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捨てられ王子と魔獣聖女 〜帰還道中記〜  作者: いわな
第一章 最初の臣下
11/31

●【11・欲しいもの】●


 ベイルたちが切り出した材木を運んでいる隙の出来事。

 二人きりになった時、ミーニャが言った。


「ひみつにしなくていいと思う」


 首を傾げ、ミーニャを見た。

 ミーニャは材木に残る木の皮をナイフで削り取りつつ俺を見た。


「馬車、妖術でかいそうするから、言わないと変」

「そうだな。妖術については話すべきか」


 用心しつつ、言えることはどこまでかと考えていたらミーニャが小さく首を振った。


「ウィリは、本当はお話をしたいでしょ?」

「話してるが?」


 ミーニャも首を傾げ、俺も傾げる。


「おじちゃんと話せるようになった時、みたいに」


 思わず口を閉じて息を詰めた。

 ミーニャの言う『おじちゃん』とは、魔獣の森の元主ラウドロームクヴァルト殿。黒い毛並みの巨大なネコ型魔獣。あの森で唯一俺と会話ができた魔獣で、良き相談相手だった。


 相談、か……


「ミーニャももっとかしこくなる。でも、すぐはむり」


 ショボンとしてしまったミーニャ。

 俺は作業の手を止めミーニャに近づく。そして、頭をそっと撫でた。


「ありがとう。ミーニャは十分、俺の相談相手になってくれている。ただ、これからの道行(みちゆき)に関しては、俺も含めて知識が足りないだけだ」

「ベイルは知ってる」

「そうだな……」


 だが、ベイルは知恵が回りすぎる。

 まだ子供とはいえ、一人の身でもどこへでも行けるだけの知識と足も持っている。

 全てを知ったベイルに裏切られたらどうなるか──


「信じるの、こわい?」


 ミーニャに言われて、苦笑する。

 

 裏切られ続けた十三年。

 最後の最後に護衛に剣を振り上げられた瞬間は、目に焼き付いて離れない。


 よく考えたら、俺の人生で信じられたのはミーニャと養母殿とラウドロームクヴァルト殿だけだった。


 はぁ……と息をついたら、今度はミーニャに頭を撫でられた。

 やすらぐ。

 聖女の癒しではなく、ミーニャの優しさにだ。


「どうすれば、信用できるようになると思う?」

「んー……おいしいごはんでてなずける」


 餌付けか。

 下位の魔獣にはよくやった。

 だが、さすがにそれは無理だろう。

 相手は知恵の回る人間だ。


 そうこうしているうちにベイルたちが戻って来たので、俺はまた作業に専念する。


 考えがまとまらないうちに日が暮れ、適当な食事で夕食も済ませた。


 その後も、何かしている方が考えがまとまるかと、木組みにする木材に穴を開けたり削ったりと作業をしていたら、ミーニャが護符を作ったと見せてくれた。

 養母殿が似たもので森に結界を張ったり、家に魔物や動物が入り込まないようにしていたのを思い出す。

 書かれている文字を見て用途がわかる。異国の文字なのでさすがのベイルも意味はわからないだろう。文字であることすら気がつかないのではないか。


 手に持った護符を検分すれば、持ち主を守るだけでなく範囲結界用の物もある。 

 これは、本当に助かる。


 ミーニャを見れば笑っていた。

 寝不足でかなり心配させていたからな。


 護符造りにはあまり労力は要らなかったと言われたが、維持するには定期的に妖術を施さねばならない。


 ミーニャの負担を少しでも減らすために、真剣にベイルを取り込み忠実な臣下に育てる方法を考えるべきか。


 うむ。


 その夜。

 物は試しと、俺は魔術や妖術について話してみた。

 

 初代ロゼロット王の物語は皆が知っていた。

 魔獣についてはデラも知っていて、ベイルは知識だけで知っていた。それこそ、魔獣の森の主のことまで。


 しかも、その話の流れとこれまでの状況から、俺たちが魔獣の森から来たことまで言い当てた。そして、おそらく妖術士と聖女の力についても何か察しているように見えた。

 デラに視線をやったからな。

 しかし、それは口にしなかった。

 賢明だ。

 もしミーニャが本物の聖女だと知れば、デラはすぐさま傷を治してほしいと願うだろう。

 せっかく薬で、時間をかけて治すことに承知してくれているのに余計な軋轢や揉め事を起こされたくない。

 ベイルもそう思って口をつぐんでくれたならいいが……


 そうだな。

 やはり積極的に取り込むべく働きかけるか。

 ただの雇い主と雇い人ではなく、王と忠臣になれるよう。



 信じられる者が欲しい。




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