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プロローグ.2 踊るように軽やかに

「足音が響くように、軽やかにまず一歩!」


 イヤホンからの指示と同時に、谷中は膝を高く上げ、利き足を一歩前へ踏み出す。かかとから着地するように足を下ろせば、カツーンと小気味よい足音が部屋に広がっていく。


「右前二時の方向に普通に三歩、そこで袈裟斬り!」


 声の通り、谷中は右前方斜めに進むと、真っ暗な空間へと向かって剣を振り下ろす。グチュッとした嫌な手応えがあり、そのまま振りきればスカッと手応えが消える。剣がモンスターの体を抜けた事が分かる。


「そのまま軽やかに、振り向くように剣を切り上げる!」


 袈裟斬りの勢いを殺さないように、左足を軸に右足を後方へと踏み出して剣を上へと振り上げる。手応え無し。


「空振りだ!」

「もう一度タップ!」


 谷中は素早くその場でスキップ。カツンカツーンと靴音が鳴る。


「振り向かず剣を真後ろに刺せ!」


 谷中は自分の脇腹横を掠るように剣を後ろに思い切り引き下げる。頭のすぐ後ろから絞り出すような叫び声が聞こえてきた。


「そのまま剣を振り切って真っ二つにしちゃえ! 残り二体! 前方から固まってくるよ!」

「簡単に……言ってくれるぜっ」


 真後ろに向けて突き出した剣を、その体勢のまま剣を振り戻すのは単純な筋力勝負である。谷中の右腕の筋肉がグッと膨れる。


「だあぁりゃあああ」


 気合いを込めて振り抜くと、後ろのモンスターがドサドサっと二つに分かれて床に落ちた音が聞こえてきた。


「後は前! 二体同時に作戦もなく向かってきてるから、豪腕爆殺剣(ストロングバーニング)で一撃だ!」


 谷中はグッと剣を腰だめに構え、そのまま力強く足を前に踏み出して剣を振るう。


「だから、そんな技名じゃねぇっつってんだろ!!!」


 叫び声と共に振り抜かれた剣は、暗闇のなかで確かに何かを切りつけた手応えだけを返してきた。

 イヤホンからの音声も静まり、暗闇の中にハァハァと谷中の息づかいだけが響く。


「……」

「……」

「……うん。生体反応無し、ソナーも谷中っちの色っぽい息づかい以外は沈黙。撃破撃破。おつかれおつかれ」


 イヤホンから、ねぎらいの声が優しく響く。


「おまえもな」


 谷中も、イヤホン越しの相手に向かって労いの言葉を返す。

 口調は軽いが、靴音からの音響測深で即座に敵の位置を割り出し、それを倒すための指示を的確に出すというのは並大抵の事では無い。その集中力と判断力の高さには谷中も一目置いているのだ。

 息が整ってきたところで、谷中はモンスターの死体からこぼれた金属片を討伐の証拠として拾い、隠し部屋から外に出た。

 薄暗いと思っていた洞窟内も、真っ暗闇から出てきてみればまぶしく感じるのだという知見を谷中は得たのだった。


「隠し部屋も見付けたし、敵さんを四体も討伐したし、今日はなかなか良い感じっすね?」

「それでも、元の刑期の長さを考えれば焼け石に水だけどな」


 イヤホン越しに軽口を交しつつ、谷中は手元のメモパッドに座標を入力しておく。


「まぁまぁ、雨だれ石をうがつ。千里の道も一歩から」

「俺はウォーターカッターで石に穴開けてぇし、新幹線乗って楽に移動してぇよ」


 倒したモンスターから出てきた金属片の大きさを確認して、谷中は腰の皮ポーチへとそれを放り込んだ。


「あと、この金属片は折りたたみランタンを買うのに使う」

「えぇー! なんでぇー? ソナー戦闘上手くいったじゃんか! ツーカーだったでしょう? アタイより文明の利器を選ぶって言うのぉ!」


 谷中の「ランタンを買う」というセリフから、先ほどの暗闇での戦闘を否定されたと思ったのか、茶化すような言葉を使いながら批難してきた。


「声の通りに動くとかめんどくせぇんだよ! 集中力いるから頭いてぇし! 部屋の中明るくして戦った方が楽だろうが!」


 谷中は叫びつつ、チラリと腕時計で時間を確認する。時計は、午後の三時ちょっと前の時間を示していた。


「まだ進めるな」

「余裕のよっちゃん。そろそろ、先頭攻略組に追いつくのも夢じゃ無いかもよ?」

「新規階層一番乗りは刑期削減年数もでかいからな。積極的にやっていこう」


 イヤホンからの声に頷き、ふたたび洞窟の奥を目指して歩き出す谷中。


「だけど、無茶は禁物っすよ! 死んだら終わりなんだからね!」

「うるせぇ。刑期三百年越えなんて、多少無理でもしなきゃ生きてここを出られないだろうが」


 バサバサっと天井付近から襲いかかってきた巨大コウモリを、谷中は軽口を叩きながらバサリと切り伏せる。


「俺は絶対に生きているウチにここをでるんだ! そのためには多少の無茶ぐらいするさ!」


 (そう。アイツが生きているウチに出なけりゃ復讐もできねぇぜ……)


 洞窟の奥、暗がりになっている方向を谷中はにらみつける。ぼんやりと、憎い相手の顔が浮かんでみえた。


(大丈夫だ、何も心配することないからな。ちゃあんと、保釈金積んで出してやる、安心してお勤め果たしてこい。な?)


 にやけたオッサンの顔が気持ち悪い猫なで声と共によみがえってきた。ぞくぞくと背筋を這い上る寒気を感じ、身震いをして腕をさすった。


「谷中っち?」

「なんでもない。先に進もうぜ」


 カツンカツンとかかとを鳴らしながら、谷中は洞窟の奥へと進んでいった。


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