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終章 定め来る運命

もうすぐ冬休みが始まる。この間まで暑かったというのに急に寒くなって来る。これも多分地球温暖化のせいだ。

「うぅ〜寒いよ〜」

双葉は手に持っているカイロをシャカシャカしている。作者は未だにあのシャカシャカが効果あるのかわかっていない。カイロを使うと負けた気分になるので使ったことが無いのだ。

「全く…人間がもっと地球温暖化を進めてくれればな…」

「…うん…?」

寒そうにする双葉、綾野、新羅。しかし、寒そうにしていない人間がいた。

「お前らは本当に寒さに弱いのだな」

澄まし顔で言う嬢子。

「嬢子ちゃんは寒いの平気なの?」

「勿論、平気なのだ」

「…足…」

嬢子の足を見ると、盥にお湯を入れてその中に足を入れていたのだ。

「ズルいぞ、私も入れろ」

「悪いな綾太、これは一人用なんだ」

「…ス◯夫…」

「私も入りたーい!」

四人で話していると、

「お前ら、夏にも同じようなこと話してなかったか?」

何食わぬ顔で亮真が来る。

「亮真、お前は寒くないのか?」

よく見てみると、鳥肌が立っていたり寒そうな素振りを一切見せていない。

「んー…普通だけどな…」

ガラガラガラ

ペッ

「うがいすな」



それは、突然だった。

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

サイレンが鳴る。

「頭伏せろー」

気怠そうに亮真が言う。皆は姿勢を低くし、静かにしている。

「どこに出たのかな?」

「…まだ、情報ない…」

皆がただの怪物だと思っていた。五人はスマホを使って色々と調べていた。すると、

ウゥッ!ウゥッ!

