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捨てられ王子と魔獣聖女 〜帰還道中記〜  作者: いわな
第一章 最初の臣下
14/31

○【14・ラクナル領の町にて】○



 ラクナルの領都は他の大きな領都と比べれば地味で規模も小さいけれど、それなりに賑わっている。

 城門から続く大通りをゆっくり馬車を進めていると、隣のロームがワクワク顔であっちこっち見て顔を輝かせていて微笑ましい。馬車の中のミーニャさんとデラもそうだろう。チラッと見たらウィリさんも物珍しそうに視線を巡らせていた。


 ……あれ?

 よく考えたら『町』を知ってるの、俺だけ?

 なんだか不安になってきた。

 ちょっと注意はしておこう。


「ラクナルはイークに比べたら穏やかですが、悪い人がいないわけじゃないですよ。泥棒もいるし暴力的な人もいます。あまり油断しないでくださいね」

「……そうだな」


 言われて、ちょっと気まずそうにしたウィリさん。


「それで、どうする?」


 問われて少し考える。


「まずは換金屋で異国の金貨をロゼロットのお金に変えるんですよね。その後は市場で買い物はどうですか? 保存食も欲しいですし。ウィリさんは何か欲しいものはありますか?」

「そうだな……調理道具と食器とか調味料とか──」


 おお。

 それはまた野宿に楽しみが増えそうでいいね。

 

「あ、そうだ。今夜は宿をとりますか? 換金の金額次第でしょうが」

「それは、やはり換金後に考えるか」


 そんなやりとりをしているうちに、商店が並ぶ一角まで来た。

 御者台からざっと店を見渡し、とりあえずまっすぐ中央の広場まで行く。広場にはいくつもの馬車が止まっていた。

 馬車で移動している小金持ちなんかは、ここで馬車を待機させて商店を見て回り買い物をして歩く。

 ちなみに、大金持ちは商店に行かない。店の者に家や宿まで商品を持って来させて買い物をする。


「ウィリさん、ちょっとだけ手綱を握ってここにいて下さい」


 広場の一角に馬車を止めて、手綱を渡し御者台を降りた。


「ベイル?」

「店の情報を仕入れて来ます。そこにいてください」


 そう言い置いて、俺は主人の買い物待ちをしている上等な馬車の御者たちに話しかけて回った。五つ六つ話を聞いて、すぐに俺の馬車に戻る。


「お待たせしました。さっきの商店街に美術品を扱う店があるそうです。領都では老舗で目利きはいいとも聞きました。そこへ行ってみましょう」


 言いつつ御者台に登ると、ウィリさんがぽかんとしていた。

 俺はもう少し言葉を補足する。


「金持ちの馬車の御者は、主人が行く店を知ってるものです。行きつけなら信用できる店かどうかもわかりますし、店選びの情報収集には重宝するんです」


 ウィリさんもだけど、ロームも、馬車の中からこっちを見てるミーニャさんとデラも感心したように俺を見ていた。なんとなく照れ臭くて頭を搔く。


「あー……俺ん家の行商は美術品なんかはろくに扱ってなかったからその辺の店は疎くて」

「いや。良い店を知る方法を知っているだけで感心する」

「庶民の買い物なら市場を見て回るだけですけどね」

「市場か……──」


 ウィリさんは言いかけた言葉を止めた。

 もしかしたら市場へ行ってみたいと言いかけたのかもしれない。でもそうなるときっとミーニャさんも行きたがるから言葉を止めたんだろう。

 なら、その話はさっさと切り上げよう。


「じゃあ、換金屋へ行きましょう」

「馬車を止めて行くのか?」

「いえ、馬車ごと行きます。換金屋は通りの端にあるそうですし、目的の店はそこだけで、あちこち店を見ながらの散策が目的ではないので」

「うむ、では行こう」


 そんなわけで、返してもらった手綱を振って馬を歩かせはじめた。元来た大通りを戻って少し行ったところでひとつ道を曲がる。そこも広い道になっていて、中央通りより趣のある店が立ち並んでいた。

 その道の角にさっき聞いた換金屋があった。

 換金屋じゃなくて美術商だったな。美術品として買い取ってもらうつもりだし。

 とりあえず、店の端に馬車を止めた。


「ところでウィリさん。こういう交渉事ってしたことあります?」

「どうかな。子供の頃に幾度か駆け引きみたいなことはしたが……」


 なんだか遠い目になってため息までつくウィリさん。


「こればっかりは俺じゃできないんで」


 異国の金貨コバンの価値なんて俺にはわからない。正直、金の取引値だって知らない。ロゼロットの金貨一枚よりは上だろうとは思うけど、美術商とやりあって値切られても責任は持てない。

 ウィリさんに納得のいく金額で取引してもらうしかない。

 どうかな。

 と、ウィリさんを見やれば苦笑い。


「わかっている、やってみよう。少し準備する」


 そう言って、馬車に入って自分の荷物から異国の金貨を取り出し、そのひとつをきれいな紫のハンカチみたいな布に包んで懐に入れた。それだけでなく、筆と墨と紙を取り出し何やら書いてる。書き終えたものを乾かしつつ、ウィリさんがこっちを見た。


「ベイル。従者としてついて来てもらう事は可能か?」

「それぐらいなら、もちろん」


 そばに仕える者がいる方が多少なりとも箔が付く。

 俺なんかでもね。

 ひとつうなずくウィリさんの肩を、ミーニャさんがつんつん。


「ミーニャは?」

「馬車の中だ」


 子供らだけで馬車の番もなんだし、みんなで行くわけにもいかない。

 仕方ないけど留守番だな。


「むー……」

「大人しく待っててくれたなら、後でミーニャの好きなもの作ってやるぞ」

「プリン!」


 ぷりん?


「小判を換金したら砂糖と卵は買えるよな」

「そりゃ買えますよ」


 砂糖を使うってことは菓子か? 従者にもご褒美いただけるだろうか。

 いやいや、意地汚い想像は置いておいて。


 ウィリさんは書いた紙をたたみ封筒へ。しっかりのりで封をし、その上に何か記号のようなものを書いた。それもまた、乾くのを待って懐へ。


「では、行くか」


 ウィリさんが馬車から降りたので、俺はデラとロームに向き直る。


「デラ、ローム。二人は御者台にいて馬車と馬の見張りをしていてくれ。絶対に馬車から降りるな。誰か来ても無視しろ」

「「は、はいっ」」

「ミーニャもだぞ」


 ミーニャさんに釘を刺したのはウィリさん。ミーニャさんは「はーい」と答えた。

 俺もウィリさんに続いて御者台から降りると、変わってデラとロームがそこに座る。ミーニャさんは馬車の中から手を振っていた。

 まあ、しばらくなら三人でも大丈夫だろう。

 この馬車にはミーニャさんの守りの術とかが込められているらしいし。俺たちがもらった、あの護符を持たない者は触れることもできないとか。よくわからないけど触ろうとするとビビッと痺れるのだとか。

 ちなみに、馬は首に護符を下げている。

 そもそもこの辺りは高級品を扱っている店が並んでいるから治安は悪くないはずだ。あまり心配してても仕方ない。


「行こう」

「はい」


コバンが高値になるといいな。


次は29日の投稿です。


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