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捨てられ王子と魔獣聖女 〜帰還道中記〜  作者: いわな
第一章 最初の臣下
13/31

○【13・長い頭巾】○


○【13・長い頭巾】○



 イーク領とラクナル領の間にも峠はあったけど、新しい馬車のおかげでずいぶん楽に山越えできた。

 道の悪さも気にならない、苦にはならない。

 快適な馬車だ。


 そんな、揺れの少ない快適な馬車の中から外の景色を見ているミーニャさんとデラとローム。なんだか楽しそうだ。

 ウィリさんは御者台で俺の隣に座っていて、時々中の様子を見てほっこりしてる。


「ウィリさん、昼過ぎにはラクナルの領都に着きます。あそこなら異国の金貨を取引してくれる店もありますよ」

「そうか」


 ちょっとほっとした様子のウィリさん。

 手持ちの使える金があるのとないのとじゃかなり違うしな。


「町!? 大きな町? ミーニャ、町を見るの初めて!」


 はしゃぐミーニャさん。

 そうなんだ。


「ミーニャは町を出るまで馬車から出ないこと。窓も開けない」

「えーっ」

「白い髪を見られたら、悪党に目をつけられる。わかっているだろ?」

「むーっ」


 そりゃ、もともとミーニャさんを隠しつつ旅をするために馬車を雇ったわけだしな。でも──


「でも、ウィリさん。この先もずっと、馬車の中というわけらもいかないんじゃないですか? 雨の日は宿に泊まる方がいいし、店で食事をすることもあるかもだし、そんな時は馬車から出ないわけにはいかないでしょ?」


 宿に泊まろうと思えば、どうしても宿の人間とは顔を合わせるからな。

 まさか、この先もずっとずっと野宿というのはないと思いたい。あんまり続くとけっこうつらいんだよな。

 ウィリさんたちはそう思わないのかな。だったら俺は従うだけだけど。


「そうだな……」

 

 ウィリさんが考え込んでる。

 俺は馬車の中にいるデラに目をやった。

 デラは傷の手当てをしてもらってきれいな包帯を巻いてはいるが、やはり今も頭が布をかぶっている。前ほど傷をひた隠しにしているわけではないけど。

 あんな感じで頭から布をかぶせるのはどうだろう、と思ったけど。馬車にあるのは小汚い古布ばかりなんだよな。きれいな服を着たミーニャさんにかぶせるなんてできない。したらしたで逆に怪しい。

 俺がデラを見ているのを、ウィリさんが気がついた。


「養母殿が持たせてくれた荷物に、何かなかったか」


 ウィリさんがそう呟いたら、ミーニャさんはサッと大きな荷袋を開けて中を見た。


「ウィリ、反物がある。これで長頭巾作る」


 何を作るって?

 振り向いて俺も馬車の中を見たら、ミーニャさんが大きな背負い袋から何やら取り出した。

 その手に持っているのは真っ白な布を筒のように巻いたもの。おそらくミーニャさんが着ている服と同じ生地だろう。


「長頭巾か。それはそれで目立つと思うが……髪をそのまま晒すよりましだろう」

「わーい」


 うれしそうに裁縫箱も取り出して、早速巻いてある布を広げだす。

 その布は、真っ白なのに光の加減で銀色に光る。きれいな上、柔く肌触りも良さそうでそれでいて丈夫そうにも見える。本当に良い布だ。

 行商をしていた頃、取り扱っていたものの中に布もあったけど、これほどの上物は見たことない。デラも綺麗な布に興味があるのか、目を輝かせて見ていた。

 俺たちが見惚れる中、ミーニャさんは自分の髪を手前に持ってきて人差し指と親指を使って長さを測り出した。同じことを広げた布の上でも繰り返し、おもむろにザックザックと布を切る。そして、ある程度切り分けると、今度は猛然と縫いはじめた。

 その手つきの早いこと早いこと。

 すごい。

 鳥や獣や魚を鷲掴みで獲ってくる姿からは想像できないほど器用だ。

 デラも食い入るようにその手つきを見ている。裁縫に興味があるのか?