突然大音量でスマホが鳴る。

「ひゃっ!」

双葉は驚いてスマホを落としてしまった。

『危険です、危険です。今すぐ離れて下さい』

スマホから鳴る音声。

「この警報音は…」

亮真は窓の外を見る。怪物の姿は見えない。

「高遠亮真、スマホをよく見てみろ」

亮真はスマホを見る。そこには方角と…

「…超危険怪物…」

亮真は教室を飛び出し、廊下側の窓から外を見る。

「アレは…!」

「亮真!今はまだ…」

「高遠亮真…」

「ねぇ…あれ何…?」

「…ヤバそうだ…」

四人は亮真を見る。

「…あぁ、勿論俺は行く」

どうやら、覚悟が決まったらしい。

「仕方ない、私もついていく」

「私も、ビリビリさせちゃうよ!」

「一緒に戦おう、高遠亮真」

「…行く…」

四人も、覚悟が決まったらしい。

「…行こう」

五人は、階段を駆け下り、外へ向かった。


「おーい!亮真ー!」

外に出ると、目の前には3台の車が停めてあった。

「お義父さん…!」

「乗れ、連れてってやる」

源郎がドアを開けると、そこには、

「兄さん!僕も行くよ!」

勝彦が後部座席に座っていた。

「ありがとう」

亮真がお礼を言うと、

「親友!俺もついているぞ!」

「…私もです」

二つの車からそれぞれ礼二、紫雪が出てきた。

「さぁ皆!私の車に乗るんだ!」

四人は、全員紫雪の車に乗った。

「あの人…五月蝿そう…」

「多分耳壊れるだろうな」

「なんか…ね…」

「…嫌…」

「皆!遠慮しなくても良いんだよ!?」

「「「「遠慮します」」」」

礼二は四人から振られた。


"マダー"過去にとある街を滅ぼし、何処かへ消え去ったあの神。例え神でも、危害を加えるつもりなら容赦なく止める。

車が止まる。

「ここが、目的地周辺だ」

薄暗い雲の中、街は忽然としている。自分達以外、誰もいない世界にいる気分だった。

「この先を曲がった奥に、奴がいる」

皆に緊張が走る。

「…行こう」

亮真は歩み始め、皆がそれについて行った。



「…」

目の前にいる。宙に浮いたその身体は、人間とほぼ同じだった。やはり神なのか、神々しい雰囲気を出している。

「テメェか?マダーってのは」

マダーは亮真を見る。

「…如何にも」

落ち着いた、いや、感情の無い声。白い衣を纏い、美しい顔立ちをしている。

「一応聞く、何しに来たか言ってみろ」

すると、

「無礼者め」

マダーは言い放った。しかし、明らかに感情の無い声だった。まるでロボットのようだった。

「近頃の人間は崇拝をも忘れたのか?」

「その通り」

「全く…」

マダーは呆れた様子だった。いや、哀れんでいるのか。わからない表情だった。

「まぁ、別に神無しで生きてるしな、俺ら」

「巫山戯るな」

マダーは少し怒りを露わにした様子で亮真を叱る。

「貴様ら人間が水を、大地を、光を与えてるのは神なのだぞ」

神の怒りというべきか、怒った表情になるマダー。

「証拠はあんの?」

それとは真反対に、亮真は落ち着いた様子でマダーと話していた。

「…私は水、大地、光を司っておらぬ、しかし…」

マダーは地面に降り立つ。そして、亮真を再び見る。

「私が司るのは、"殺人"だ」

マダーは亮真に向けて腕を振り下ろす。勿論それを亮真は回避する。マダーの腕が地面を叩きつける。そして、

地面が陥没した。

その衝撃で、亮真は吹き飛ぶ。

「亮真くん!」

「…神という名は伊達じゃないらしいな」

亮真は刀を取り出した。

「…皆、下がっているんだ」

「亮真、一人でやる気か?」

綾野が聞く。

「一人で、やらせてくれ」

亮真はゆっくりとマダーの元へ向かう。一歩一歩、近付いて行く。

「ほう、私に向かって行くか」

「余裕ぶるのもいつまで持つかな」

少し笑みを浮かばせる亮真。見守る皆は息を呑んで亮真を見ている。すると、突然亮真がマダーに接近する。そして、マダーの首を斬りつけた。

「…やっぱり硬いな」

マダーの首を見ると、血どころか傷一つさえつけていない。それにマダーは攻撃される瞬間、全く避ける動作をしなかった。亮真に刀で斬られてもその刃は己の首に傷をつけることは出来ないという自信の表れだっただろう。

「終わりか?」

マダーは脚で蹴り上げたがその瞬間に亮真は既にマダーの背後を取っていた。その時、亮真の髪は赤色に染まっていた。

「帥曹流 赤水木 元帥」

亮真はマダーを縦に真っ二つにするように斬る。斬撃の威力を上げる『帥曹流 赤水木』だったが、それでもマダーの身体には傷はついていない。

「小賢しい」

マダーは亮真を捕まえようとする。しかし、マダーは亮真の速さについていけていなかった。

「速さだけで勝利出来ると勘違いしているのか?」

亮真を挑発するかのようにマダーは言う。その言葉にも亮真は反応せず、只管に攻撃の機会を伺う。そして、

「帥曹流! 黄日葵! 元帥っ!」

髪を黄色くした亮真がマダーの腹に突きを喰らわす。力を一点に集中させ、力の向きを真っ直ぐにして一直線に衝撃を放つ『帥曹流 黄日葵』だが、一歩か二歩後退させただけでダメージを受けている様子が無い。

(もっと…もっと威力を…!)

「諦めろ、幾ら攻撃しようが傷一つ与えられていないぞ」

マダーは手を翳すと、手から光の球が出てくる。

「高遠亮真!どう見ても当たったらダメなヤツだぞ!」

後ろで嬢子がアドヴァイスをする。光の玉はみるみると大きくなっていく。亮真は嫌な予感というものを感じ取っていた。

「喰らえ!」

マダーは亮真に目掛けて光の玉を放った。避けようとしたが、想像以上に玉の速度が速く、スレスレで避けることが出来た。玉は何処かへ飛んでいった後、消えていった。

「なんだよアレ」

「"死弾"だ」

「わかった、今回は"示談"で」

「貴様は…何処まで間抜けた人間だ」

一人ふざけていた亮真だったが、それを聞いた他の皆には緊張が走っていた。それに、何故亮真はあそこまでふざけれるのか不思議でならなかった。

「死弾って…もし私達が当たっちゃったらどうなっちゃうの…?」

双葉が怯えながら質問をする。マダーは不敵な笑みを浮かべながら答えた。

「死ぬ、それだけだ」

それを聞いて更に緊張が高まる。万が一被弾してしまったら最後、命が無くなるのだ。皆にとっては恐怖でしか無かった。ある男を除いて。

「間抜けみてぇな玉だな」

「全く…」

亮真をみる限り、全く怯えている様子が無かった。余裕そうに、笑顔で居る。そして、髪の色を紫色にしてバックステップを踏んだ瞬間、

「帥曹流 紫桜 元帥」

紫色の閃光がマダーの首を斬りつけた。それでもマダーの首には傷はついていない。『帥曹流 紫桜』は斬撃の威力を上げながら一閃を繰り出す技であり、青躑躅と赤水木が合わさったような技だった。

「これでも無理かよ…」

亮真は苦笑する。

「これ以上無駄な足掻きは止めろ」

マダーは憤りを感じていた。神である自分と戦闘をしている。圧倒的な破壊力も防御力も見せつけてきた。被弾したら簡単に、確実に命を落としてしまう弾も放ったというのに。この男はまるで恐怖や絶望を感じていない。寧ろ…

(楽しんでいる…?)

