痛くなった。


 この国は、俺が思うより荒れているのか?


 頭を抱えて考え込んでいたら、別件でまたとんでもないことが起こってしまった。


 よくもまあ次々と。

 この世は悪党に事欠かないのか。


 本来なら役人に突き出すべきだろうが、言って聞くような相手ではなさそうだったし。さりとて優しい王様を目指す以上、最初の一歩目で皆殺しはまずいかもしれないと、ミーニャに要らぬ力を使わせてしまった。

 死なない程度の癒しだがな。

 悪党仲間が後で来たなら手当てくらいしてもらえるだろう。

 完治するまで死ぬほどの痛みが続くはずだ。まあ、それに懲りて悪行から手を引いてくれれば良いのだが。

 問題は逃げ出した最初の悪党二人だ。もともと脅迫的に口止めして放り出すだけのつもりだったが、そのまま逃げられたことが悔やまれる。


 ミーニャの姿を吹聴されたら面倒だ。


 更に、後から来た人買いどもには仲間がいて追いかけてくるかもしれないとのこと。

 

「馬車に乗って! 俺たちも逃げないとっ」


 少年はなぜか俺たちまで馬車に乗るよううながした。

 何を思ってそんなことを言うのか。

 俺やミーニャが狙われると知りつつ、共に逃げろと馬車にさそうか?

 裏があるのか危ぶんだが、追っ手が来るなら馬車で逃げる方が早いだろう。乗っているのは子供ばかり。なんとでもなる。

 そんな思いで、再び馬車に乗り込んだ。いつでも逃げ出せるよう御者台に、だがな。


 そうして、逃げ込んだ森の奥。

 戦闘のあった道からはずいぶん離れたことだろう。

 道のようで道でないような細い獣道を、よく馬車でここまで来れたものだ。

 これには素直に感心する。

 完全に日が沈み真っ暗になったのち、御者の少年はランプを灯して馬車を操り少し開けた場所に来た。追っ手は来ない。静かなものだ。


「ここなら、大丈夫かな」


 そう言って、少年は御者台から降りると馬車に積んであった水樽から水をバケツに移して馬にやった。馬は水を飲んで草を食む。


「すまねえな、今夜は馬車から外してやれねえ」


 そう言いながら馬をねぎらってやっている。

 それから俺たちに向き直った。


「ここで休むことになるけど、いいかな?」

「……ああ」

「じゃあ、馬車に入って休む? あんたたち二人くらい休めるよ」

「いや、外でいい」

「そっか。掛け布はいる? さっきのボロ布なんだけど」

「必要ない」

「そっか」


 言いながら、少年は馬車の後ろへ。

 俺もミーニャとともに御者台を降りてついて行き、その様子を見た。

 馬車の中で、子供二人は転がっている。くたびれて寝てしまったのか。少年は先ほど言ってた古布を子供らに掛け、ひとつを手に取り馬車から出てきた。

 そして、御者台に戻って横になり、すぐに寝息を立てはじめた。


 手慣れているな……


 俺はそっと後ろの扉から馬車に乗り、置きっぱなしにしていた背負い袋を持ち出した。

 すぐそばの木の下にそれを置く。

 それに寄りかかるようにミーニャを座らせ、その横に俺も座る。「ふあ~」と欠伸するミーニャ。


「疲れただろ。少し不安だが、休もう」

「うん……ここなら、だいじょうぶ……ふにぁ……」


 ずいぶん眠そうだ。

 頭を撫でてやると、ミーニャはすぐに眠ってしまった。


 ミーニャが大丈夫と言うなら、この辺りには危険な動物もいないということだろう。俺も少しほっとする。


 あの少年も、それがわかっていてここに馬車を止めたのか?


 まあ、俺も疲れた。

 目が冴えてしまって寝付けるか分からないが……


 明日からのことを考えても不安ばかり浮かびそうで、小さなため息がひとつ出た。



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