 俺としてはそればかり見ていられないので前を見て馬と道の様子を伺う。


 ラクナルに入ってしばらく行くと、道が街道らしく広く比較的行き来しやすい道になってきた。他の馬車とすれ違うこともあるし、歩いている人もちらほらと見る。そのあたりになると、引き窓を半分ほど閉めて明かりとり程度にし、すれ違う馬車などから覗かれないよう気を付けた。


 そうして、遠目に領都が見え始めた頃。


「できたーっ!」


 と言う賑やかな声が聞こえた。


「ウィリ、これでどう?」


 馬車の中を見れば、ミーニャさんは変な被り物を頭からかぶっていた。あのきれいな白い布地でできた、てっぺんが屋根のような三角になっている長い被り物。

 ウィリさんが「ぷっ」と吹き出し笑いをした。


「藁頭巾みたいだな。それは布でできているが。冬になると養母殿がミーニャにかぶせて“雪ん子ごっこ”とか言っていたのを思い出す」

「うん! それの長いの。髪が隠れるでしょ?」


 ミーニャさんは被り物をつけたまま、くるりと回った。

 真っ白い長い髪が、真っ白い布に隠れて目立たない。


「それでいい。それによく似合っている、ミーニャ」


 褒められて、ミーニャさんは嬉しそうにへにゃっと笑った。

 あの格好で大人しく立っていれば、異国のお姫様がお忍びで来ていると言っても誰もが納得しそうだな。


「じゃあ、町に行ったら馬車から出ていい?」

「すぐにはダメだ。町の様子を見てから決める。換金所があるような場所なら金狙いの悪党もいるかもしれない」

「ええ……」


 俺も用心に越したことはないとは思う。

 髪を隠していても美少女は狙われやすいんだよ。


「ミーニャ。ここならばと思える場所で一緒に向かえるなら、その時は連れて行く。そうでない時は我慢してくれ」

「むー……」

「ミーニャ」

「わかった。窓から外を見るのはいい?」

「ああ。しかし目立たないようにな」

「うん」


 ちょっとかわいそうだけど仕方ない。

 森の中では自由に走り回ってただけに。

 人間は簡単に狩れないからな。


 それより、ちょっと気になったのはデラの様子だった。

 あまりにキラキラした目でミーニャさんを見てるから。

 女の子が綺麗な服とか姿に憧れるのは普通といえば普通だけどな。


 自分も欲しいなんて思ってなきゃいいんだけど。

 まあ、俺が気にしてても仕方ないか。


 さて。

 領都の近くまで来たら道を行く人が増えだした。手綱を握り直して馬の様子にも気をつけつつ操縦しないとな。


 街道も道幅が広くなり整備されたものになって来た。


「わぁ、大きな壁」


 ミーニャさんが御者席裏の窓からそっと顔を出して前に見える城壁を見て言った。


「確か、南方中位四領地の領都はどこも四角い城壁に囲まれて四方に道が伸びている、だったか……」


 ウィリさんが、思い出すようにポツリと言った。


「そうです。トートウ領、イーク領、マルエイン領、それとここラクナル領。大きさは差がありますが、そんな感じですね。ちなみに、一番大きいのはマルエイン領で小さいのがトートウ領です」

「ああ、マルエインは二つの傍位領地を繋いでいる領地だからな」

「ウィリさん、マルエインに行ったことがあるんですか?」

「マルエインとトートウは行ったことがある。いや、通ったことがあると言った程度か。ラクナルとイークは知識だけだ」


 何気に聞いたら答えてくれた。

 ついでだから聞いておこう。


「王都に行くなら、ラクナルからマルエインを通って傍位領地のペララーナを抜けるのが一番安全で道もいいです。その道順で行きますか?」

「いや……できればペララーナは通りたくない。東の小位領地帯を抜けていけないか?」

「もちろん行けますよ。ただ、遠回りになるし道も良くないところもあります。時間がかかると思いますがいいですか?」

「……ふむ。少し考える」

「はい」


 俺は頭の中で行く道々を思い浮かべる。


 この国、ロゼロット王国の王都ロゼントは国の真ん中より少し北側にある。

 王都を中心に国王の直轄王位領地があり、その真南に傍位領地ペララーナ領がある。そこから更に南にマルエイン、ラクナル、トートウ、イーク、と言った四つの中位領地があって、それをまとめて南方中位四領地と呼ばれている。