「そこだ」

「しまっ」

マダーの思考の一瞬の隙を突いて、マダーの真上を取った。そして、誰からも教わってもいない技が頭に浮かび上がった。

「帥曹流 橙薔薇 元帥!」

亮真の髪の色はオレンジ色となっていた。そして、オレンジ色に輝くその刃をマダーの頭に振り下ろした。

「がっ…!」

身体全体に衝撃が走る。そして、耳を斬り裂くそうな爆発音と共に頭を斬られた。

「…やっとだ」

マダーの頭を見ると、少しだけ傷が出来ていた。出血のようなものはしていない。

「貴様…!」

マダーは激怒しているように見える。神の逆鱗に触れるというものは、こういうものなのだろう。

「許さん…生きて返しはしない…!」

バキッ バキバキバキ

マダーから更に腕が生えてくる。三本、四本と次々と生えていった。そして、最終的には腕の数が六本になった。

「貴様は、地獄行きだ」

六本の腕から、光の玉が出てくる。

「怖いか?残念だったな、貴様が私を怒らせたのが悪いのだ」

マダーは勝利を確信した笑顔を見せた。しかし、それでも亮真は笑顔を絶やさない。

「阿呆みてぇ」

亮真がマダーに言い放つ。

「負け惜しみか?」

(此奴…どれだけ私を憤怒させるつもりだ!)

マダーは怒りに満ちていた。こんなにも圧倒的な力を見せつけても、自身に命の危機を味あわせても、それでも笑顔を絶やさない亮真を見て、苛立ちが増していく。すると、亮真がこんなことを言う。

「お前さ、死弾?当てたことある?」

「無い、今まで使う必要が無かったからな」

得意気な顔でマダーが答える。

「その弾、雑魚だね」

その言葉を聞いて、マダーは止まった。今まで怒りに満ちていたマダーであったが、それを通り越したのだろうか。

(何を…言っているんだ?)

疑問が生まれていた。何を言っているのか、どういうつもりなのかが分からなくなっていた。

「命ってさ、なんなんだろうね」

亮真の言葉に手に浮かべていた六つの光の玉を浮かばせながらマダーは呆気に取られていた。

「もし俺が当たったら、俺の命が奪われるのかな」

「当たり前だ」

すると、亮真は言った。

「思ったんだ、もしかして死ぬのは俺じゃなくてさ、俺の『細胞』なんじゃない?」

もはやこの男が何を言っているのか分からなかった。マダーだけでは無い。戦いの様子を見ている皆もだった。

「皮膚細胞一個壊されたところで、痛くも痒くも無いんだよね」

亮真はキッパリと言う。その余裕そうな様子を見ると、マダーは再び怒りが湧き上がっていく。

「巫山戯るな、貴様は…貴様は死ぬのだァ!」

マダーは光の玉を亮真に目掛けて放つ。しかし、先ほどと違うのは、亮真が一切避ける素振りを見せないことだった。

「亮真!避けろ!」

源郎が叫ぶ。しかし、その頃にはもう遅かった。亮真はその光の玉に被弾した。

「間抜けめ!地獄で後悔していろ!」

少し興奮した様子でマダーが亮真に言い放つ。


「間抜けはどっちだろうな」


「…は?」

亮真は相変わらず立っていた。誰の目で見ても、先ほど光の玉に被弾していたはずの亮真が生きていた。

「貴様…何故!」

「だーかーらー」

亮真は少しうんざりしたように言った。

「細胞一個破壊された程度じゃ死なねぇよ」

確かに被弾しているはずだった。しかし、亮真は生きていた。マダーは確信した。

(死弾は…弱い…)

