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第六話 災難は油断した頃にやってくる

2025/05/22 内容編集しております。

 ボウガンを手に入れた次の日。谷中はダンジョン二層目にやってきた。ダンジョンの二層目も石畳と石造りの壁と天井で出来ているが、石材の色が若干暗くなっている。


「ようやく豚野郎にリベンジする日がやってきたぜ」


 冤罪で刑務所に入れられ、わずかに期待していた御手洗からのフォローは無く、単調な一層目をグルグル回るだけの日々に思ったよりもストレスを感じていたらしい谷中。新しい武器と新しい階層に思ったよりもワクワクしているようで、ボウガンを構える顔が若干にやけてしまっている。


「前回は、この辺でイノシシ野郎が突進してきたんだよな……」


 慎重に通路の先の気配をさぐりながら、足を進めていく。二つほど角を曲がったところで、前方に角と牙が生えている巨大なイノシシの姿を見付けた。イノシシは谷中に背中を向けており、まだこちらに気がついていないようだった。


「前回は、木刀で殴ろうとして近寄ったら気がつかれたんだよな」


 谷中が手に入れたボウガンは小型の物で、ピストルの様な引き金を引けば矢が飛んでいく仕組みになっている。コッキングは手動でやらなければならず、連射はできない。

 ロッカーにボウガンと一緒に入っていた説明書によれば、飛距離は十五~二十メートルということだった。ここからでも十分に届く距離だ。

 谷中は安全装置を外してコッキングレバーを倒し、弦を掛けると矢をセットした。


「くたばれ! 豚野郎!」


 かけ声とともに引き金を引けば、シュッという音と同時に矢が飛びだしていき、イノシシの臀部にぶすっと付き刺さった。


「ッシ!」


 小さくガッツポーズをする谷中だが、その余裕は一瞬で消え去る。

 攻撃された大イノシシが振り向き、谷中に向かって突進してきたのだ。


「一撃必殺とは行かねぇのかよ!」


 叫びながらきびすを返し、元来た道をダッシュで戻る谷中。糺はボウガン一撃でモンスターを倒していたので、自分も一撃で行けると思っていたのだ。


「何だよ、ダンジョン産と地球産の違いなのか? それとも、でけぇコウモリとでけぇイノシシじゃHPが違うってことかよ!」


 走りながらコッキングレバーを引き、矢をつがえる。チラリと後ろに視線をやればイノシシはすぐそこまで迫ってきていた。


「くっそ。せめて怯めぇ!」


 振り向きざまに、ボウガンをイノシシに向け、引き金を引いた。すぐそこまで迫っていたイノシシは距離が近すぎるため、狙いを定めるまでもなく視界全部が的という状態で外しようが無い。

 そう思って当てずっぽうに撃った矢ではあったが、運が良いのか矢は眉間に深々と刺さった。

 イノシシは惰性でまっすぐに走って行ったが、谷中は横道に飛び込むようにして曲がることでそれを避けることができた。

 恐る恐るイノシシの行った方をのぞき込めば、ドシンと大きな音を立ててイノシシが倒れる所だった。


「……やったのか?」


 ボウガンに矢をセットし、イノシシに狙いを定めたまま近づいてく。ピクリとも動かないイノシシをつま先で軽く蹴り、反応が無いのをみて今度はおもいきり強く蹴りつけた。


「はは……。ははは。一週間も遠回りさせやがって! この豚野郎が!」


 もう一度蹴ると、巨大な猪の体はサラサラと砂の城が崩れるみたいに壊れていき、やがて金属片だけがその場に残された。

 それは、スライムや巨大コウモリから出てくる鉄くずみたいな金属片ではなく、銀色にピカピカ光る少し大きめの金属片だった。


 ◇


 ボウガンを手に入れてからの谷中は順調だった。

 一発目で振り向かせ、二発目で眉間か喉元を狙えば倒せるとわかってからは、谷中の快進撃が続いた。

 一層目をグルグル回っていた最初の一週間で三分ほどしか減刑できなかったのに対して、ボウガンを手に入れて二層目を探索できるようになってからは一週間で二十分も減刑できたのだ。


「調子が良さそうじゃ無いか」


 そんな風に回収係から声を掛けられる程度に攻略スピードが上がっていた。


「やっぱ飛び道具だな。魔物に近寄らねぇで済むから怪我する頻度が下がったのがでけぇ」


 ダンジョン刑務所では、地上まで戻ってくれば刑務所の医務室で治療を受けることが出来るが、ダンジョン内で応急処置をする為の救急セットは自腹で購入しなければならない。

 怪我が増え、救急セットの購入が頻繁であれば減刑は進まないし、武器購入に回す余裕もなくなってしまうのだ。怪我をしないというだけでかなりの余裕を持つことができる。


「だからといってあんまり調子に乗るなよ。飛び道具は弾の切れ目が命の切れ目だ」

「抜かりネェよ。金属片と一緒に矢も回収してるし、今の攻略内容なら矢を買う余裕もあるからな」


 回収した矢も、数回使えば曲がってしまったり折れてしまったりで使えなくなってしまう消耗品だ。しかし、大イノシシ一頭を倒したときに得られる金属片一個でボウガンの矢が十本ほど買えるので、今の谷中には余裕があった。

 しかし、その余裕がいけなかった。

 回収係に大口を叩いた翌日、三階層まで降りた谷中は大イノシシの群れと遭遇してしまったのだ。


「くっそ、倒しても倒しても後ろから豚野郎が沸いてきやがる! 矢を回収できねぇじゃねぇか!」


 逃げては振り返ってボウガンを撃ち、ボウガンを撃っては逃げるという行動を繰り返し、二階層への階段まで這々の体でたどり着いた。


「クソックソックソッ」


 イラつきが収まらない谷中は、階段に座り込むと悪態をつきながら自分の太ももを拳で殴りつけた。


「かなりの数倒せたのに、矢も成果も回収できねぇ! あと残り三体ぐらいだったのに!」


 撃ちながら逃げてきたので、当然倒したイノシシは捨て置いて来たし矢も金属片も置きっぱなしになっている。さらに、二階層への階段へ飛び込むのが一杯一杯で、ボウガンの矢も尽きてしまった。


「あと十本ぐらい矢があれば、全部倒しきれたのに……」


 がっくりと肩をおとした谷中は、しばらくそのまま座り込んでしまっていた。ボウガンがあればドンドン先に進めるし、どんな敵も倒せると思い上がっていた。

 ロッカーに置いてきた木刀があれば、近づいてきたイノシシを牽制するのには木刀を使い、距離を取ってから狙いを定めてボウガンを撃つということも出来たのだと、今になればわかる。そうすれば無駄撃ちしなくてすんだので、残り三体ぐらい倒して成果も矢も回収することが出来たかもしれない。


「弾の切れ目が命の切れ目、か」


 回収係の言葉が頭をよぎる。

 今回は、二階層へ続く階段へと逃げ込むことが出来た。しかし、弾切れを起こした状態で安全地帯への動線が確保できなければ死ぬところだったのだ。


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