 ついでに言えば。


 王位領地の真北に傍位領地クランス領があり、南西の端に傍位領地ブランシュレ領がある。

 ブランシュレは南側の他国との唯一の窓口になっていて交易で栄えている領地で、最北のクランスもまた港があって交易や漁業なんかが盛んだ。そしてペララーナ領はロゼロット王国のほぼ真ん中にあり、貴族や富豪が多くいて芸術面の発展がすごい土地だ。

 その三つの傍位領地は、もともと初代王家の分家で王族に跡継ぎが途絶えた場合その中から養子をもらって跡継ぎにするためにある。だったか?

 行商してた頃、旅の道々で聞いた知識だから王族云々の知識はテキトーだ。


 で。


 北のクランス領、直轄王位領、ペララーナ領の三つを挟む形で西と東に広大な公位領地がある。

 西がモレッド領。東がベールンス領。

 この二つの領地はでかい。とにかくでかい。傍位領地二つに王位直轄領も足した大きさと、とんとんなくらいでかい。農地も多くて人口も多い。それは、西と東にある敵対国を牽制する役目を持っているためだと聞いたことがある。あと、なんでだか直系王族の次に偉いらしい。傍系王族は公位領主より下なんだってさ。


 旅をするにはどっちもいい感じの土地なんだけどね。


 そんな公位領地の南側に、くっつくように大位領地がある。西にも東にもね。『大』なんてついてるけど大きさは傍位領地と同じくらいかな。


 それで、その中央と東西に並ぶ大きい領地に挟まれる形で小位領地と比較的小さめの中位領地が並んでいる場所があり小領地帯と呼ばれてる。中位領地の人は中小領地帯と呼んでるけどね。中位領地で小領地帯って言ったら「うちは小じゃない」って一般庶民でも怒るし。

 ちなみに、南方中位四領地の東南にも小領地帯があって、そっちはほとんど行ったことない。


 それにしても……ペララーナを通らず西の小位領地帯を通る、か。

 まあ、どの経路を言われてもどこへでも連れて行くのが御者の勤めだ。


 色々と考えていたけど、もう目の前に城門が見えてきたので考えを中断。

 領都ともなれば門に門兵がいて出入りの者を見張っている。ので、少し気を引き締める。


「領都に入ります。ラクナル領都の検問は厳しくはないですが、静かにしている方が無難です。ミーニャさんはできれば馬車の奥へ。ロームは御者台に来た方がいいかな」

「子供がいる方が怪しまれないということか?」

「そうです」


 別に悪いことをしているわけではないけど、子供がいれば兵士の目が甘くなる。隠したいのはミーニャさんの白い髪だけだし。


「俺は?」

「ウィリさんも今回は御者台でいいですよ。旅の馬車に帯剣者がいるのは普通ですし、身なりが良い旅人はあまり警戒されないのでむしろ堂々としている方が印象がいいです」

「なるほど」


 ウィリさんは真面目な顔で納得した。


「ウィリ、窓からちょっとだけ外見ていい?」

「目立たないようにならな」

「わかった。デラ、いっしょに見よ」

「はい」


 そんなわけで、御者台に俺を挟んでウィリさんとロームが座った。ミーニャさんとデラは馬車の窓の隙間から、そっと外を見てるようだ。



 領都の門の近くまで来ると、見張りの兵士たちが立っているのが見える。

 特に声をかけられることもなく。石造りの大きな門の中を、馬車はゆっくりと進んだ。

 


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