古の時代から生まれて居るはずなのに、自分の持つ死弾に自信を持っていたマダー。それは自分が殺人を司る神であるが故のプライドというものだった。それが、打ち砕かれた。

「首、出せ」

亮真は髪をオレンジ色に染まらす。そして、

「帥曹流 橙薔薇 元帥」

亮真は刀を振り下ろした。



爆発音が鳴り響く。『帥曹流 橙薔薇』とは違う爆発音が。亮真は吹き飛ばされていた。

「…あ?」

亮真は仲間の方へ飛ばされ、上手く着地する。

「親友!無事か?!」

「あぁ、何ともな」

マダーを見ると、手から出している光と同じような光に包まれている。みるみるうちにそれは次第に大きくなっていった。

「亮真さん、死弾は…」

紫雪は心配そうに亮真の安否を確認する。亮真は得意気に言った。

「"プラシーボ効果"だ」

「ぷらしーぼ?」

双葉が首を傾げた。すると、勝彦が言う。

「思い込みってやつだよね」

「そうだが、そろそろマズいんじゃないか?」

ふと見ると、光の高さがそこらにある電柱と同じくらいの大きさになっていく。そして、光に包まれていたマダーが姿を現した。

「…お前…」

「…もう、出し惜しみはせん」

マダーの姿を見る。その下半身は先ほどの人間と同じような脚ではなく、大蛇のようなものになっていた。しかし、重要なのはそこでは無かった。マダーの両手には、二本の刃が握られていた。

