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捨てられ王子と魔獣聖女 〜帰還道中記〜  作者: いわな
第一章 最初の臣下
30/31

●【30・最初の臣下】●


『ウィリさんは、俺の一番幸せだった頃の思い出なんです。生きていてくれて本当にうれしいし、出会えたことに感謝してます』



 そんなことを言われるとは思わなかった。


 思い返すとまた頬や目頭が熱くなる。

 こんなことで泣くわけにはいかないと、軽く頭を振ってハッとした。

 しまったと思って隣を見れば、ミーニャはすっかり寝入っている。

  起こさずにすんでホッとしつつ、寝転んだまま天井に目をやった。


 改装して、元の姿からはすっかり変わってしまった馬車の中。

 ミーニャと並んで横になり、眠れないまま薄暗い空間を見つつ小さく吐息。


 ベイルの話はどれもこれも驚きだったが、俺が一番衝撃だったのはそれだった。


 俺は城では嫌われていた。

 毒を盛って殺そうとした者たちと、毒で弱り大人しくなったのを幸いに生かさず殺さず傀儡にしようとした者たち。後は関わるのを恐れて遠巻きにする者か。

 弟も敵対勢力に育てられたせいで俺を嫌っていたし、勝手に決められた婚約者は俺を傀儡にしようとした者の娘で信用できなかった。

 ごく幼い頃、教育係につけられていた数名は頼りになったが、いつの間にか遠ざけられていなくなっていた。

 教育係のうち亡き祖父である先代王の弟と王護騎士の騎士団長の息子は、言いがかりで役職は外されたが、理不尽に刑を下されたり僻地に飛ばされたりはしなかった。どちらも王都に住んでいるはずだから、彼らを頼れればと王都に向かっていた。


 この国で頼れる者など、その二人しかいないと思っていた。

 今もあてになるかは、わからないのに。


 目を閉じて、また息をつく。

 

 ベイルは、すごいな。


 知識は広く考えは深い。機転も聞く。相手の考えをよく察して動き、気質も優しい。

 俺の正体を察しながらもそれを口にしなかったのは、俺がはじめに言った「詮索するな」という言葉を忠実に守っていたからだった。


 まだ十四歳なのに。

 王族でも貴族でも、そこまでできる者などいない。

 

 母親が養母殿と同郷だからか?

 ベイルには魔力や妖力のようなものは感じないとミーニャが言っていたから、母親はネコマタなどの異界の魔物というわけではないようだ。だが、養母殿と同じ文字を使えるのだから同郷の者に習っていることだけは疑いようがない。

 母親が亡くなっているのは惜しいが、養母殿も交えて皆で話をしてみたいものだ。


 デラやロームも、初めこそ人買いの仲間だと怯えているようだったが、いつの間にかすっかりベイルに懐いていた。デラなどは尊敬しているようだとミーニャが言っていた。

 デラから市場に買い物に行った時の状況を聞いたそうだ。

 俺もミーニャに聞いて驚いた。

 

 元行商人の知識、旅の経験、異国の教育。

 それだけでなく、本人の資質も良いのだろう。


 それに、度胸もあるし豪胆だ。


 父親の仇を死地へやった件は気になるが……


 復讐は構わない。

 必要ならすればいい。俺もする。


 雇い人を裏切ったことを悔いている様子は本当のようで、この先はないとも誓った。


 俺を裏切ることはないと、信じていいと思う。


 また頭の中に、同じ言葉が巡る。

 生きて戻ったことを喜んでもらえた。それがたまらず嬉しいのだ。


 誕生月の祝いの日。

 俺は肌寒い露台に長くいるのが苦痛だったが、王子の勤めと町を眺めていた。民たちが浮かれ騒いでいるのは知っていたが、王子の生誕祭にかこつけて遊んでいるだけだと言う貴族どもの声を信じてしまっていた。


 投げやりになっていたな、あの頃は……


 しかし、あの祭りの中にベイルもいたのか。

 その両親と、本当に俺を祝ってくれていたのか。

 もしかしたら、民の中には同じ思いの者もいたかもしれない。


 そう思えば、国を守る意義が増える。

 ミーニャと養母殿、自分に良くしてくれた魔物たちのいる魔獣の森を守るだけでなく、この国を守ろうという意欲が出てくる。


 そのためにも、一刻も早く王位につけるよう王都に戻らねばと思う。

 が……


 ケイリス領の三人は放っておけないな。


 木の上ではあまり話せなかったが、今後のことはミーニャとベイルとよく話し合う必要があるな。

 話し合って、相談ができる。

 相談ができる……一人で思い悩むより、どれだけ気が楽になるか。


 そこまで考えて、あくびが出た。


 眠い。

 眠くなるのはいいことだ。


 今夜は寝よう。

 明日に、今後に備えて。


 俺は軽く息をつき、目を閉じた。

 

 とてもよく眠れた。




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