「…大剣と太刀」

光を纏ったその大剣と太刀は、やはり神々しさを放っている。亮真は、笑っていた。

「これが、最終決戦ってやつか」

亮真の髪は自然とオレンジ色となる。それを見て、亮真は興奮しているのだと誰もがわかった。

「何ボーっとしてんだ、武器取れ」

亮真は言う。

「良いのか?」

「…」

皆が聞く。

「勿論」

目を見合わせる。そして、一斉に頷いた。

高遠亮真 武器 刀

高遠勝彦 武器 剣

足立綾野 武器 義手

十川新羅 武器 銃

渡辺双葉 武器 槌

中山嬢子 武器 戦斧

佐藤源郎 武器 鉈

宇津礼二 武器 鎖鎌

和泉紫雪 武器 薙刀

「行くぞ」

亮真達は一斉にマダーの元へ走り出す。


「何人来ようが無駄だ」

マダーはその大きな大剣で皆を薙ぎ払うように斬撃を与える。皆は飛んだり屈んだりしながら避ける中、

「帥曹流 青躑躅 元帥」

「帥曹流 白狛犬 元帥!」

それぞれ髪を青、白色にしながら亮真と勝彦は薙ぎ払いが来る前に、青い閃光と白い閃光がマダーに突撃する。しかし、相変わらず効いている様子は無い。

「無駄だと言っただろう」

マダーは亮真と勝彦目掛けて太刀を振り下ろす。左右に避けた後、マダーの後ろから声が聞こえた。

「行けっ!痺れて!」

バチバチと電気を流しながら双葉はマダーの足元で槌を地面に打ちつける。すると、電流がマダーに襲いかかった。

「その尻尾、鬱陶しいのだ!」

電流に気を取られた隙に、嬢子は飛び上がり、戦斧を振り上げる。

「斬れろっ!」

戦斧をマダーのその大蛇のような脚に振り下ろす。しかし、亮真と勝彦と同様に弾かれてしまった。

「鈍らめ」

マダーはその大きな脚で双葉と嬢子を吹き飛ばした。

「双葉!」

綾野が双葉の元へ駆け寄ろうとする。それを、マダーは攻撃のチャンスと見たのだろう。

「まずは貴様らからだ」

大剣を振り下ろす。しかし、横から何か衝撃が加わり、その軌道が外れて間一髪で外した。

「…危ない…」

新羅が背中から出した大砲の弾を大剣に当てて軌道をずらしたのだ。そして、前よりも銃の数が増えていて、10本となっている。

「…射程内…」

新羅はマダーに向けて一斉に射撃を開始した。しかし、やはり効いている様子が無い。

「鬱陶しい、その首、撥ねてやる」

マダーは新羅に太刀で水平に斬りつける。新羅は屈んで避けようとすると、目の前に人影が飛び込んで来て、斬撃を受け止めた。

「…源郎…さん…!」

「すまない、過保護なもんでな」

源郎はその剛腕で攻撃を受け止め、長年の戦いの経験から受け止める型も一流だった。

「ふっ、私は本気を出していないぞ?」

マダーは更に腕に力を込める。すると、源郎の身体がズルズルと押し出されそうになる。すると、

「課長!俺が手伝います!」

「はぁ、こんな時でも騒がしい人です」

礼二が鎖鎌の鎌の部分をマダーに投げる。すると、鎖鎌を巧みに操り、マダーの首を絞めた。

「紫雪!今だ!」

「わかりました…!」

紫雪が礼二が繋いでいる鎖の上を伝って走りながら、マダーの頭へ飛びつく。そして、薙刀で頭に一撃を喰らわした。しかし、亮真がつけた傷のようなものは出来なかった。

「大人しく殺されろ!」

それでも、マダーは首を絞められて苦しそうな様子や、紫雪の斬撃を気にせずに腕に力を込める。源郎は最後の力を振り絞って耐えている。

「「お義父さん!」」

亮真と勝彦がマダーの太刀に刃を振りかざして、受け止める。

「お前ら…」

「僕達がいれば最強だよ!」

三人でマダーの太刀を受け止める。そんな中、一人マダーに突撃している人間がいた。

「マダー!よくも双葉を!」

綾野が礼二が首を絞めている鎖を伝ってマダーの頭へ駆け上る。そして、

「死ね!クソ神が!」

その黒くて大きな義手でマダーの頭を殴りつける。勿論効いてはいなかった。

「ぜっ、たい、に!許さ、ない!」

それでも綾野は殴るのをやめなかった。全ての攻撃一つ一つが渾身の一撃のようなものだった。

「喧しいぞ!」

マダーは綾野を振り下ろそうとする。

太刀は塞がれ、頭は殴り続けられ、首は絞められ、弾丸が常に身体中に襲いかかる。すると、マダーはその巨体を空中に浮かばせた。

「全員纏めて爆ぜろ!」

マダーは手から光の玉を出す。しかし、死弾とはまた違う色をしていた。すると、亮真は無意識に叫んだ。

「皆!逃げろ!」

「遅い!」

マダーは地面に向かって光の玉を発射した。

「伏せろォ!」

光の玉が、地面に着弾した。



不意に、額に冷たいものを感じた。亮真は目を開けようとしたが、今度は目の中に冷たいものが入ろうとしてきた。

「…ん…あ…?」

身体を起き上がらせる。

「…は?」

街が、壊れている。

気付いたら、街がボロボロになっていた。周囲のビル群は崩れ、地面が抉れて土が露出している。

「まずは貴様だ」

真上から声が聞こえる。亮真は咄嗟に回避する。すると、先ほどまで寝ていた場所に太刀が突き刺さっていた。

「…やはり避けるか」

「…テメェ…」

とてつもなく嫌な予感がした。次第に雨がポツポツと降ってくる。それでも、亮真の中にある熱は冷ますことを知らなかった。亮真の髪は真っ赤に染まる。

「殺す」

「それは私の役目だ」

亮真はマダーに斬りかかる。しかし、やはりダメージは負っていなかった。ただ、何となく傷がついている気がした。

「怒りの力…か」

亮真は間違いなく感情的になっていたが故に、攻撃を仕掛けている間に避けることや守ることを忘れてしまっているようだ。

「くたばれ」

マダーは隙を突いた。亮真は遠くに吹き飛ばされる。

「…化け物かy」

起き上がろうとしたその瞬間、亮真は見た。

「…双葉…?」

双葉が、血を流して倒れていた。全身に青いような赤いような痣が出来ていた。

「双葉…?双葉!」

一向に起きる気配が無い。そして、よく見ると綾野や新羅も血を流して倒れていた。

「その顔だ」

マダーが亮真の指を差しながら、言った。

「貴様と戦っている間、その絶望をした顔、私はそれをずっと望んでいた」

何を言っているのだろう。

「貴様も、すぐ仲間のいる地獄へ連れて行ってやろう」


"殺せ"


亮真の髪の色が、段々と白色に変わる。その目、その顔、何もかもがどうでも良くなった。ただ一つを除いて。

「…殺す」

(殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す)


マダーの目の前から亮真が消えた。

「どこにいっ」

首筋に痛みが走る。

(なっ…)

考える暇も無く視界が奪われる。

(目がい…)

痛む暇も無く、次々と全身に激痛が走った。

「…かっ」

マダーは只管大剣と太刀を振り回す。しかし、手応えが全く無い。

(何が…)

マダーの意識は、ここで消えた。



マダーが倒れている。しかし、亮真はその手を止めることなく斬撃を放つ。血飛沫が雨と混ざり合う。それでもまだ、斬り続ける。

辺りは段々と暗くなっていく。雨空だからか、眩しい斜陽は見えない。そして、真っ暗になっても亮真はマダーを斬りつける。

マダーの瞳孔が開きっぱなしになっている。マダーの心臓の鼓動は止まっている。それでも亮真は斬り続けた。




冬休み

あの事件から数日が経った。怪物課の人々が現場に向かったが、マダーの死骸はいつの間にか消えていたらしい。しかし、それと同じく別の問題が起きていた。

「高遠亮真16歳、行方不明…か」

病室の中でスマホを見ていた綾野が言う。その隣のベッドには、双葉が横たわっている。

「亮真くん…」

冬の午後、太陽が眩しい病院の部屋の中だが、暗い雰囲気に包まれていた。


亮真の行方は…

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